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B型肝炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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B型肝炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 血液や体液を介したB型肝炎ウイルスの感染により肝臓が炎症をおこす病気です。ウイルスの感染経路は垂直感染といわれる母子感染と水平感染といわれる性交渉による感染や、医療従事者の針刺し事故による感染などがあります。潜伏期間は1~6カ月です。母子感染ではウイルスの保菌者(キャリア)となり、慢性化することが多く、一部は肝硬変、肝がんに進行する人もいます。しかし、健康な成人が水平感染した場合は、慢性化することはほとんどありません。母子感染でも水平感染でも、症状がでないまま自然に治ってしまうこと(不顕性感染)が多いのですが、水平感染の20~30パーセントの人には症状が現れ、ごくまれに劇症化(劇症肝炎)する場合もあります。

 最初の症状は、一見、かぜや胃腸炎を思わせるもので、徐々に全身の倦怠感、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐などがおこります。これらの症状がややおさまるころに黄疸が現れます。ウイルス検査によって確実な診断が下されます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 B型肝炎ウイルスは体内に入ると、肝細胞に入り込み増殖を始めます。ただし、B型肝炎ウイルスそのものが肝細胞を壊すのではなく、入り込んだウイルスを排除しようとする免疫のはたらきが自分の肝細胞を攻撃してしまうために破壊されていくと考えられています。肝機能を調べる代表的な項目にAST(GOT)、ALT(GPT)がありますが、これらは肝細胞のなかに存在する酵素です。肝細胞が破壊されることで、血液中に流れ出すので、これらの値が高くなると、破壊が進んでいることになります。

病気の特徴

 B型肝炎のキャリアは、約150万人と推定されています。このうち、症状がみられるのは一部の人です。衛生意識の向上、ワクチンの普及などから、患者数は減少傾向にあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
安静にする ★2 急性期のB型肝炎の患者さんで安静にしたことによって、治癒率が向上することを示した臨床研究は見あたりません。ただし、倦怠感が強い場合は、安静にしてすごすとよいでしょう。
急性期は低たんぱく、低脂肪食にして、肝臓への負担をかけないようにする ★2 急性期のB型肝炎の患者さんに対して、低たんぱく、低脂肪食が有効であることを示した臨床研究は見あたりません。ただし、肝臓に負担をかけない食事は、専門家の経験や意見から支持されています。
必要に応じて輸液を行う ★2 軽症であれば特別な薬物療法は行いません。食欲不振のため食事をとることができなければ、輸液が必要と考えられます。
グリチルリチン製剤を用いる ★2 B型肝炎によってAST(GOT)、ALT(GPT)値の異常が続く場合、グリチルリチン製剤を用いることがあります。グリチルリチン製剤の使用によって慢性B型肝炎による、ALT(GPT)値の上昇を改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(1)
ウルソデオキシコール酸を用いる ★2 B型慢性肝炎の患者さんに対して、ウルソデオキシコール酸を用いることによってALT(GPT)値の上昇を改善することが臨床研究によって示されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(2)
慢性化した場合は抗ウイルス療法を行う ★3 抗ウイルス薬であるラミブジンを用いることによって、慢性B型肝炎の患者さんの肝臓機能が改善し、生存期間が延びることが示されています。また、インターフェロンによってB型肝炎ウイルスが減少した患者さんでは、肝臓機能が改善し、生存期間が延びることが示されています。これらのことは、臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)
肝臓移植を行う ★4 激しい症状にみまわれる劇症肝炎に対して、肝臓移植が有効であるとする信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

肝機能改善薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
強力ネオミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤) ★2 グリチルリチン製剤の使用によってB型慢性肝炎によるALT(GPT)値の上昇が改善されることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(1)

利胆薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ウルソ(ウルソデオキシコール酸) ★2 ウルソデオキシコール酸の使用によって、慢性B型肝炎によるALT(GPT)値の上昇が改善されることが、臨床研究によって確認されています。ただし、肝硬変への進展を抑制するかどうかはわかっていません。 根拠(2)

抗ウイルス薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ゼフィックス(ラミブジン) ★3 ラミブジンによって、慢性B型肝炎の患者さんの肝臓機能が改善し生存期間が延びることが臨床研究によって確認されています。 根拠(3)
セロシオン(プロパゲルマニウム) ★2 B型肝炎に対するプロパゲルマニウムの効果を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
インターフェロン ★3 インターフェロンによってB型肝炎ウイルスが減少した患者さんでは、肝臓機能が改善し生存期間が延びることが臨床研究によって示されています。 根拠(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

特別な治療は必要ない

 B型肝炎ウイルスに感染してもすべての人に症状が現れるわけではありません。大半の人は症状が現れないまま、自然に治ってしまいます。

 激しい症状を伴う劇症肝炎とならない限り、基本的な急性期の治療方針はA型肝炎と同様です。特別な治療は必要ありません。倦怠感が強い場合は安静にして過ごすのがよいでしょう。

劇症化の場合は入院治療が必要

 劇症化することが予測される兆候がみられたり、そのような血液検査結果がでた場合や、すでに劇症肝炎の状態であると診断されたなら、入院して積極的な治療が必要となります。現在のところ、肝移植のみが良好な結果をもたらすことが確認されている治療法と考えられます。感染症や消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群/体中に微小な血栓ができ、その後出血しやすくなる)、脳圧亢進などに対する治療を集中的に行います。

肝機能異常が続けば抗ウイルス療法を

 母子感染の一部の人で慢性化する場合があります。B型慢性肝炎はウイルスに感染していても肝臓の機能が正常で自覚症状もない例(HBe抗体陽性無症候性キャリア)も多く、通常は抗ウイルス療法を行いませんが、肝機能異常が続く場合には、ゼフィックス(ラミブジン)やインターフェロンによる治療を行います。

肝硬変の場合は積極的な治療が必要

 肝硬変へ進展すれば、抗アルドステロン薬や特殊アミノ酸製剤を使用したり、食道静脈瘤に対してβ遮断薬を使用したりします。

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根拠(参考文献)

  • (1) Miyake K, Tango T, Ota Y, et al. Efficacy of Stronger Neo-Minophagen C compared between two doses administered three times a week on patients with chronic viral hepatitis. J Gastroenterol Hepatol. 2002;17:1198-1204.
  • (2) Galsky J, Bansky G, Holubova T, Effect of ursodeoxycholic acid in acute viral hepatitis. J Clin Gastroenterol. 1999;28:249-253.
  • (3) Fontana RJ, Hann HW, Perrillo RP, et al. Determinants of early mortality in patients with decompensated chronic hepatitis B treated with antiviral therapy. Gastroenterology. 2002;123:719-727.
  • (4) Niederau C, Heintges T, Lange S, et al. Long-term follow-up of HBeAg-positive patients treated with interferon alfa for chronic hepatitis B. N Engl J Med. 1996;334:1422-1447.
  • (5) Samuel D, Muller R, Alexander G, et al. Liver transplantation in European patients with the hepatitis B surface antigen. N Engl J Med. 1993;329:1842-1847.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行