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胆のう炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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胆のう炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 胆のうにたまった胆汁に、細菌感染が加わって炎症をおこしたものを胆のう炎といいます。

 急性の場合は、脂っこいものをたくさん食べたり、アルコール類をたくさん飲んだりした場合に、右上腹部に強い痛みを感じます。

 痛みは右肩のほうに抜けていくように感じることもあります(放散痛)。吐き気を伴い、黄疸がでることもあります。

 寒けを伴って38度を超える熱がでることもしばしばです。急性胆のう炎をくり返すうちに慢性化したものを慢性胆のう炎といいます。

 右上腹部の痛み、不快感、吐き気、げっぷ、腹部膨満感、下痢、便秘といった消化器症状がみられます。診断は局所の臨床症状、全身の炎症所見、腹部超音波検査を含む特徴的画像検査所見から総合的に判断します。

 最初に抗菌薬による治療を行いますが、引き続き、たまった胆汁を取り除く胆のうドレナージや胆のう摘出術も行います。

 炎症が重篤な場合には死に至る可能性もあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 胆汁がたまってしまう原因は、多くの場合胆石症です。胆石が胆のうの出口の胆管をつまらせることによっておこります。

 ほかに胃の手術などで胆のうの収縮力が弱まり、胆汁がたまることもあります。

 感染する細菌は大腸菌などの腸内細菌です。

病気の特徴

 急性胆のう炎の95パーセントは、胆石が原因です。また、胆のう内に胆石があると、約50パーセントは胆汁中から細菌が検出されます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗菌薬(セフェム系もしくはニューキノロン系)を用いる ★5 合併症のない胆のう炎については、はっきりした根拠はありませんが、セフェム系抗菌薬やペニシリン系とアミノグリコシド系抗菌薬を併用して用いられます。また、ニューキノロン系がペニシリン系とアミノグリコシド系とを併用した場合と同等の効果があったとの非常に信頼性の高い臨床研究があります。抗菌薬によって、菌血症と創感染症の率が下がっても胆のう気腫や胆のう周囲膿瘍の形成には差はなかったという報告もあります。 根拠(1)~(4)
経皮経肝胆のうドレナージを行う ★2 上腹部から管を挿入して、胆のうにたまった胆汁を取り除く方法です。明確な治療効果を示した臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験からこの治療法は支持されています。この治療に引き続き、最終的には胆のう摘出術が行われます。 根拠(5)
腹腔鏡下胆のう摘出術、または開腹による胆のう摘出術を行う ★5 腹部に小さな穴を数カ所あけ、そこから内部を映し出すカメラや手術器具を挿入して、胆のうを摘出する手術です。開腹による胆のう摘出術に比べて、手術時間が短くてすみ、患者さんの術後の痛みも軽減されるため、入院期間と回復までの時間が明らかに短縮されます。これは信頼性の高い臨床研究によって効果が認められています。しかしながら炎症をおこした胆のうは手術も難しくなる場合があるため、腹腔鏡下胆のう摘出術の継続が困難な場合にはすみやかに開腹手術に変更することが勧められています。 根拠(6)(7)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ブスコパン(臭化ブチルスコポラミン) ★2 腹痛によく用いられる薬です。専門家の意見と経験から支持されています。
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) ★5 非ステロイド抗炎症薬です。胆石症の患者さんに使用すると、痛みをやわらげ、胆のう炎への進行を抑える働きがあることが、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(8)(9)
タリビッド(オフロキシサン) ★5 ニューキノロン系の抗菌薬です。その有効性については非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(4)
マキシピーム(セフェピム) ★5 セフェム系の抗菌薬です。非常に信頼性の高い臨床研究で有効性が確認されています。 根拠(2)(3)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

手術で胆のうを摘出する

 胆のう炎に対しては、胆のう摘出術が行われます。しかし、腹痛、発熱、白血球増加などがある急性期に、開腹術や内視鏡を使って切除するのは躊躇されています。

 このような場合は、まず抗菌薬を用いて炎症を抑えてから手術に移るのが一般的です。

 胆のう炎の重症度に基づいた胆のうドレナージ、胆のう摘出術の選択・施行時期が提案されています。

抗菌薬や抗炎症薬を用いる

 細菌感染を抑える目的で、抗菌薬が用いられます。セフェム系あるいは、ペニシリン系にアミノグリコシド系抗菌薬を加えるといった使い方が一般的です。また、ニューキノロン系、カルバペネム系抗菌薬も使われます。近年は重症度や感染の原因となった状況(市中感染、または医療関連感染)に基づいて抗菌薬の選択を行うことが提案されています。

 痛みに対しては、非ステロイド抗炎症薬を用います。モルヒネは胆管が十二指腸に開口する部位の括約筋(オッディ括約筋)を収縮させるため、症状をかえって悪化させる可能性が高く、使ってはならないと考えられています。

手術後、まれに腹痛などが続くことも

 手術後は80~90パーセントの患者さんで、まったく症状がなくなります。しかし、なかには便秘や腹部の張り、下痢が続く患者さんもいて、胆のう摘出後症候群と呼ばれています。これは胆管の狭窄、胆石の遺残(取りきれずに残ったもの)、胆のう管の遺残、オッディ括約筋の狭窄ないし異常運動、胆汁酸による症状などが原因でおこっている可能性があり、正確な診断とそれぞれの症状に応じた治療が必要となります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Kune GA, Burdon JG. Are antibiotics necessary in acute cholecystitis? Med J Aust. 1975;2:627-630.
  • (2) Thompson JE Jr, Bennion RS, Roettger R, et al. Cefepime for infections of the biliary tract. Surg Gynecol Obstet. 1993;177(Suppl):30-34.
  • (3) Yellin AE, Berne TV, Appleman MD, et al. A randomized study of cefepime versus the combination of gentamicin and mezlocillin as an adjunct to surgical treatment in patients with acute cholecystitis. Surg Gynecol Obstet. 1993;177(Suppl):23-29.
  • (4) Kato K, Kasai S, Matsuda M, et al. A new technique for laparoscopic cholecystectomy--retrograde laparoscopic cholecystectomy: an analysis of 81 cases. Endoscopy. 1996;28:356-359.
  • (5) Lujan JA, Parrilla P, Robles R, et al. Laparoscopic cholecystectomy vs open cholecystectomy in the treatment of acute cholecystitis: a prospective study. Arch Surg. 1998;133:173-175.
  • (6) Akriviadis EA, Hatzigavriel M, Kapnias D, et al. Treatment of biliary colic with diclofenac: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Gastroenterology. 1997;113:225-231.
  • (7) Goldman G, Kahn PJ, Alon R, et al. Biliary colic treatment and acute cholecystitis prevention by prostaglandin inhibitor. Dig Dis Sci. 1989;34:809-811.
  • (8) Karachalios GN, Nasiopoulou DD, Bourlinou PK, et al. Treatment of acute biliary tract infections with ofloxacin: a randomized, controlled clinical trial. Int J Clin Pharmacol Ther. 1996;34:555-557.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)