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急性虫垂炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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急性虫垂炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 大腸の入口部にある盲腸から出ている突起物を虫垂といいます。長さは7~8センチメートルで、太さは鉛筆程度です。虫垂で炎症がおこると上腹部の不快感・鈍痛に始まり、次第に右下腹部がずきずきと痛むようになります。とくに、「マクバーニーの圧痛点」と呼ばれる部分を押すと痛みます。これはへそと右腰骨の飛びだした部分を線で結び、右下から3分の1の部分のところです。痛みは持続し、時間の経過とともに強くなっていきます。

 37~38度の発熱があり、食欲不振・便秘・吐き気・嘔吐といった症状もみられます。白血球の増加も特徴です。放置すると虫垂壁に穴があき、腹膜炎をおこすことがあります。子どもの場合は、虫垂炎の症状がでてから比較的短時間で虫垂壁に穴があいてしまうので注意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 俗に盲腸炎とも呼ばれますが、炎症部分はあくまで虫垂です。虫垂の内部が便や粘液などなんらかの原因でつまり、血行障害をおこしたところに細菌やウイルスが侵入して炎症をおこすと考えられています。

 暴飲暴食や便秘、胃腸炎、過労などが引きがねになっておこることがしばしばあります。

 なお、右下腹部の痛み以外に虫垂炎特有の症状がみられない場合、一般に慢性虫垂炎といういい方をすることがありますが、医学的な病名ではありません。腹痛が続く場合は医師の診察が必要です。

病気の特徴

 10~20歳代の若者に比較的多く、男女差はほとんどありません。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗菌薬を用いる ★5 全身状態が良好で病状も軽い場合には絶食のうえ、水分・栄養の補給を目的とした点滴、抗菌薬の投与が行われます。ただし、抗菌薬の投与により改善を認めてもその後の再発が多く、長期的にみて切除術と同等の効果があるとの結論は得られていません。 根拠(1)(2)
虫垂切除術(開腹手術・腹腔鏡下手術)を行う ★5 腰椎麻酔下で開腹し虫垂を切除する開腹虫垂切除術と、おなかに小さな穴を数カ所あけ、そこから内部を映し出すカメラや手術器具を挿入して、虫垂を切除する腹腔鏡下手術が行われます。方法の選択は患者さんの状態(全身状態、肥満、妊娠など)や、炎症をおこした虫垂の状態から判断されます。これら2つのどちらの方法が優れているかについて、非常に信頼性の高い臨床研究の結果、腹腔鏡下手術のほうが手術後の創の感染をおこす割合が低く、術後の痛みは軽く、入院日数が短いのですが、お腹のなかで膿瘍(膿で満たされたしこり)を形成する割合が高く、手術時間も平均で10分程度長く、手術にかかる費用も高いという結果でした。 根拠(3)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗菌薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
セファメジンα(セファゾリンナトリウム)などセフェム系抗菌薬もしくはニューキノロン系抗菌薬 ★5 発症から72時間以内に抗菌薬を使用した結果、手術による治療と同等の効果が得られましたが、再発率は高かったという臨床研究が報告されています。 根拠(1)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

第一選択は虫垂を切除すること

 急性虫垂炎に対しては現在でも、虫垂切除術が第一に選択されるべき治療法です。

 放置した場合、虫垂壁に穴があき、膿が腹腔内にばらまかれて広い範囲の腹膜炎をおこしたり、膿のかたまりが横隔膜下や骨盤内にできたりして、死亡することさえあります。

 みぞおちから右下腹部へ移動する痛みや食欲不振、便秘、吐き気、嘔吐、発熱などの症状から早期に正しい診断を下し、ただちに外科医に連絡を取って、腹腔鏡下あるいは開腹での虫垂切除術を行う必要があります。

場合によっては、抗菌薬で経過を見守る

 全身状態が良好で病状も軽い場合は、絶食・点滴のうえ、多種類の細菌に有効な広域スペクトラム抗菌薬を静脈注射して、経過を観察します。ただし、抗菌薬のみによる治療は虫垂炎が再発する可能性が高く、改善をみたあとも注意が必要です。

術前・術後の抗菌薬投与

 手術的に虫垂を切除する場合も、その直前、直後には静脈注射で抗菌薬を投与します。

 虫垂炎が重症な場合には腹腔内に膿瘍をつくりやすいのですが、手術前後に予防的に抗菌薬を投与することで、その可能性は低くなることがわかっています。また、腹壁の手術したところに感染をおこす可能性も低くなります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Eriksson S, Granstrom L. Randomized controlled trial of appendicectomy versus antibiotic therapy for acute appendicitis. Br J Surg. 1995;82:166-169.
  • (2) Pedersen AG, Petersen OB, Wara P, et al. Randomized clinical trial of laparoscopic versus open appendicectomy. Br J Surg. 2001;88:200-205.
  • (3) Long KH, Bannon MP, Zietlow SP, et al. A prospective randomized comparison of laparoscopic appendectomy with open appendectomy: Clinical and economic analyses. Surgery. 2001;129:390-400.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)