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慢性胃炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性胃炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 慢性胃炎の多くは症状がありません。慢性胃炎の本来の意味は上部消化管内視鏡(胃カメラ)を通して採取した胃粘膜の生検組織を顕微鏡で観察して、リンパ球を中心とした白血球などの炎症細胞が粘膜内に多数認められる状態をさします。しかし、生検検査を行わなくても、胃内視鏡検査や胃のバリウム検査の所見から慢性胃炎と診断することもあります。この慢性胃炎のおもな原因がピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)であることが明らかになっています。しかし、内視鏡検査などによって慢性胃炎と診断された場合でも、ほとんどの患者さんが無症状です。

 このように、慢性胃炎は本来症状の有無にかかわらず、内視鏡や組織など「目で見て」診断される病気です。またピロリ菌に感染していて(ピロリ菌陽性)、症状のある患者さんが除菌をしても、症状が改善されるのは一部に限られます。

 一方で、従来から胃痛、膨満感などの上腹部症状を訴える場合に症状のみで慢性胃炎と診断されることがありました。しかし、このような場合に内視鏡検査を行っても、胃潰瘍や胃がん、食道炎など症状の原因と考えられる器質的な病気が見られないことが多くなっています。このように上腹部症状があるにもかかわらず、原因となる器質的な病気がない場合に、機能性ディスペプシア(ディスペプシアとは上腹部の症状を表す英医学用語)あるいは機能性胃腸症と呼ぶようになりました。

 慢性胃炎の診断にとって重要なことは、内視鏡によって胃粘膜を観察して慢性胃炎の診断をするだけではなく、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの病気を除外することです。

 慢性胃炎のおもな原因であるピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、内視鏡を使って組織を採取して調べる検査以外に、血液や尿、便を調べたり、尿素を内服してその前後で吐いた息を調べる呼気テストという検査などがあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 内視鏡で観察される慢性胃炎は、以前は加齢による変化と考えられていましたが、現在ではピロリ菌がおもな原因であることが明らかになっています。そのほかには自己免疫性の慢性胃炎などがありますが、ごく少数です。

 長年のピロリ菌の感染により慢性胃炎が持続して、胃酸を分泌する細胞が減少した状態になった萎縮性胃炎からは胃がんが発生しやすいことがわかっています。萎縮性胃炎の進行を抑えるために日常生活上は飲酒や塩分摂取を控え、禁煙をすることが勧められます。

 胃がん患者さんのほとんどは慢性胃炎・萎縮性胃炎をもっていることがわかっています。ただし慢性胃炎のうち胃がんになる人は最大でも数パーセントにすぎず、過大な心配は不要です。

 また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃悪性リンパ腫などの発症につながる可能性がありますが、これも慢性胃炎の一部であり、多くの慢性胃炎はそれ以上の病気になることはありません。

病気の特徴

 日本人の、とくに中年以降ではピロリ菌陽性の人が多くいますが、ピロリ菌陽性の人は程度の差はあれ慢性胃炎になっていますので、非常に多くの人が慢性胃炎をもっているといってよいでしょう。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
大量飲酒を長年続けると、萎縮性胃炎が進行しやすい ★3 アルコール依存症患者では、ピロリ菌による萎縮性胃炎が進行しやすいとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、飲酒のみで慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。 根拠(1)
塩分摂取量が多いと萎縮性胃炎が進行しやすい ★3 塩分の多い食生活が、萎縮性胃炎を進行させるリスクになるとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、塩分摂取量やそのほかの食事内容により慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。 根拠(2)
喫煙により萎縮性胃炎が進行しやすい ★3 喫煙が、萎縮性胃炎を進行させるリスクになるとの報告があります。ただし、ピロリ菌陰性の場合、喫煙のみで慢性胃炎や萎縮性胃炎を発症することはありません。 根拠(2)
ピロリ菌の除菌療法により、胃粘膜の炎症は軽減する ★5 胃潰瘍・十二指腸潰瘍と同様の方法で、ピロリ菌の除菌療法を行うことが可能です。ピロリ菌を除菌することで、早期(半年以内)に胃粘膜の炎症は軽減することが組織学的な検討で証明されています。 根拠(3)
ピロリ菌の除菌により、胃粘膜の萎縮は改善する ★3 ピロリ菌除菌後の長期経過をみると、胃粘膜の萎縮は徐々に改善することが組織学的な検討で証明されています。ただし、内視鏡検査での所見は改善する場合もありますが、変化しないことも少なくありません。 根拠(3)
ピロリ菌の除菌により、その後の胃がん発生の抑制が期待できる ★4 ピロリ菌除菌後に胃がんがどの程度発生するかについて、長期にわたっての経過を検証した研究は少ないですが、減少するといわれています。ただし、胃がんが発生しなくなるわけではありません。 根拠(4)
ピロリ菌の除菌により、上腹部症状が改善する ★3 上腹部症状(胃痛、胃もたれなど)を伴う慢性胃炎においては、ピロリ菌を除菌することにより症状が改善する場合があります。 根拠(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ピロリ菌の除菌療法〈1次除菌〉

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌)の3剤を併用する オメプラール/オメプラゾン/オブランゼ/オメプロトン(オメプラゾール)またはタケプロン/タイプロトン/タピゾール/ランソラール(ランソプラゾール)またはパリエット(ラベプラゾールナトリウム)またはネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)のいずれか1剤+サワシリン/アモリン/パセトシン/ワイドシリン(アモキシシリン水和物)+クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)あるいはラベキュアパック/ランサップ(3剤が1日分ごと1シートにパックされた製剤として) ★5 プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌)3剤を併用し、1週間内服することにより70~80パーセントの患者さんがピロリ菌除菌に成功します。また、ピロリ菌除菌後に再感染することは少なく、再感染率は年間1~2パーセントです。 根拠(6)

ピロリ菌の除菌療法〈2次除菌〉

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗生物質)、メトロニダゾール(抗原虫薬)の3剤を併用する オメプラール/オメプラゾン/オブランゼ/オメプロトン(オメプラゾール)またはタケプロン/タイプロトン/タピゾール/ランソラール(ランソプラゾール)またはパリエット(ラベプラゾールナトリウム)またはネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)のいずれか1剤+サワシリン/アモリン/パセトシン/ワイドシリン(アモキシシリン水和物)+アスゾール/フラジール(メトロニダゾール)あるいはラベファインパック/ランピオンパック(3剤が1日分ごと1シートにパックされた製剤として ★5 1次除菌にて除菌できなかった場合、1次除菌で内服した3剤のうちクラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えて1週間内服することにより、90パーセント前後の患者さんがピロリ菌除菌に成功します。また、メトロニダゾール内服中は禁酒が必要です。 根拠(7)

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

内視鏡検査によって、診断を確定する

 慢性胃炎の多くはこれといった症状がなく、診断を確定するには上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が有効です。内視鏡で胃粘膜を観察して慢性胃炎の診断をするだけではなく、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの疾患を除外することが重要です。

 慢性胃炎のおもな原因であるピロリ菌に感染しているかどうかの検査は、内視鏡を使って組織を採取して調べる検査以外に、血液や尿、便を調べたり、尿素を内服してその前後で吐いた息を調べる呼気テストという検査などがあります。こうした検査によって、治療方針を決定します。

萎縮性胃炎の進行は胃がんの発生率を上昇させる可能性があり、節酒や禁煙、塩分控えめなど日常生活に注意

 慢性胃炎が持続していて、胃酸を分泌する細胞が減少した状態になった萎縮性胃炎からは胃がんが発生しやすいことがわかっています。萎縮性胃炎を進行させないように、日常生活上は、飲酒や塩分摂取を控えめにすることが勧められます。ただし、飲酒、喫煙、塩分のみで萎縮性胃炎は出現しません。

ピロリ菌が見つかれば除菌する

 ピロリ菌が確認された場合には、プロトンポンプ阻害薬(酸分泌抑制薬)、アモキシシリン水和物(ペニシリン系抗菌薬)、クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)3剤を併用して、除菌します(1次除菌)。この除菌療法によって70~80パーセントの患者さんでピロリ菌が除菌されることが報告されています。1次除菌で除菌されなかった場合には、上記3剤のうち、マクロライド系抗菌薬をメトロニダゾール(抗原虫薬)に替えて除菌療法を行います。

 ピロリ菌を除菌することにより、胃粘膜の状態が改善されること、胃がんの発生が抑制されるとの報告がありますが、すべての胃がん発生を防ぐことができるわけではありません。

根拠(参考文献)

  • (1) Quartero AO, Numans ME, de Melker RA, et al. Dyspepsia in primary care: acid suppression as effective as prokinetic therapy. A randomized clinical trial. Scand J Gastroenterol. 2001;36:942-947.
  • (2) Archimandritis A, Tzivras M, Fertakis A, et al. Cisapride, metoclopramide, and ranitidine in the treatment of severe nonulcer dyspepsia. Clin Ther. 1992;14:553-561.
  • (3) Chiba N, Van Zanten SJ, Sinclair P, et al. Treating Helicobacter pylori infection in primary care patients with uninvestigated dyspepsia: the Canadian adult dyspepsia empiric treatment-Helicobacter pylori positive (CADET-Hp) randomised controlled trial. BMJ. 2002;324:1012-1016.
  • (4) Sarin SK, Sharma P, Chawla YK, et al. Clinical trial on the effect of domperidone on non-ulcer dyspepsia. Indian J Med Res. 1986;83:623-638.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)