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高血圧の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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高血圧とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 血圧とは、心臓から送りだされた血液が動脈の血管内壁を押す圧力のことです。この血管にかかる圧力が正常よりも強くなった状態を高血圧といいます。

 心臓は、収縮と拡張をくり返して血液を送りだしているため、血圧は心臓の収縮、拡張に応じて上がったり下がったりします。動脈の血圧が心臓の収縮により最高に達したときの値が「収縮期血圧(最高血圧)」、心臓の拡張により最低に達したときの値が「拡張期血圧(最低血圧)」です。ちなみに、上の血圧といわれるのが「収縮期血圧」、下の血圧といわれるのが「拡張期血圧」です。たまたま測った血圧が高いときには血圧が高いといえますが、高血圧とはいえません。くり返し測って最高血圧が140以上、あるいは、最低血圧が90以上のときに高血圧といいます。

 高血圧そのものにはほとんど症状がないため、自分が高血圧であるという自覚のないまま放置される場合も少なくありません。しかし、高血圧が恐いのは生命にかかわる重大な病気を引きおこすことです。高血圧状態が長く続くと、血管の壁は常に張りつめた状態になり、だんだん厚く、しかも硬くなります。これが高血圧による動脈硬化で、この動脈硬化は、大血管にも、小血管にもおこり、脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、腎硬化症、心筋梗塞、眼底出血などを引きおこします。

 また、心臓は高い血圧を維持することを強いられ、心臓肥大から心不全にいたることもあります。こうした合併症を予防するためには、高血圧にならないように注意し、すでに高血圧の人は血圧を正常値に戻すことが必要です。そのため、定期的な健康診断などによって高血圧を早期に発見することが大切です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 高血圧には、原因となる病気がある「二次性高血圧」と、原因が特定できない「本態性高血圧」の2種類があり、わが国では高血圧の9割以上が本態性高血圧です。

 二次性高血圧の原因となる病気でもっとも多いのが、「急性腎炎」、「慢性腎炎」、「腎血管性高血圧」など腎臓の病気です。また、「原発性アルドステロン症」、「クッシング症候群」など内分泌系の病気もその原因となります。これら原因のはっきりした高血圧は、まずその病気の治療を行います。

 本態性は原因を特定できないものですが、体質(遺伝)や肥満、塩分のとりすぎ、お酒の飲みすぎ、運動不足などの生活習慣が大きくかかわっていると考えられています。ですからこれらの生活習慣の改善は予防、治療の両面から必ず行う必要があります。

病気の特徴

 厚生労働省が2001年に発表した「第5次 循環器疾患基礎調査結果の概要」によると、30歳以上の男性の51.7パーセント、女性の39.7パーセントが高血圧(最高血圧140以上または最低血圧90以上)に該当し、ともに高年齢者層ほど高血圧の人の割合が多くなるとしています。10年前に比べ増加しており、とくに最近では若年層に高血圧が増加していることが問題となっています。

診断と分類

 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2000年版では、表のように、高血圧は血圧の値により、「軽症高血圧」「中等症高血圧」「重症高血圧」に分類するとともに、収縮期血圧が140以上または、拡張期血圧が90未満は収縮期高血圧に分類し、また、正常値血圧は理想的な血圧である「至適血圧」と、高血圧に近い「正常高値血圧」、それにその中間の「正常血圧」の3段階に分類しています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
二次性高血圧か本態性高血圧かの判別を行う ★2 腎臓や内分泌系の病気、薬物などによって高血圧となっている場合は、その原因への対応が優先されます。原因がはっきりしない本態性高血圧との区別は重要です。臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
二次性高血圧の場合は原因となっている病気の治療を行う ★2 高血圧の原因になっている病気の治療を行うのは当然のことと考えられ、専門家の意見や経験から支持されています。
本態性高血圧の場合は高血圧以外の動脈硬化を促進する要因がないかを検討する ★2 動脈硬化を促進する要因には喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満、運動不足などがあります。これらの危険因子がある場合は、軽症高血圧であっても動脈硬化になる危険性が高くなるため、経過観察や薬物療法が早期に必要になる場合があります。これらのことは専門家の意見や経験から支持されています。
本態性高血圧の場合は軽症、重症にかかわらず生活習慣の改善を行う 塩分を制限する ★5 食塩の過剰摂取は血圧を上昇させます。食塩の摂取量を減らすと血圧は低下します。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。日本高血圧学会のガイドラインでは食塩の摂取量を1日7グラム以下としています。 根拠(1)(2)(8)
肥満の場合は減量する ★3 肥満は血圧を上昇させるので、肥満であれば体重を減量します。肥満を解消すると血圧が低下することは、臨床研究によって確認されています。適正体重としてBMI指数22が理想とされています。 根拠(3)(8)
お酒は適量に節酒する ★3 過剰な飲酒は血圧を上昇させるので、適切な飲酒量(日本酒だと1日約1合)を超えないようにします。このことは臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)(6)~(8)
脂肪(とくに動物性)のとりすぎに注意する ★2 動物性脂肪に含まれるコレステロールや飽和脂肪酸は、動脈硬化を促進する危険因子なのでとりすぎないよう注意が必要です。高血圧に高脂血症を伴う場合はコレステロール値を適正に保つようにします。このことは専門家の意見や経験によっても支持されています。 根拠(8)
適度な運動をする ★3 適度な運動を続けると血圧が低下することは臨床研究によって確認されています。適度な運動は体重をコントロールし、健康状態をよりよい状態に保ちます。ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分は行います。このことは専門家の意見や経験によっても支持されています。 根拠(5)(8)
禁煙する ★5 喫煙は動脈硬化を促進する危険因子なので、当然禁煙します。 根拠(1)
生活改善で効果がみられない場合は薬物療法を行う ★5 高血圧治療のガイドライン(日本高血圧学会)に沿って、食事の改善や運動の習慣化によっても目標血圧まで低下しなかったり、動脈硬化になっている可能性が高い場合は薬物療法を開始します。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(6)~(8)
定期的な血圧測定を行う ★2 血圧は家庭および医療機関で定期的に測定し、その状態に合わせて、食事や運動の方法、薬物療法の開始時期などの修正を行います。このことは専門家の意見や経験によって支持されています。 根拠(6)~(8)
血圧を上昇させる作用のある薬を服用していないかチェックする ★2 糖質コルチコイド、グリチルリチン、一部の漢方薬、エストロゲン、非ステロイド抗炎症薬などは血圧を上昇させることがあります。服薬によって血圧が上昇している可能性がないかをチェックします。このことは専門家の意見や経験によって支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

カルシウム拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ノルバスク/アムロジン(ベシル酸アムロジピン) ★5 カルシウム拮抗薬の血圧を下げる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。血圧を下げる効果にすぐれ、適応範囲が広く、日本ではもっとも使われている薬です。カルシウム拮抗薬には、数種類あり効果の程度と効果が持続している時間に差があり、症状に応じて使い分けられます。心不全の患者さんには好ましくありません。 根拠(6)~(8)

ACE阻害薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
タナトリル/ノバロック(塩酸イミダプリル) ★5 ACE阻害薬の血圧を下げる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。血圧を下げる効果はカルシウム拮抗薬に比べやや穏やかですが、脂肪がついて厚くなった血管の改善や臓器を保護する作用もあります。20~30パーセントの人にせきがでるのが難点です。 根拠(6)~(8)

AII受容体拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ニューロタン(ロサルタンカリウム) ブロプレス(カンデサルタンシレキシチル) ★5 AII受容体拮抗薬の血圧を下げる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。血圧を下げる効果、臓器を保護する作用はACE阻害薬と同じ程度ですが、せきの副作用がないのが特徴です。日本ではカルシウム拮抗薬についでよく用いられる薬です。 根拠(6)~(8)

利尿薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ナトリックス/テナキシル(インダパミド) ★5 2003年に発表された最新のアメリカ合同委員会の高血圧治療ガイドラインによれば、高血圧の治療薬として利尿薬が第一選択薬で、患者さんの状態に応じてそれ以外の薬を第二選択として併用するという方針が推奨されています。これは30あまりの大規模臨床試験の結果に基づいてつくられたガイドラインで非常に信頼性の高いものです。心不全の改善、脳梗塞や脳出血などの予防効果も明らかになっています。しかし、利尿薬は低カリウム血症、高尿酸血症、高脂血症の危険性や糖尿病の悪化といった副作用があり、日本ではそれほど頻繁には使われていません。各種降圧薬の効果については、現在わが国でも大規模臨床試験が行われており、その結果が待たれるところです。 根拠(6)~(8)(9)

β遮断薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テノーミン(アテノロール) ★5 β遮断薬の血圧を下げる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。心筋梗塞や狭心症や頻脈(脈が速い状態)がある患者さんの高血圧に使われます。副作用としては徐脈(脈が遅くなる)、心ブロック(心臓のリズム障害)、ぜんそくの悪化があげられます。お年寄りには適しません。 根拠(6)~(8)
アーチスト(カルベジロール) ★5

α遮断薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
カルデナリン(メシル酸ドキサゾシン) ★5 α遮断薬の血圧を下げる効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。糖尿病や高脂血症を改善する効果もあり早朝に血圧が上がるタイプの高血圧によく使われます。副作用としては低血圧があげられます。心不全がある場合は好ましくありません。 根拠(6)~(8)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

生命を左右する危険な病気を招く高血圧

 高血圧は、血圧が高いことそれ自体が問題というよりも、長年血圧が高いままだと動脈の壁に動脈硬化性の変化が現れ血管がつまったり、破れたりすることによって深刻な病気を招く危険性が高くなるということがより重要な点です。すなわち、動脈硬化によって引きおこされうる病気を防ぐために、血圧をあるレベルまで下げる必要がでてくるのです。したがって、高血圧の患者さんでは、高血圧以外の動脈硬化を促進する要因(喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満など)があるかどうかに配慮することが非常に重要になってきます。

生活習慣の改善から治療を開始する

 高血圧は、わが国を含め、先進諸国では重大な問題であり、長年にわたって非常に多くの信頼性の高い研究が行われてきたテーマです。そのために、高血圧は、もっとも信頼できる根拠に基づいて治療ができる病気の一つと考えられます。

 治療は、生活習慣の改善から開始されます。塩分をひかえる、肥満を解消する、アルコールをひかえる、禁煙などを、一定期間実行しても血圧が目標値に下がらなかった場合や、高血圧以外の動脈硬化を促進する要因をたくさんもっている患者さんには薬物療法を開始します。

血圧を下げる薬はどれも効果が確認されている

 血圧を下げ長期的に心臓や血管の病気を予防することが確認されている降圧薬は数多くあります。患者さんごとに、年齢、高血圧の重症度、どのような合併症をもっているのかなどを総合的に考えて薬を選びます。

 最近のアメリカ合同委員会のガイドラインでは、できるだけ利尿薬を第一選択薬として用いることを推奨しています。最近では世界的に、ACE阻害薬やAII受容体拮抗薬、カルシウム拮抗薬を最初に用いることが多くなっていますが、β遮断薬やα遮断薬、利尿薬などをうまく用いれば、効果的で安全な血圧のコントロールと動脈硬化の進展が予防できるはずです。

 動脈硬化の予防を徹底するために、血圧のコントロール以外にも、高脂血症の改善(低コレステロール食、服薬)、糖尿病のコントロール(適切なカロリーの食事、運動、服薬)、血液が固まらないよう抗血小板薬のアスピリン製剤の服用などが標準的な診療となってきています。わが国でははじめての大規模な臨床試験が現在行われており、その結果がまとまることで、さらに信頼性の高い根拠が集積され、わが国に即した治療法が確立されることが期待されます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Stamler J. The INTERSALT Study: background, methods, findings, and implications. Am J Clin Nutr. 1997;65:626S-642S.
  • (2) Cutler JA, Follmann D, Allender PS. Randomized trials of sodium reduction: an overview. Am J Clin Nutr. 1997;65:643S-651S.
  • (3) Stamler J, Caggiula AW, Grandits GA. Relation of body mass and alcohol, nutrient, fiber, and caffeine intakes to blood pressure in the special intervention and usual care groups in the Multiple Risk Factor Intervention Trial. Am J Clin Nutr. 1997;65:338S-365S.
  • (4) Miyao M, Furuta M, Sakakibara H, et al. Analysis of factors related to hypertension in Japanese middle-aged male workers. J Hum Hypertens. 1992;6:193-197.
  • (5) Kiyonaga A, Arakawa K, Tanaka H, et al. Blood pressure and hormonal responses to aerobic exercise. Hypertension. 1985;7:125-131.
  • (6) The sixth report of the Joint National Committee on prevention, detection, evaluation, and treatment of high blood pressure. Arch Intern Med. 1997;157:2413-2446.
  • (7) 1999 World Health Organization-International Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension. Guidelines Subcommittee. J Hypertens. 1999;17:151-183.
  • (8) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン2000年版. 2000.
  • (9) Chobanian AV, Bakris GL, Black HR, et al. The Seventh Report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure: the JNC 7 report. JAMA. 2003;289:2560-2572.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行