2003年初版 2016年改訂版を見る

急性前立腺炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク

急性前立腺炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 主として尿道から侵入した細菌が、その奥に位置する前立腺に感染しておこる病気です。扁桃腺炎、耳下腺炎など別の場所で炎症をおこしている原因の病原体が、血流に乗って前立腺に移行し炎症をおこすこともあります。急激に発病するのが特徴で、悪寒、発熱、頻尿、排尿痛などの症状がみられます。放置すると炎症が進んで、排尿困難、排便時の痛みなどをおこすこともあるので注意が必要です。

 肛門から指を入れる直腸診で、前立腺の腫れや痛みを確かめることができます。また、尿に膿や細菌が混ざるので尿検査を行えば診断は容易です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因となる細菌は、大腸菌、クレブシエラ菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、変性菌、淋菌などです。腰を冷やしたり、長時間にわたって自転車やオートバイなどに乗って会陰部を圧迫したりすると、この病気になりやすいと考えられています。また、飲酒や不潔な性交渉なども、この病気の引きがねになることがあります。

病気の特徴

 子どもにはほとんどみられませんが、思春期以降の男性なら、どの年代にもみられます。前立腺肥大症に合併しておこることもあります。また、糖尿病の人は感染症に対する抵抗力が弱いため、この病気になることがあります。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗菌薬を点滴静脈注射する ★5 急性前立腺炎の患者さんに対しては、広範囲の菌に有効な抗菌薬を点滴静脈注射によって投与します。その効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)
抗菌薬を用いる ★2 慢性前立腺炎の患者さんについては、ニューキノロン系の塩酸シプロフロキサシンないし、塩酸ロメフロキサシンを28日間服用すると効果があるということが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。その結果を急性前立腺炎にもあてはめて一般的に用いられています。 根拠(2)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗菌薬(点滴静脈注射)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
モダシン(セフタジジム) ★5 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)
ゲンタシン(硫酸ゲンタマイシン) ★2 専門家の意見や経験から支持されています。

抗菌薬(内服)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン) ★2 塩酸シプロフロキサシン、塩酸ロメフロキサシンとも慢性前立腺炎の患者さんを対象にした臨床研究では、有効性が確認されています。その結果を急性前立腺炎にもあてはめて一般的に用いられています。 根拠(2)
ロメバクト/バレオン(塩酸ロメフロキサシン) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まず抗菌薬を点滴静脈注射

 発熱、悪寒、排尿障害、後部尿道付近の緊満感と疼痛(うずくような痛み)といった前立腺炎の症状がある場合、細菌の感染によるものかどうかを見極めるために尿の培養と前立腺マッサージ後の尿中の菌と白血球を観察する必要があります。

 前立腺を含む尿路の感染症は、大腸菌とクレブシエラ菌のいずれかによることが多いのですが、これらの検査の結果、細菌によるものであることが明確になったら、まず抗菌薬で治療を開始します。用いるのは、ニューキノロン系または第三世代セフェム系とアミノグリコシド系を組み合わせたもので、経口ではなく点滴静脈注射によって投与されます。

非細菌性にも抗菌薬を使用

 前立腺からの分泌液中に白血球は増えているものの、細菌の培養は陰性(非細菌性前立腺炎)であれば、なんらかの微生物が原因と考えられます。この場合、マクロライド系のエリスロシン(エリスロマイシン)、テトラサイクリン系のビブラマイシン(塩酸ドキシサイクリン)のほか、バクタ(ST合剤)などが有効なことがあります。臨床研究で確立された治療法ではありませんが、いずれかを用いて経過を観察することが一般的に行われています。

膿がたまったら手術が必要

 発熱などを伴う急性期には、安静にして刺激物の飲食を控えたほうが体への負担が少なく、らくなはずです。細菌性の炎症が強くて膿がたまった場合は、前立腺を切開して膿をだす必要があり、入院して手術を受けることになります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1) Childs SJ, Wells WG, Chubb JM. et al. Ceftazidime, an open randomized comparison of 3 dosages for genitourinary infections. J Urol. 1983;130:495-497.
  • (2) Naber KG; European Lomefloxacin Prostatitis Study Group. Lomefloxacin versus ciprofloxacin in the treatment of chronic bacterial prostatitis. Int J Antimicrob Agents. 2002l;20:18-27.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行