出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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不安神経症(全般性不安障害)
ふあんしんけいしょう(ぜんぱんせいふあんしょうがい)

不安神経症(全般性不安障害)とは?

どんな病気か

 不安を主症状とする神経症を、不安神経症といいます。

 不安は漠然とした恐れの感情で、誰でも経験するものですが、はっきりした理由がないのに不安が起こり(あるいは理由があっても、それと不釣り合いに強く不安が起こり)、いつまでも続くのが病的な不安です。不安神経症では、この病的な不安がさまざまな身体症状を伴って現れます。

 なお、国際疾病分類などでは「神経症」という用語はすでに正式な診断名としては使われなくなっており、従来の不安神経症にあたる診断名は、現在では「パニック障害」か「全般性不安障害」です。

 パニック障害は急性・突発性の不安症状が特徴ですが、全般性不安障害は慢性の不安症状が長く続くのが特徴です。パニック障害については次項で述べるので、ここでは全般性不安障害について解説します。

原因は何か

 一般に、神経症の原因は心理的な出来事(心因)とされていますが、実際にはそのような出来事がみられないこともしばしばあります。全般性不安障害の場合も、何らかの精神的なショック、心配ごと、悩み、ストレスなど、精神的原因と思われる出来事のあることもありますが、まったくないこともあり、また、過労、睡眠不足、かぜひきなど、一般的な身体的悪条件がきっかけで発症することもあります。日常生活上のさまざまなストレスを背景に、いつのまにか発症しているというのが普通です。

 全般性不安障害はもともと神経質で不安をもちやすい性格の人に多くみられ、女性に多く、男性の倍以上といわれています。

症状の現れ方

 慢性的な不安、過敏、緊張、落ち着きのなさ、イライラ、集中困難などの精神症状と、筋肉の緊張、首や肩のこり、頭痛・頭重、震え、動悸、息苦しさ、めまい、頻尿、下痢、疲れやすい、不眠(寝つきが悪い、途中で目が覚める、眠りが浅い)などの多様な身体症状(いわゆる不定愁訴)がみられます。

 何かにつけて過度の不安・心配がつきまとい、それが慢性的に続く(診断基準では6カ月以上)のが特徴で、不安は種々の精神・身体症状を伴っています。多くの患者さんは身体症状のほうを強く自覚し、どこか体に異常があるのではないかと考え、あちこちの病院で診察や検査を受けるのが常ですが、症状の原因になるような身体疾患はみられません。

 経過は慢性で、日常生活のストレスの影響を受け、よくなったり悪くなったりしながら多くの場合何年にもわたって続きます。途中から、気分が沈んでうつ状態となり、うつ病に移行することもあります。また、アルコールで不安をまぎらわそうとして、アルコール依存症に陥ることもあります。

検査と診断

 診断は、先に述べた症状と経過の特徴からなされ、検査で特別な異常はみられません。身体疾患を除外するための検査(尿、血液、心電図、X線、超音波など一般内科的検査)が行われ、これらの検査で症状に見合う異常が見つからない場合に診断が確定します。

治療の方法

 薬物療法と精神療法があります。

 薬物としては、抗不安薬(ベンゾジアゼピン誘導体:セルシンなど、タンドスピロン:セディールなど)が用いられ、症状と関連のある日常生活上の悩みやストレスについて、医師に相談しアドバイスを受けるなどの精神療法が行われます。

 ベンゾジアゼピンは連用すると依存症になりやすいので、最小限にとどめ、アルコールと併用しないようにしなければなりません。うつ症状を合併する場合は抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬〔デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト〕 など)が用いられます。深呼吸や筋弛緩を用いたリラクセーション法や、有酸素運動は有効で、自分で行うことができます。

病気に気づいたらどうする

 さまざまな身体的自覚症状のために内科などを受診し、検査を受け、異常がないとわかったら、精神科か心療内科を受診しましょう。

 不安神経症(パニック障害または全般性不安障害)と診断されたら、気のせいなどではなく不安の病気と受けとめ、信頼できる医師のもとで根気よく治療を続けてください。症状の完全な消失がなくても、少しでもよくなったら、そのぶん前向きに生活していく考え方が必要です。ドクター・ショッピング(医師や病院をわたり歩く)や民間療法、健康食品などへの過度の依存はやめましょう。家族など周囲の理解も重要です。

不安神経症(全般性不安障害)と関連する症状・病気

(執筆者:帝京大学名誉教授 竹内 龍雄)

神経症に関連する可能性がある薬

医療用医薬品の添付文書の記載をもとに、神経症に関連する可能性がある薬を紹介しています。

処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

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 自殺を例にとるならば、自殺行動は、絶望感にとらわれやすくて、衝動性・攻撃性の高まりやすい傾向のある人に、こころの病気や人生の危機が重なると起こりやすくなります。警察庁の統計によると、自殺の原因はこころの病気を含む「健康問題」が最も多く、「経済・生活問題」「家庭問題」「勤務問題」などがあげられますが、自殺の事例を検討してみると、これらの要因が重なるなかで自殺が発生していることがわかります。自殺の原因・動機はさまざまですが、自殺は、私たちの社会の有り様を示す鏡かもしれません。

 平成18年に議員立法として成立した自殺対策基本法は、自殺予防のための総合的な対策に、社会全体で取り組むことを求めています。そして基本理念として、

①社会的な取組として実施する

②自殺の実態に即して実施する

③事前予防、危機対応、不幸にして自殺が起こったときの遺族などのケアの各段階に応じて実施する

④さまざまな機関や団体の密接な連携のもとで実施する

ことをあげています。

 これらの理念は、WHO(世界保健機関)が「自殺は大きな、しかしその多くが防ぐことができる社会的な問題である」と明言したことを踏まえたものです。

コラムマスコミと自殺防止

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 ある人物の自殺が他の複数の自殺を引き起こす現象は「群発自殺」と呼ばれています(高橋、1998、2006)。たとえば、1986年4月にはアイドル歌手岡田有希子さんの自殺が大々的に報じられ、その後の2週間に青少年の後追い自殺が約30件続きました。そのほとんどが歌手と同じく、高所からの飛び降りで亡くなっていて、手段も模倣されていました。

 この年には、いじめ自殺が大きく取り上げられたこともあり、青少年の自殺が前後の年に比べて約4割も増加してしまいました。最近では、インターネット自殺、硫化水素自殺なども群発自殺の一例といえるでしょう。

 このように、センセーショナルな報道がハイリスクの人の自殺の引き金になりかねない一方で、適切な報道が自殺予防につながることも事実です。そこで、世界保健機関は自殺報道に関して次のように提言しています(WHO、2008)。要するに自殺そのものだけではなく、予防に力点を置いた報道の必要性を強調しているのです(なお、括弧内は筆者が補足しました)。

①報道を通じ、一般の人々に自殺や自殺予防に関する正しい知識を伝える

②自殺をセンセーショナルに表現したり、正常な行為であるといった表現をしたり、あるいは問題解決の方法として伝える言葉はひかえる

③自殺の記事を目立つ位置に配置したり、過剰に報道を繰り返したりしない(たとえば、新聞の一面や、テレビのトップで扱わない)

④自殺の手段を詳細に伝えない

⑤自殺の場所を詳細に伝えない

⑥見出しに配慮する(見出しに「自殺」を使わないようにする)

⑦写真や映像を使う際には十分に注意する

⑧著名人の自殺報道には特別の注意が必要である

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⑩危機に際してどこで援助を得られるかについての情報を提供する

⑪ジャーナリスト自身も自殺報道によって影響を受ける危険性を認識し、サポート体制を築いておく必要がある

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