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腎盂腎炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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腎盂腎炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 腎盂腎炎とは、大腸菌などの細菌が、尿管をさかのぼって腎臓の腎盂や腎杯という部分に侵入して炎症をおこす病気です。

 腎盂や腎杯で炎症がおこると、やがて腎臓全体に炎症がおよびます。片方の腎臓だけが炎症をおこす場合と両方の腎臓が炎症をおこす場合があります。短期間のうちに激しい炎症のおこったものが急性腎盂腎炎、細菌が腎臓に住みついてしまって、炎症が続いているものが慢性腎盂腎炎です。

 急性腎盂腎炎では、激しい炎症のために腎臓が大きく腫れ、それがわき腹や背中、腰の痛みとして感じられることがあります。寒気を伴って、急激に38度以上の高熱がでたり、吐き気や嘔吐などの胃腸の症状が現れたりします。

 また、頻繁に尿意をもよおし尿の回数が多くなりますが、尿の量は少なく、排尿のときに痛みを感じるといった膀胱炎のような症状がみられたり、尿に血が混じることもあります。

 ほとんどの場合、適切な抗菌薬によって、比較的短期間で症状はおさまります。ただし、放置すると敗血症をおこす場合もあります。

 慢性腎盂腎炎では、疲労感や食欲不振、微熱などの症状が現れることもありますが、ほとんどが無症状で、診断が難しいとされています。

 進行すると、高血圧を伴うことが多く、症状がかなり進んでから血圧の異常によって発見されることもあります。細菌が住みついてしまって、炎症が悪化したり、おさまったりをくり返していると腎不全に至る場合もあり、注意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因となる細菌としては肛門の周囲にいる大腸菌が多く、そのほかにブドウ球菌、連鎖球菌や真菌などがあげられます。

 通常、尿は腎臓から尿管を通り膀胱へと流れます。尿管と膀胱の間には一方通行の弁がありますから、逆流することはありません。しかし、なんらかの原因によってここで逆流がおこったり(膀胱尿管逆流現象)、尿の流れが悪くなったりすると、細菌が膀胱から尿管、さらに腎盂から腎臓全体へと侵入し、炎症がおこります。

 このような状態をおこす引きがねとしては、膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大症、尿路結石、糖尿病、痛風、妊娠などがあげられます。

 また、ほかの臓器に感染源があり、そこから血液の流れを通じて細菌が侵入する場合もあります。

 とくに、腎臓や尿路に結石や狭窄がある、あるいは尿管と膀胱の間の弁に異常があって逆流現象がある場合などには、急性の炎症が治りきらないことがあり、これが慢性腎盂腎炎に移行します。

病気の特徴

 腎盂腎炎は、女性に多い病気で、20~40歳代ではそのほとんどが女性です。また、妊婦の0.5~2パーセントに発生するといわれています。女性に多い理由は、女性は男性より尿道が短く、尿道口と肛門が接近しているために、細菌が侵入しやすいからと考えられます。

 男性でも、前立腺肥大症や尿路結石があると尿道が圧迫され尿の流れが悪くなり、細菌感染がおこりやすくなります。50歳を過ぎると、腎盂腎炎のおこる頻度の男女差は小さくなります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
軽症の急性腎盂腎炎では抗菌薬を用いる ★5 急性腎盂腎炎において、抗菌薬使用の有無で効果を比較した臨床研究はありません。しかし、原因から考えても抗菌薬の有効性は広く認識されており、抗菌薬を使用しないというグループをつくっての比較研究は、今後も倫理的に困難です。ただし、抗菌薬の種類や使用方法を変えて、効果を比較した非常に信頼性の高い臨床研究がいくつかあります。 根拠(1)(2)
急性腎盂腎炎で中等度以上の症状であれば、入院して抗菌薬を注射する ★3 抗菌薬の塩酸シプロフロキサシンについて、経口薬と注射薬で有効性に差がなかったという臨床研究があります。したがって吐き気や食欲不振があったり、経口摂取が困難だったりする症状の重い状態では、注射薬が使われます。 根拠(1)(3)
慢性腎盂腎炎の急性増悪時には抗菌薬を注射する ★2 原因菌として抗菌薬耐性菌の割合が大きくなるので、まずは広い範囲の細菌に有効な抗菌薬を使用し、菌の抗菌薬の効き方(薬剤感受性)を確認しながら、抗菌薬を選択します。このことを確認した臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
慢性期の慢性腎盂腎炎では抗菌薬を用いる ★2 膀胱尿管逆流現象のある子どもでは、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを長期使用すると有効であることが、信頼性の高い臨床研究によって示されています。そのほかの原因による慢性腎盂腎炎については、抗菌薬が有効性を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

急性腎盂腎炎で軽症の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗菌薬の経口薬 クラビット(レボフロキサシン水和物) ★5 アメリカ感染症学会のガイドラインでは、これらニューキノロン系を第一選択の抗菌薬として推奨しています。塩酸シプロフロキサシンについてはスルファメトキサゾール・トリメトプリムより有効であったという非常に信頼性の高い臨床研究が、レボフロキサシン水和物に対しては塩酸シプロフロキサシンと同等の効果であったという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(1)(1)~(2)(3)
シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン) ★5

急性腎盂腎炎で中等度以上の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗菌薬の注射薬 ゾシン(タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム) ★5 タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウムについては、イミペネム水和物・シラスタチンナトリウムと同等の効果だったという臨床研究があります。セファゾリンナトリウムについては、妊婦において、アンピシリン+硫酸ゲンタマイシン、セフトリアキソンと同等の効果であったという臨床研究があります。 根拠(1)(6)(7)
ユナシン‐S(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム) ★3
セファメジンα(セファゾリンナトリウム)  ★3
シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン) ★5
チエナム(イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム) ★5
ロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物) ★5

慢性腎盂腎炎が急性増悪した場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗菌薬の注射薬 ゾシン(タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム) ★2 いずれの薬剤も、慢性腎盂腎炎の急性増悪時にプラセボ(偽薬)を使って比較した臨床研究は見あたりません。しかし専門家の意見や経験から支持されている薬です。
ユナシン‐S(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウム) ★2
モダシン(セフタジジム水和物) ★2
チエナム(イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム) ★2

慢性腎盂腎炎の慢性期

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗菌薬の経口薬 クラビット(レボフロキサシン水和物) ★2 慢性腎盂腎炎に対して長期使用した場合の有効性を示す臨床研究は見あたりません。しかし、これらの薬は専門家の意見や経験から支持されています。
スパラ(スパルフロキサシン) ★2
バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム) ★2

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは抗菌薬で治療を

 腎盂腎炎は、大腸菌などの細菌が尿管をさかのぼって腎臓に侵入し、炎症をおこす腎臓の感染症です。急性腎盂腎炎にしても、慢性腎盂腎炎にしても、炎症をおこす原因となる細菌を退治することが大前提になります。

 現在、急性の腎盂腎炎に対して抗菌薬の使用が中心に行われています。クラビット(レボフロキサシン水和物)、シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン)などのニューキノロン系など、臨床研究で有効性が確かめられた抗菌薬もありますし、有効性を検討した臨床研究はないものの、専門家の意見や経験から支持されている薬剤も少なくありません。

使用の仕方は症状の状態に応じて

 軽症の急性腎盂腎炎、慢性期の慢性腎盂腎炎では経口薬を使用し、中等度以上の急性腎盂腎炎や慢性腎盂腎炎が急性増悪した場合は、静脈注射で治療を行います。

 とくに結石や腎・泌尿器の病気をもつ人、免疫機能が低下していたり糖尿病を基礎に、もっている人などにみられる腎盂腎炎では、抗菌薬に耐性のある細菌が原因となることが少なくありません。そのような患者さんでは入院のうえ、抗菌薬は静脈注射で、しかも比較的長期間(10~21日間)使用されます。

安静と水分補給は理にかなった対処法

 腎盂腎炎の急性期には、安静にすること、水分を十分に補うことが必要になります。このことは臨床研究によって示されているわけではありませんが、病気の成り立ちからいって、十分、理にかなった対応でしょう。

根拠(参考文献)

  • (1)Gupta K, Hooton TM, et al. International clinical practice guidelines for the treatment of acute uncomplicated acute cystitis and pyelonephritis in women. A 2010 update by Infectious Diseases Society of America and the European Sciety for Microbiology and Infextious Disease. Clin Infect Dis. 2011;52:103-120.
  • (2)Peterson J, Kaul S, et al. A double-blind, randomized comparison of levofloxacin 750 mg once-daily for five days with ciprofloxacin 400/500 mg twice-daily for 10 days for the treatment of complicated urinary tract infections and acute pyelonephritis. Urology 2008;71:17-22.
  • (3)Talan DA, Stamm WE, Hooton TM, et al. Comparison of ciprofloxacin (7 days) and trimethoprim-sulfamethoxazole (14 days) for acute uncomplicated pyelonephritis pyelonephritis in women: a randomized trial. JAMA. 2000;283:1583-1590.
  • (4)Holland NH, Kazee M, Duff D, et al. Antimicrobial prophylaxis in children with urinary tract infection and vesicoureteral reflux. Rev Infect Dis. 1982;4:467-474.
  • (5)Naber KG, Savov O, Salmen HC. Piperacillin 2 g/tazobactam 0.5 g is as effective as imipenem 0.5 g/cilastatin 0.5 g for the treatment of acute uncomplicated pyelonephritis and complicated urinary tract infections. Int J Antimicrob Agents. 2002;19:95-103.
  • (6)Wing DA, Hendershott CM, Debuque L, et al. A randomized trial of three antibiotic regimens for the treatment of pyelonephritis in pregnancy. Obstet Gynecol. 1998;92:249-253.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)