大腸憩室症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
大腸憩室症とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
大腸の腸管壁が弱くなっているところへ、食物やガスの発生で大腸内の圧力が高まって、大腸が外側へ袋状に突き出したものを大腸憩室といいます。大腸の周囲を通っている栄養血管が筋層を貫く部分におこります。日本人では右側の大腸に、欧米人では左側の大腸に多くみられると従来いわれてきましたが、日本人でも近年、左側でみられる頻度も増えてきました。
大部分は無症状ですが、腹痛や腹部膨満感、便通異常など腹部の不調が現れることもあります。
無症状の場合は、消化管造影検査、大腸内視鏡検査を行った際に偶然発見されます。しかし、症状がなければ治療は行いません。
重症化すると、憩室のなかに炎症がおきて大腸憩室炎、憩室出血などを引きおこします。その場合は治療が必要です。さらに重症化すると、腸壁に穴があく大腸穿孔、膿瘍形成(膿をもつただれ)をおこし、外科手術が必要になります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
加齢などによって大腸の筋層線維がもろくなり、一方で動脈硬化も進んでくると、腸管と血管の筋層にすきまができ、少しずつ広がっていきます。便秘などで腸管の内圧が高くなると、大腸の壁にある筋肉の弱い部分が袋状に突出してしまう憩室ができると考えられています。
また、憩室は食物繊維の摂取が少ないとできやすいといわれています。食物繊維が少ないと大腸は運動性をより高めなくてはならず、そのため腸の内圧が高くなるからです。
大腸にできた憩室には食物やガスがたまった状態となり、炎症を引きおこしたりがんの素地となったりする場合もあるので注意が必要です。
病気の特徴
もともとお年寄りに多い病気ですが、近年は増加傾向にあって50歳代以上では25パーセント程度見つかり、30歳代、40歳代の人でも15パーセント程度にみられるようになりました。
食生活の欧米化によって、食物繊維の摂取が減り、高たんぱく、高脂質の食事が増えたことが、患者さんの若年化と増加の背景になっていると考えられています。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
食事で食物繊維を多くとる | ★3 | 食物繊維をとることで、大腸憩室に関連する入院、死亡を減らすことができるかもしれないと考えられています。 根拠(1)~(4) | |
腹部膨満感や便通異常などの症状がある場合は、便通を改善する薬を用いる | ★2 | 症状に応じて緩下薬を使用します。臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
憩室炎を引きおこした場合は食事制限を行い、抗菌薬を用いる | ★5 | 憩室に炎症を生じた場合は、腸内細菌であるグラム陰性桿菌や嫌気性菌に効果のある抗菌薬を使用します。軽症であれば内服で、重症の場合は点滴で使用します。また、腹膜炎や敗血症をおこして膿がたまっている場合は、憩室にカテーテル(管)を通し、外に排出させます。それができない場合は手術が選択されます。これらのことは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(5) | |
内視鏡的止血術もしくは外科手術を行う | ★2 | 憩室部分から出血をしている場合や、穿孔が生じた場合は必要に応じて内視鏡的止血術もしくは憩室を含めた腸の切除を行います。臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗菌薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
セフェム系薬(セフォキシチン) | ★5 | 憩室炎をおこしている患者さんを2群に分けて治癒率を観察したところ、両群とも効果が認められ、その差がなかったという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(6) | |
ゲンタシン(硫酸ゲンタマイシン)/ダラシン(クリンダマイシン塩酸塩) | ★5 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
無症状なら治療しなくてよい
大腸の腸管壁が弱くなっているところへ、食物やガスの発生で大腸内の圧力が高まって、大腸が外側へ袋状に突き出したものを憩室といいます。
特別な症状がなくて、ほかの理由で行ったバリウム注腸造影や大腸内視鏡検査で偶然見つかった憩室症には、とくに治療は必要ありません。
食物繊維が多く含まれる食事をとるようにして、症状の進行を防止します。
症状があるときは絶食して抗菌薬を使う
発熱や下腹部痛、腹膜刺激症状などがみられ、憩室炎によるものと診断された場合には、絶食して点滴静注で水分を補給しながら、グラム陰性桿菌や嫌気性菌に対する抗菌薬を静脈注射します。
重症の場合は手術で切除
通常は数日間で炎症症状はおさまりますが、憩室炎または出血をくり返したり、膿瘍、穿孔を疑わせる兆候が認められたりする場合には、外科的に切除する必要があります。
食物繊維の多い食事で予防
食物繊維の摂取が大腸憩室そのものの発生を抑制することを証明した臨床研究はありませんが、この病気のメカニズムからいって、食物繊維の少ない食事を続けると腸管内圧が高まり、憩室ができやすいと考えられています。できるだけ食物繊維の多い食事を心がけるとよいでしょう。
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根拠(参考文献)
- (1) Larson DM, Masters SS, Spiro HM. Medical and surgical therapy in diverticular disease: a comparative study. Gastroenterology. 1976;71:734-737.
- (2) Painter NS. Diverticular disease of the colon. The first of the Western diseases shown to be due to a deficiency of dietary fibre. S Afr Med J. 1982;61:1016-1020.
- (3) Brodribb AJM, Humphreys DM. Diverticular disease: three studies. BMJ 1976;1:424-430.
- (4) Ferzoco LB, Raptopoulos V, Silen W. Acute diverticulitis. N Engl J Med. 1998;338:1521-1526.
- (5) Kellum JM, Sugerman HJ, Coppa GF, et al. Randomized, prospective comparison of cefoxitin and gentamicin-clindamycin in the treatment of acute colonic diverticulitis. Clin Ther. 1992;14:376-384.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)