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C型肝炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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C型肝炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 C型肝炎は、C型肝炎ウイルスによって肝臓の細胞が炎症をおこす病気です。C型肝炎ウイルスが血液や体液によって感染することで発症します。C型肝炎ウイルスはその遺伝子型によって「1型」と「2型」の2タイプに大きく分けられ、さらに細かく「1a型、1b型」、「2a型、2b型」に分けられます。この分類は、後述する治療方針の決定に重要な情報となります。日本人の場合は、1a型は、ほとんどがなく、1b型が約70%、2a型、2b型がそれぞれ20%、10%を占めます。

 C型肝炎ウイルスの潜伏期間は1~6カ月で、主な感染経路として次のようなケースがあります。①C型肝炎ウイルスが含まれている血液の輸血等を行った、または傷ついた皮膚から直接入った、②注射器をC型肝炎ウイルスに感染している人と共用したり誤って刺した、③C型肝炎ウイルスに感染している人が使用した器具を消毒せずに、入れ墨やピアスの穴あけに使用した、④C型肝炎ウイルスに感染している人と性交渉をもった(ただし、まれ)、⑤C型肝炎ウイルスに感染している妊婦から新生児への母子感染(ただし、少ない)。

 C型肝炎ウイルスに感染すると、約70パーセントが慢性肝炎へと移行します。慢性化した場合、肝線維化が進み20~30年の経過で肝硬変や肝がんへと進展します。日本の肝がんの80パーセントがC型肝炎の原因といわれます。自覚症状は強くなく、風邪のような症状のために知らないうちに感染していたということも珍しくありません。まれに、全身の倦怠感、発熱、食欲不振、吐き気、嘔吐、黄疸などがみられることもあります。

病気の原因や症状がおこるしくみ

 C型肝炎ウイルスがなぜ肝臓の細胞の炎症をおこすかは、はっきりとわかっていませんが、肝細胞に入ったC型肝炎ウイルスを追い出そうとして、体の免疫機能がウイルスの入った細胞そのものを攻撃するためではないかと考えられています。

 肝細胞が壊れると、細胞のなかにあるトランスアミナーゼという酵素が大量に出てきます。トランスアミナーゼにはAST(GOT)とALT(GPT)の二つがあり、これら酵素の血液中の量を示す値は肝機能の指標となります。ですから、AST(GOT)値、ALT(GPT)値が高くなるということは、肝細胞の破壊が進んでいることを意味しています。肝細胞の破壊が慢性的に進むとやがて肝硬変、肝がんへ進展します。

病気の特徴

 C型肝炎ウイルスの感染者は、全世界で1億7000万人、日本では200万人存在すると推定されています。献血調査からC型肝炎ウイルスの陽性率は、20歳未満では0.2パーセント、50歳以上では4パーセントで、高齢者はさらに多いと予測されます。

 1992年から輸血用血液に対してC型肝炎ウイルスの検査が行われるようになったため、輸血による感染はなくなっていますが、前述した感染機会があったと思われる人は、念のため検査を受けたほうがよいでしょう。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
安静にする ★2 急性期のC型肝炎の患者さんにおいて、治癒が早まったり治癒率が向上したりすることを示した臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験や意見により支持されています。
急性期は低たんぱく、低脂肪食にして、肝臓への負担をかけないようにする ★2 急性期のC型肝炎の患者さんに対する低たんぱく、低脂肪食の効果を示した臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験や意見から支持されています。
軽症であれば、特別な薬物療法は行わない。必要に応じて輸液を行う ★2 食欲不振のため食事摂取が不十分な場合は輸液が必要になります。臨床研究で確認されているわけではありませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
急性肝炎に対して抗ウイルス療法を行う ★3 C型急性肝炎に対するインターフェロン治療については、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)
慢性肝炎に対して抗ウイルス療法を行う ★5 C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療や経口抗ウイルス薬は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(2)~(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

 従来はインターフェロン(注射薬)を用いた治療が主流でした。しかし近年、治療効果が非常に高く、副作用も少ない経口抗ウイルス薬(飲み薬)が次々と開発され、現在は飲み薬だけでほとんどのC型慢性肝炎の治療が可能になっています。治療対象や治療薬の適応・使用方法については、年齢、肝機能、C型肝炎ウイルスのタイプ、合併症、過去の治療歴、薬剤耐性の有無などにより決定されます。  以下に、初回治療の方法を遺伝子型別に提示します。過去に治療を受けた患者さんは、専門医での相談をお勧めします。

〈慢性肝炎1型〉

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インターフェロンフリー治療(飲み薬) ハーボニー(レジパスビル/ソホスブビル配合剤) ★5 1日1回1錠を12週間内服しますが、重い腎障害などがある患者さんは使用できません。また、抗不整脈薬を服用している患者さんは、使用できない場合があります。治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(5)
ヴィキラックス(オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル配合剤) ★5 使用法は、1日1回2錠を12週間内服しますが、中等度以上の肝機能障害などがある患者さんは使用できません。また、治療を始める前に、薬への耐性をもつ変異(Y93変異)がウイルスに起こっていないことを確認する必要があります。治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(ただし、1a型に対する有効性は確認されていない) 根拠(6)
ダクルインザ(ダクラタスビル)+スンベプラカプセル(アスナプレビル)の2剤併用  ★4 腎臓や肝臓の障害、薬剤耐性などの問題からレジパスビル/ソホスブビル配合剤やオムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル配合剤を使えない場合は、ダクラタスビル+アスナプレビルの2剤併用が行われることがあります。使用法は、ダクラタスビル1日1回1錠+アスナプレビル1日2回2錠(1回に1錠)を24週間内服します。治療を始める前に、薬への耐性をもつ変異(Y93/L31変異)がウイルスに起こっていないことを確認する必要があります。2剤併用療法の治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(7)
インターフェロンを中心とした治療 ペグインターフェロン+レベトール(リバビリン)+ソブリアード(シメプレビル)/バニヘップ(バニプレビル)(プロテアーゼ阻害薬)の3剤併用  ★4 薬剤耐性などの問題から内服薬だけでの治療が難しい場合は、ペグインターフェロン(改良型のインターフェロン)と2種類の経口抗ウイルス薬を用いる3剤併用療法が行われることがあります。3剤併用療法の治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)

〈慢性肝炎2型〉

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インターフェロンフリー治療(飲み薬) ソバルディ(ソホスブビル)+レベトール(リバビリン)の2剤併用  ★4 1日1回1錠を12週間内服しますが、重い腎障害などがある患者さんはソホスブビルを使用できません。治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(10)
インターフェロンを中心とした治療 ペガシス(ペグインターフェロンアルファ-2a)またはペグイントロン(ペグインターフェロンアルファ-2b)+レベトール(リバビリン)の2剤併用  ★4 腎障害などからソホスブビルを使用できない場合は、ペグインターフェロンアルファ-2aまたはペグインターフェロンアルファ-2b+リバビリンの2剤併用が行われることがあります。治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(11)

肝庇護療法薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
強力ネオミノファーゲンシー(SNMC)(グリチルリチン製剤) ★5 グリチルリチン製剤やウルソデオキシコール酸の使用によって、C型慢性肝炎によるALT(GPT)値の上昇が改善(肝臓の機能が向上)することが非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。また、ウルソの発癌抑制効果について有効だったとも報告されています。 根拠(12)(13)(14)
ウルソ(ウルソデオキシコール酸) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

輸血を受けたことのある方はウイルス検査を受けましょう

 C型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。検査方法が確立するまでは輸血による感染が多くありました。1992年以前に血液製剤を使用したり、大きな手術を受けたりした人は、一度ウイルス検査を受けて感染の有無を確認すべきでしょう。自覚症状がほとんどないまま、慢性化・重症化することが多いC型肝炎では正確な診断が大切です。

慢性化した場合は、積極的な治療が必要です

 C型肝炎の最大の問題は、慢性化しやすく、ゆっくりと肝硬変、肝臓癌に進展することです。C型肝炎の原因はウイルスですから、ウイルスを排除することが根治につながります。このため、ウイルスを排除する有効性が確実に証明されている抗ウイルス療法を積極的に行うことが望ましいと思われます。

 最近の研究では、90パーセント以上の患者さんでC型肝炎ウイルスが排除されたと報告されています。特別な理由がない限り、副作用に注意しながら積極的に治療を受けましょう。また、新しい治療法の開発が進んでいる分野ですので、治療方法の選択やタイミングについては専門医との相談が不可欠です。

抗ウイルス療法ができなくても肝庇護療法が必要です

 AST(GOT)値、ALT(GPT)値が異常を示す患者さんで、何らかの理由で抗ウイルス療法が施行できない患者さん、抗ウイルス療法でウイルス排除ができなかった患者さん、抗ウイルス療法を希望しない患者さんなどでは肝庇護療法が必要です。

 肝庇護療法は、肝炎を沈静化し肝組織の線維化進展を抑えることを目的とする治療法です。これによって、C型肝炎が肝硬変、肝がんに進展することを抑えましょう。

抗ウイルス療法が奏功しても経過観察が必要です

 長期予後改善のため、肝硬変、肝臓癌へ進展がないか経過観察を継続することが大切です。とくに、高齢かつ線維化が進行した人は厳重な注意が必要です。

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根拠(参考文献)

  • (1) Miyake K, Tango T, Ota Y, et al. Efficacy of Stronger Neo-Minophagen C compared between two doses administered three times a week on patients with chronic viral hepatitis. J Gastroenterol Hepatol. 2002;17:1198-1204.
  • (2) Lindsay KL, Trepo C, Heintges T, et al. A randomized, double-blind trial comparing pegylated interferon alfa-2b to interferon alfa-2b as initial treatment for chronic hepatitis C. Hepatology. 2001;34:395-403.
  • (3) Di Bisceglie AM, Conjeevaram HS, Fried MW, et al. Ribavirin as therapy for chronic hepatitis C. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med. 1995;123:897-903.
  • (4) Gane EJ, Portmann BC, Naoumov N, et al. Long-term outcome of hepatitis C infection after liver transplantation. N Engl J Med. 1996;334:815-820.
  • (5) Abdelmalek MF, Harrison ME, Gross JB Jr, et al. Treatment of chronic hepatitis C with interferon with or without ursodeoxycholic acid: a randomized prospective trial. J Clin Gastroenterol. 1998;26:130-134.
  • (6) Boucher E, Guyader D, Jacquelinet S, et al. Interferon and ursodeoxycholic acid combined therapy in chronic viral C hepatitis: controlled randomized trial in 203 patients. Dig Liver Dis. 2000;32:29-33.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)