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閉塞性動脈硬化症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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閉塞性動脈硬化症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過


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 閉塞性動脈硬化症は、おもに手足、とくに足の動脈が、動脈硬化によって狭まり血流が悪くなるためにおこる病気です。

 手足が冷える、歩いているときに足がしびれる、足が蒼白に変色するといった症状が現れます。とくに、足が痛んで歩けなくなり、しばらく休むと再び歩くことができるようになるといった独特の症状がみられます。これを間欠性跛行といいます。

 痛みは太ももの外側やお尻などによくみられます。進行すると、足のつま先などの細胞が死んでしまう壊死を生じることがあります。重症の場合は足を切断しなければならなくなります。なによりも、早期の対応が大切です。

 狭心症や心筋梗塞、腎臓病、脳血管障害といった動脈硬化によっておこるさまざまな病気や、糖尿病、高脂血症などの合併がしばしばみられますので、これらの病気の管理を十分に行う必要があります。

 症状は4つの段階に分類されています(フォンテイン分類。)。無症状かしびれ程度(I度)の症状から、歩行時に足の筋肉の痛みや疲労感、間欠性跛行がみられる(II度)、安静時にも強い痛みがある(III度)、下肢の筋肉や皮膚の壊死、潰瘍ができる(IV度)の4段階で、各段階ごとに治療の方針が決まってきます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 動脈硬化が原因なので、ほかの動脈硬化を主原因とする病気、たとえば狭心症や心筋梗塞の場合と同様、糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、喫煙などの要因をたくさんもっていればいるほどこの病気を発症する可能性は高まります。

病気の特徴

 主として50歳代以降の男性に多くみられます。患者数は増加する傾向にあって、欧米型の食生活などの影響から若い人にもみられるようになってきています。女性には少なく、男性が80~90パーセントを占めています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
禁煙する ★3 禁煙によって、足を切断しなければならない例や、運動時や安静時の強い痛みが減少することがいくつかの臨床研究で示されています。 根拠(1)
体を冷やさない、外傷を受けないなどに気を配る ★2 臨床研究で確認されているわけではありませんが、専門家の意見や経験から血行が悪くなっていたり感覚麻痺などの異常がおこっている足に対して、患者さんがセルフケアを行うことは大切であると考えられています。
高脂血症を併発している場合は治療を行う ★3 血中の脂質濃度を下げることによって、閉塞性動脈硬化症の進行を遅らせることができることが、いくつかの臨床研究で確認されています。 根拠(3)
糖尿病、高血圧を併発している場合はそれらの治療を行う ★2 糖尿病、高血圧の治療が閉塞性動脈硬化症の進行に影響を与えるかどうかを明確にした臨床研究は見あたりません。ただし、いずれも動脈硬化の危険因子であるため、アメリカ心臓協会などのガイドラインでは治療することが推奨されています。 根拠(2)
潰瘍、壊死部分は消毒する ★2 潰瘍や壊死部分が細菌などに感染すると、さらに悪化したり足の切断の原因になったりすることが、経験的にわかっているのでしっかり消毒する必要があります。
痛みが激しい場合は神経ブロックを行う ★2 ほかの治療で痛みが十分とれない場合は神経ブロックを行うことがあります。これによって痛みが軽減し、血流が改善すると考えられています。
血管拡張薬、抗血小板薬を中心にした薬物療法を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によれば、すべての患者さんにアスピリン、塩酸チクロピジンなどの抗血小板薬が推奨されています。また、血管拡張薬であるジピリダモールと併用することも推奨されています。 根拠(4)~(6)
外科的にバイパス術もしくは血管形成術を行う ★3 バイパス術により症状の改善が認められ、術後再び血管が狭まる確率も低くなることが臨床研究で示されています。とくに70歳以下で糖尿病にかかっていない患者さんでの成績がよいことが示されています。バイパス術は動脈のつまっているところより下の部分と動脈とを、人工血管や自分の別の部位の血管でつなぎ、血行を改善させるものです。また、部位によっては、血管形成術が行われます。血管形成術は血管内に細い管(カテーテル)を通し、つまったところを風船で膨らませ、開通させる方法です。 根拠(7)
適切な運動を行う ★3 可能な範囲で積極的に歩くことが臨床研究によって推奨されています。 根拠(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

血管拡張薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プロサイリン/ドルナー(ベラプロストナトリウム) ★2 ジピリダモールとアスピリンを併用することで、強い痛みと安静時の血流が改善したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。そのほかの薬は専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(5)
オパルモン/プロレナール(リマプロストアルファデクス) ★2
ペルサンチン/アンギナール(ジピリダモール) ★5

抗凝固薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ワーファリン(ワルファリンカリウム) ★5 バイパス術のあと、バイパス血栓を発症する危険性のある患者さんに対して、ワルファリンカリウムを単独で用いるか、またはアスピリンと併用することが推奨されています。このようにバイパス術後の効果については非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(9)

抗血小板薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
バイアスピリン(アスピリン) ★5 アスピリンや塩酸チクロピジンにより強い痛みや歩行距離などの症状、さらに血流が改善したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。そのほかの薬については専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(4)(5)(6)
パナルジン(塩酸チクロピジン) ★5
プレタール(シロスタゾール) ★2
アンプラーグ(塩酸サルポグレラート) ★2
エパデール/ソルミラン(イコサペント酸エチル) ★2

静脈注射で投与する薬剤

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プロスタンディン(アルプロスタジルアルファデクス) ★5 アルプロスタジルアルファデクスやアルプロスタジルによって歩行距離が延び、生活の質が改善したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。この薬はすぐに不活化するので血管内に投与する必要があります。そのほかの薬については専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(10)
リプル/パルクス(アルプロスタジル) ★5
ノバスタン/スロンノン(アルガトロバン) ★2
デフィブラーゼ(バトロキソビン) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

足の動脈硬化が原因

 手足が冷える、歩いているときに足がしびれる、といった症状が現れる病気で、おもに足の動脈が動脈硬化によって狭くなったり、血栓がつまったりすることによっておこります。動脈硬化が原因となる病気ですので、この病気の人では動脈硬化の要因(高脂血症、糖尿病など)や危険因子(喫煙、運動不足など)を複数もっているケースが多くみられます。

 喫煙者、糖尿病や高血圧の人、高脂血症(とくに高コレステロール症)の人では、それらの治療を積極的に行うことが原則です。

まずは禁煙すること、そして、積極的に歩くといい

 基本的な生活上の注意としては、まず禁煙することです。また、動脈硬化が進展している患部に冷たい風があたらないように気をつけること、外傷を受けないように、そして常に清潔を保つこと、可能な範囲で積極的に歩くことなどがあげられます。

痛みが強い場合は持続硬膜外麻酔

 局所療法として、虚血性潰瘍・壊死部分には消毒薬(イソジン、ヒビテン)を溶かしたぬるま湯、もしくは強酸性水による洗浄が有効と考えられています。痛みが非常に激しい場合は持続硬膜外麻酔(硬膜外ブロック)を考慮するのがいいでしょう。

薬物療法も有効

 抗血小板薬や血管拡張薬については、痛みの少ない限局性潰瘍、間欠性跛行、フォンテイン分類I度の場合では経口薬を服用し、安静時疼痛、激しい痛みを伴う潰瘍、壊死や急性増悪期には静脈注射を行います。

バイパス術や血管形成術もある

 外科療法にはバイパス術と切断術があります。部位的に可能ならば、カテーテルを用いた血管形成術(風船療法とステント留置)も行われます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Girolami B, Bernardi E, Prins MH, et al. Treatment of intermittent claudication with physical training, smoking cessation, pentoxifylline, or nafronyl: a meta-analysis. Arch Intern Med. 1999;159:337-345.
  • (2) Smith SC Jr, Blair SN, Bonow RO, et al. AHA/ACC Scientific Statement: AHA/ACC guidelines for preventing heart attack and death in patients with atherosclerotic cardiovascular disease: 2001 update: A statement for healthcare professionals from the American Heart Association and the American College of Cardiology. Circulation. 2001;104:1577-1579.
  • (3) Leng GC, Price JF, Jepson RG. Lipid-lowering for lower limb atherosclerosis (Cochrane Review). In: The Cochrane Library, Issue 3, 2003. Oxford: Update Software.
  • (4) Collaborative meta-analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ. 2002;324:71-86.
  • (5) Libretti A, Catalano M. Treatment of claudication with dipyridamole and aspirin. Int J Clin Pharmacol Res. 1986;6:59-60.
  • (6) Hsia J, Simon JA, Lin F, et al. Peripheral arterial disease in randomized trial of estrogen with progestin in women with coronary heart disease: the Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study. Circulation. 2000;102:2228-2232.
  • (7) Zannetti S, L'Italien GJ, Cambria RP. Functional outcome after surgical treatment for intermittent claudication. J Vasc Surg. 1996;24:65-73.
  • (8) Gardner AW, Poehlman ET. Exercise rehabilitation programs for the treatment of claudication pain. A meta-analysis. JAMA. 1995;274:975-980.
  • (9) Jackson MR, Clagett GP. Antithrombotic therapy in peripheral arterial occlusive disease. Chest. 2001;119(1 Suppl):283S-299S.
  • (10) Belch JJ, Bell PR, Creissen D, et al. Randomized, double-blind, placebo-controlled study evaluating the efficacy and safety of AS-013, a prostaglandin E1 prodrug, in patients with intermittent claudication. Circulation. 1997;95:2298-2302.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行