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逆流性食道炎/食道潰瘍の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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逆流性食道炎/食道潰瘍とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 胃液や胆汁がなんらかの原因で食道に逆流して、食道の粘膜に炎症(びらん)がおこる病気のことを逆流性食道炎といいます。また、粘膜が深く傷ついた状態になった場合は食道潰瘍といいます。

 食事のあとに胸やけをおこすのが典型的な症状で、とくに脂っこいものや柑橘類を食べるとおこしやすいのが特徴です。このほか、食べ物を飲み込むときに、胸骨のうしろあたりに痛みを感じたり、固いものを食べたときに、食道の上部がつまったような感じになることもあります。

 最近は内視鏡で調べた結果、明らかな粘膜のびらんがなくても、胃酸の逆流があって、胸やけなどの典型的な症状を示すものを胃食道逆流症(GERD)と呼んでいます。この場合も、治療は逆流性食道炎に準じて行います。なお、逆流性食道炎も含めて、胃食道逆流症と呼ぶこともあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 逆流性食道炎や食道潰瘍の原因には、さまざまなものがあります。

 ①上気道炎などの感染症の原因となる細菌が食道に降りてきておこるもの、②胃酸の逆流などによる化学的刺激によるもの、③過度の飲酒や極端に熱いもの・冷たいものを食べるといった物理的な刺激によるものなどがあります。

 このほか、薬剤が食道内に滞留したり、放射線照射によるものなど、原因はさまざまです。

 お年寄りでは食道と胃のつなぎ目(噴門部)の括約筋がゆるくなって、胃酸が逆流しやすくなっていることがしばしばあります。また、人間の胃のなかに住んでいて、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因ともなる細菌ヘリコバクター・ピロリを除菌すると、逆流性食道炎を発症しやすくなることがわかっています。

病気の特徴

 わが国では18歳以上の人で10パーセント、40歳以上の人で20パーセントの人が、ときどき逆流性食道炎をおこしているとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
食生活の改善をはかる ★2 暴飲暴食、脂肪の多い食べものやオレンジなどの柑橘類をたくさん食べる、多量の酒を飲むなど、どれも、下部食道括約筋をゆるめてしまうため、逆流性食道炎につながります。すべてをやめてしまおうとするのではなく、そのなかで、もっとも原因となりそうなものを控えるほうがよいでしょう。また、喫煙は唾液分泌を抑えてしまうためよくありません。唾液が胃酸を中和し症状を抑える効果を減少させてしまいます。これらのことについては、専門家の意見や経験から支持されています。
腹部を圧迫する姿勢を長時間続けない。コルセット、ガードルをやめる ★2 臨床研究は見あたりませんが、経験上、症状をやわらげるようです。
胃からの排出が遅れる食物は避ける ★2 臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
胃酸分泌を抑制する薬を用いる ★5 逆流性食道炎に対してもっとも効果のある治療で、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)
ほかの病気の治療薬が原因になっている場合は薬を変更する ★3 下部食道括約筋の緊張をゆるめてしまうと思われる薬剤(カルシウム拮抗薬、テオフィリン、β刺激薬など)が原因と思われる場合は、変更してもよいということが、臨床研究によって確かめられています。 根拠(2)~(4)
食後にすぐ就寝することは避ける ★2 就寝の前の飲食を避けること、食後にはすぐに横にならないようにしましょう。横になる場合は頭を上げた状態で寝るようにするとよいでしょう。こうしたことについては、専門家の意見や経験から支持されています。
逆流防止手術を行う ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によると、開腹手術をして胃底部に逆流防止の皺襞をつくることで、内服薬よりも症状や粘膜の状態が改善したと報告しています。また、開腹手術に比べて腹腔鏡下の手術のほうが手術に伴うさまざまな合併症をおこす割合が少ないことも示されています。 根拠(19)(20)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

酸分泌抑制薬/H2受容体拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
タガメット(シメチジン) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(5)(6)(7)
ザンタック(塩酸ラニチジン) ★5
ガスター(ファモチジン) ★5

酸分泌抑制薬/プロトンポンプ阻害薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
オメプラール/オメプラゾン(オメプラゾール) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(8)(9)(10)
タケプロン(ランソプラゾール) ★5
パリエット(ラベプラゾールナトリウム) ★5

胃腸機能調整薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プリンペラン(メトクロプラミド) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によると、胸やけに対して約60パーセントの人で効果を認めたと報告しています。しかし、ほかの研究ではH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬と比較すると効きは弱いとしています。 根拠(11)(12)
ナウゼリン(ドンペリドン) ★4 信頼性の高い臨床研究で、胸やけなどの症状に効果があることが確認されていますが、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬と比較すると効きは弱いとしています。 根拠(13)(14)

粘膜防御因子増強薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アルサルミン(スクラルファート) ★5 スクラルファートについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。アルギン酸ナトリウムについては専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(15)~(18)
アルロイドG(アルギン酸ナトリウム) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

禁煙し、暴飲暴食を避ける

 まず必要なことは、禁煙することと、暴飲暴食を避けることです。高脂肪食やコーヒー、チョコレート、アルコール、ミント、オレンジなどの飲食物を避けることも大切です。

 肥満の人では体重のコントロールが必要になります。そして、就寝時には、頭部を10~15センチメートル程度高くすること、夕食を食べたあと、3時間は横にならないことなども強く勧められます。

原因となる薬剤をやめ、ほかの薬に変更する

 高血圧の治療によく使われるカルシウム拮抗薬をはじめ、抗コリン薬、テトラサイクリン系抗菌薬、平滑筋弛緩薬(テオフィリン、β刺激薬)などの薬剤は、薬の作用上のメカニズムの関係で、下部食道括約筋の緊張度を低くするため、逆流性食道炎の原因となることがあります。この場合は服用を中止して、ほかの薬に変えてもらうように医師に相談するといいでしょう。

PPIとH2ブロッカーは有効

 胃酸の分泌を減らす作用のあるプロトンポンプ阻害薬(PPI)とH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)は、いずれもこの病気の治療上非常に有効であることがわかっています。副作用のないことを確かめながら、どれかを服用することになります。胃腸機能調整薬であるプリンペラン(メトクロプラミド)の有効性も示されていますので、プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬と組み合わせることもあります。

がん予防も視野に入れて外科手術をすることもある

 以上の内科的治療では一時的に症状が軽減されても、食道の粘膜自体に構造的な変化がおこっているような場合(食道がんの発生率が高くなります)には、逆流防止手術(胃底皺襞形成術)を行うこともあります。

 必ずしも、症状の軽減という意味では薬物療法と目だった差がないようですが、粘膜細胞の異常からがんへの進展を抑えるという意味では、有効かもしれないという研究論文(20)があります。

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根拠(参考文献)

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  • (2) Vaughan TL, Farrow DC, Hansten PD, et al. Risk of esophageal and gastric adenocarcinomas in relation to use of calcium channel blockers, asthma drugs, and other medications that promote gastroesophageal reflux. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1998;7:749-756.
  • (3) GERD Guideline Team. University of Michigan Health System. Management of Gastroesophageal Reflux Disease (GERD) 2002; March. http://cme.med.umich.edu/pdf/guideline/gred.pdf
  • (4) Jenkinson LR, Norris TL, Watson A. Gastro-oesophageal reflux associated with nifedipine. Aliment Pharmacol Ther. 1988;2:337-339.
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  • (19) Bais JE, Bartelsman JF, Bonjer HJ, et al. Laparoscopic or conventional Nissen fundoplication for gastro-oesophageal reflux disease: randomised clinical trial. The Netherlands Antireflux Surgery Study Group. Lancet. 2000;355:170-174.
  • (20) Allgood PC, Bachmann M. Medical or surgical treatment for chronic gastrooesophageal reflux? A systematic review of published evidence of effectiveness. Eur J Surg. 2000;166:713-721.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行