腎尿管結石の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
腎尿管結石とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
腎臓や尿管に結石ができる病気です。結石はいろいろな成分でできていますが、約8割はカルシウム結石(シュウ酸カルシウム結石)です。ほかにリン酸マグネシウムアンモニウム結石、尿酸結石、シスチン結石などがあります。
結石のできる場所によって症状は異なります。腎臓にできた結石は通常痛みをおこしません。しかし、結石が尿管に落ちると、尿の流れを阻害して疝痛発作と呼ばれる激しい痛みをおこします。発作は突然始まり、30分から1時間くらい続きますが、何時間も続くことはありません。
冷や汗や吐き気を伴い、立っていられないほどの激痛を感じます。痛みはしばしば下腹部に向けて放散します(放散痛)。
疝痛発作はくり返されることがよくありますが、これは結石が尿管のなかを下に向かって移動するためと考えられます。
血尿がでることもありますが、ほとんどは顕微鏡で見ないとわからない程度です。頻尿、残尿感、尿のでが悪い、背中やわき腹に鈍痛がある、排尿時に痛みや違和感がある、などの自覚症状があります。
結石はしばしば細菌感染を伴い、この場合は38~40度の熱がでます。再発しやすい病気なので、一度なったことのある人は定期検診を受けることが大切です。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
尿のなかには、尿に溶け込んでいる有機物質の結石化を促進する物質と抑制する物質が含まれていて、このバランスが崩れたときに結石ができやすいと考えられています。
たとえば、ホウレンソウなどに多く含まれるシュウ酸は、腸でカルシウムと結びつき、便として排出されます。ところが、カルシウムが不足すると腸で吸収されるシュウ酸が増えて、尿中に排出され、シュウ酸カルシウム結石をつくりやすくなります。
一方、クエン酸やマグネシウムが尿に多く含まれていると、結石がつくられにくくなります。尿中に含まれる物質のバランスは、食生活における栄養の偏りのほか、なんらかの病気や薬剤などによっても崩れることがあります。
食生活では、一般にカルシウム不足と肉類などのとりすぎが結石をつくりやすくすると考えられています。
病気の特徴
男性がなりやすい病気で、女性の2.5倍です。発生頻度は年々高まっていて、男性では10人中1人の割合で、一生のうちに一度この病気にかかる計算になります。5年再発率も約40パーセントとかなり高い値です。青年期から壮年期の働き盛りの人に多くみられます。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 疼痛除去のために | 尿管拡張作用薬と抗炎症薬を併用する | ★2 | 抗炎症薬単独での鎮痛効果は確認されています。尿管拡張作用薬との併用は専門家の意見や経験から支持されています。 |
| 自然排尿を促進するために | 背中を叩く | ★2 | 振動を加えると排石が促進されるといわれており、専門家の意見や経験から支持されています。 |
| 水分を摂取し利尿薬を服用する | ★2 | 病態生理学的には低張尿(うすい尿)を多量に排泄することで尿管につまった結石を落とし、そのまま自然に排石することが期待されます。専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| 結石を砕くために | 体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を行う | ★3 | 衝撃波を体外からあてて結石を粉々に砕くESWLは、体を切らないため入院期間も短く、患者さんの負担も少ない方法です。おもに自然排出できない10ミリメートル以上の結石に対して用いられます。破砕された結石の断片が排出される確率が77パーセントであり、副作用はほとんど認められないとする臨床研究があります。 根拠(1) |
| 超音波結石破砕術を行う | ★3 | 経皮的腎砕石術(背中側に小さな穴をあけて内視鏡のついた管を入れ、超音波で石を砕く方法)あるいは経尿道的尿管砕石術(尿道から内視鏡のついた管を入れ、超音波で石を砕く方法)を行い、いずれも97パーセントの成功率であったと報告されています。 根拠(2)(3) | |
| 内視鏡的砕石術を行う | ★3 | 手術に熟練した医師によって行われた場合に、80パーセントの症例ですべての結石を排出することができたとする臨床研究があります。 根拠(4) | |
| カルシウム結石以外の結石について | 溶解療法を行う | ★2 | 結石を溶かす溶解療法の効果は、専門家の経験や意見から支持されています。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗コリン薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ブスコパン(臭化ブチルスコポラミン) | ★2 | 痛みを抑えるために用います。専門家の経験や意見から支持されています。 | |
非ステロイド抗炎症薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★5 | ジクロフェナクナトリウムの内服により鎮痛効果が得られたとする、非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(5) | |
酸性尿改善薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ウラリットU(クエン酸ナトリウム配合剤) | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究で、体外衝撃波結石破砕術後のシュウ酸カルシウム結石の排出に有効であるという報告があります。 根拠(6) | |
結石排出促進薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ウロカルン(ウラジロガシエキス) | ★2 | 結石の排出を促進するために用います。専門家の意見や経験から支持されています。 | |
| コスパノン(フロプロピオン) | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
利尿薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ラシックス(フロセミド) | ★2 | 専門家の意見や経験から支持されています。 | |
肝機能改善薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| チオラ(チオプロニン) | ★2 | シスチン結石の場合、尿中へのシスチン排出量が多くなるシスチン尿症をおこしやすく、シスチン濃度を低下させるチオプロニンが用いられることがあります。専門家の意見や経験から支持されています。 | |
尿酸産生阻害薬
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| ザイロリック(アロプリノール) | ★5 | 結石の再発を予防する効果のあることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(7) | |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
痛みには抗炎症薬を使用
治療は、疼痛への対処、結石の排除、結石形成の予防という三つの側面から成り立っています。
激烈な疼痛に対しては非常に鎮痛効果の高い非麻薬性オピオイドを使うこともありますが、通常は、ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)などの非ステロイド抗炎症薬でかなりコントロールすることができます。
痛みは結石によって尿管が閉塞することへの反応で、尿管が強く異常収縮するためにおこると考えられているので、平滑筋(内臓器管や血管などの壁を構成する筋肉)を弛緩させる抗コリン薬のブスコパン(臭化ブチルスコポラミン)を使用することもあります。
しかし、抗コリン薬の結石への有効性は必ずしも明確に示されているわけではありません。
個々の状況に応じて排石法を選択
結石の排除には、尿量を増やして流れやすくする、結石を非常に微細なレベルにまで砕いて流れやすくする、手術によって取り出す、などの方法があります。
結石を砕く方法として、体外衝撃波結石破砕術、超音波結石破砕術、内視鏡的砕石術などがあります。
結石の場所や大きさ、数、それに泌尿器科医の経験や施設の設備の有無などで、どの方法を用いるのか、一人ひとりの患者さんごとに決めなければなりません。また、痛みさえなければ、水分を十分摂取するよう気をつけながらしばらく経過観察をすることもあります。
基礎疾患を治療し再発を予防
結石が将来、再発するのを予防するためには、排泄された結石の内容を分析して、どのような物質(たとえば、カルシウム、シュウ酸、尿酸、シスチンなど)から成り立っているのかを知る必要があります。
そうすることにより、基礎疾患(たとえば、高尿酸血症、副甲状腺機能亢進症、高シュウ酸尿症など)の治療の必要性が明確になります。
一般的には、尿中に結晶をつくりにくくなるように、1日少なくとも2リットル程度の水分をとって十分な尿量を確保することが必要です。
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根拠(参考文献)
- (1) Drach GW, Dretler S, Fair W, et al. Report of the United States cooperative study of extracorporeal shock wave lithotripsy. J Urol. 1986;135:1127-1133.
- (2) Bush WH, Brannen GE, Burnett LL, et al. Ultrasonic renal lithotripsy. Single-stage percutaneous technique and adjuvant radiological procedure. Radiology. 1984;152:387-389.
- (3) Chaussy C, Fuchs G, Kahn R, et al. Transurethral ultrasonic ureterolithotripsy using a solid-wire probe. Urology. 1987;29:531-532.
- (4) Tawfiek ER, Bagley DH. Management of upper urinary tract calculi with ureteroscopic techniques. Urology. 1999;53:25-31.
- (5) Laerum E, Ommundsen OE, Gronseth JE, et al. Oral diclofenac in the prophylactic treatment of recurrent renal colic. A double-blind comparison with placebo. Eur Urol. 1995;28:108-111.
- (6) Soygur T, Akbay A, Kupeli S. Effect of potassium citrate therapy on stone recurrence and residual fragments after shock wave lithotripsy in lower caliceal calcium oxalate urolithiasis: a randomized controlled trial. J Endourol. 2002;16:149-152.
- (7) Ettinger B, Tang A, Citron JT, et al. Randomized trial of allopurinol in the prevention of calcium oxalate calculi. N Engl J Med. 1986;315:1386-1389.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行