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アルコール性肝障害の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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アルコール性肝障害とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 長期にわたりアルコールを飲み続けることによって引きおこされる肝障害を総称してアルコール性肝障害といいます。病態としては、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の4つに分けられます。共通する症状は、吐き気、食欲不振、体重減少、全身倦怠感、腹部膨満感などです。

 アルコール性脂肪肝は、肝臓に脂肪が沈着して、肝臓の機能を損なうものです。自覚症状はほとんどなく、ある場合でも軽度の倦怠感がみられる程度です。アルコール性脂肪肝が悪化すると、アルコール性肝線維症になります。肝細胞のまわりに線維ができて、肝臓の血流を妨げ、肝臓のはたらきを低下させます。

 アルコール性肝炎は、アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒドの毒性によって肝細胞が壊されるものです。ふだんからたくさん飲酒している人が、さらに大量に飲酒した際に発症するもので、発熱、黄疸、右上腹部痛を伴います。さらには急激に全身性の臓器障害を併発し死に至る重症アルコール性肝炎も存在します。

 アルコール性肝硬変はアルコールによる肝障害が進行し、肝細胞の壊死、線維化などが進んで、肝臓の働きが著しく低下した状態です。黄疸や腹水、消化管出血などがみられ、肝硬変に伴う肝がんなどの合併症が現れることもあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 アルコールは肝臓で代謝されて、アセトアルデヒドを経て酢酸となります。長期間、大量の飲酒を続けていると、大量に代謝されるアセトアルデヒドの毒性によって肝臓に負担がかかり、肝細胞が障害されてアルコール性肝障害が引きおこされます。

 アルコール性肝障害は、アルコール依存症の合併症として現れることも多く、その場合、栄養不良状態に陥っていたり、背景に精神的な問題を抱えていたりすることもあります。

病気の特徴

 とくに注意が必要なのはB型やC型の慢性肝炎の人(キャリアも含む)です。ウイルス性肝炎がある人がアルコールを大量に飲んだ場合に重症化するという研究もあります。また、肥満者においてアルコールの悪影響が強く出やすいという報告もあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
禁酒・断酒する ★3 アルコール性肝障害において、禁酒・断酒はもっとも効果のある治療法です。禁酒・断酒により肝臓の線維化、腹水などが改善することが知られています。これらのことは、臨床研究によって効果が確認されています。アカンプロサートは飲酒欲求を直接抑制する薬剤で、飲酒再開や断酒期間の継続に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、本剤単独では禁酒・断酒は達成できません。 根拠(1)~(4)(5)
栄養状態を改善するために食事療法を行う ★5 肝硬変の患者さんでは、たんぱく質とカロリーの多い食事が有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、どの程度の栄養を補給すればよいのかについては、まだはっきりとはわかっていません。 根拠(6)
アルコール離脱症状を認める場合には、向精神薬を用いる ★5 アルコール性肝障害の治療のためには、禁酒・断酒が重要ですが、禁酒・断酒後しばらくして手のふるえ、いらいら、興奮、不安などの離脱症状が現れることがあります(アルコール離脱症候群)。これらの症状の治療については、向精神薬が有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(7)
ウェルニッケ脳症が疑われる場合には、ビタミンB1を用いる ★5 アルコール性肝障害で、十分な食事をとっていない場合には、ビタミンB1が不足して、ウェルニッケ脳症と呼ばれる脳の障害をおこすことがあります。この場合にはビタミンB1の使用が有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)
アルコール性肝硬変の場合は、一般の肝硬変に準じた治療を行う ★2 アルコール性肝硬変になると、肝硬変に伴う合併症(門脈圧亢進症、食道静脈瘤、突発性細菌性腹膜炎、肝性脳症、肝細胞がんなど)が出現してきますが、その場合には一般の肝硬変に準じた治療を行わなくてはなりません。これらのことは専門家の意見や経験から支持されています。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

肝機能改善薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
EPL(ポリエンホスファチジルコリン) ★2 投与により肝機能を改善することが、専門家の意見や経験によって支持されています。

脱水を改善させるために

主に使われる薬 評価 評価のポイント
 KN補液など ★2 肝障害の強い患者さんでは、食欲不振が強いため食事をとることができず、脱水状態になることもあります。そのような場合にはKN補液などの輸液が必要となることは、専門家の意見や経験から支持されています。しかし、輸液によって肝障害自体がよくなるわけではありません。

ウェルニッケ脳症が疑われる場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アリナミンF(フルスルチアミン) ★5 十分な食事がとれていないビタミンB1の不足状態でカロリーのみを補うと、ウェルニッケ脳症と呼ばれる脳の障害をおこすことがあります。ウェルニッケ脳症にはフルスルチアミンなどのビタミンB1誘導体を用いると有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)

アルコール離脱症候群がある場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
経口での使用が可能な場合 セルシン/ソナコン/ホリゾン(ジアゼパム) ★5 いずれの薬も非常に信頼性の高い臨床研究によって、アルコール離脱症候群に対し有効であることが確認されています。 根拠(7)(7)
セレナール(オキサゾラム) ★5
経口使用できない場合 セルシン注/ホリゾン注(ジアゼパム) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって、アルコール離脱症候群に対する効果が確認されています。 根拠(7)

重症アルコール性肝炎の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ステロイド(プレドニゾロン) ★5 ステロイドの効果を生存率で評価した結果、より重症である患者さんや1週間後の評価でステロイド治療に反応した患者さんで生存率の改善を認めたことが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(9)~(11)

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

禁酒・断酒と高カロリー・高たんぱく食が基本

 アルコール性肝障害のもっとも確実な治療は禁酒・断酒です。禁酒・断酒して、低栄養状態の場合には高カロリー・高たんぱく食をとることが治療の基本になります。禁酒・断酒することで、脂肪肝の時期なら正常な肝臓に戻りますし、たとえ肝炎や肝硬変になっていても、それ以後の病気の進展を遅らせることができます。

禁酒・断酒に役立つ治療法もある

 アルコール性肝障害の人は、長期に大量のアルコールを摂取し続けており、アルコール依存症といった精神的な問題を抱えていることが少なくなく、精神科・内科、家族・友人、専門施設、断酒会などの自助グループなどが関与した総合的なアプローチが必要です。

 禁酒・断酒の開始、維持継続には①アルコールの害についての正しい知識を習得する酒害教育、②心理社会的治療(集団精神療法、認知行動療法、断酒会などの自助グループ参加)、③薬物療法、が重要です。薬物療法では従来の抗酒薬のほかにも飲酒欲求の直接的な抑制を期待できるアカンプロセートなどの薬剤も登場しています。しかし、薬物療法のみで禁酒・断酒の維持継続は期待できず、前述したような総合的なアプローチが必須です。

ビタミンB1不足からくるウェルニッケ脳症に注意

また、アルコール性肝障害の人は栄養状態が悪化していることも多く、ウェルニッケ脳症に注意しなければなりません。これはビタミンB1が不足することによっておこる脳の障害で、意識障害などをおこすことがあります。予防や早期の治療にはビタミンB1が有効です。

発熱、全身倦怠感の増悪、黄疸や腹水があれば入院治療

 重症アルコール性肝炎は禁酒・断酒によって状態の改善は期待できず、多臓器不全を併発し死に至る状態です。発症が疑われた場合にはただちに入院のうえ、専門医による治療が必要です。

 肝硬変に進行して黄疸や腹水がみられる場合は、入院治療が必要になります。点滴で栄養を補うとともに、腹水のある人は利尿薬を服用することになります。

 また、肝硬変をおこすと、肝臓を通って心臓へ行く血液の流れが障害され、食道のそばに、肝臓を通らず心臓に行くバイパスが発達して食道静脈瘤ができ、出血したりすることもあります。こうした場合は、止血のための特殊な治療が必要となります。

根拠(参考文献)

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  • (11) Halsted CH, Villanueva JA, et al. Folate deficiency disturbs hepatic methionine metabolism and promotes liver injury in the ethanol-fed micropig. Proc Natl Acad Sci U S A. 2002;99:10072-10077.
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  • (13) Perez-Ayuso RM, Arroyo V, Planas R, et al. Randomized comparative study of efficacy of furosemide versus spironolactone in nonazotemic cirrhosis with ascites. Relationship between the diuretic response and the activity of the renin-aldosterone system. Gastroenterology. 1983;84:961-968.
  • (14) Marchesini G, Dioguardi FS, Bianchi GP, et al. Long-term oral branched-chain amino acid treatment in chronic hepatic encephalopathy. A randomized double-blind casein-controlled trial. The Italian Multicenter Study Group. J Hepatol. 1990;11:92-101.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)