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肺結核の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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肺結核とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 症状は微熱、せき、痰、血痰、発汗、呼吸困難(息苦しさ)、体重減少、食欲不振などで、肺結核にしかみられない症状ではないため、しばしば診断が遅れてしまいます。レントゲン写真では、軽症であれば気管支に花が咲いたような淡い陰影や、肺炎のような影を肺の上側に認めます。結核に特徴的な空洞がレントゲン写真に写るのは、かなり症状が進行した場合です。痰の培養で結核菌を確認して診断します。

 治療は原則として結核病棟に入院して内服薬による治療を受けます。治療期間が半年から1年と長いので、入院は治療初期のみとして、痰に結核菌が排出されなくなれば外来治療に移行します。最初の治療をきちんと行わないと、結核菌の薬剤耐性化やくざいたいせいかを招き、のちのちの治療が非常に困難となります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 結核にかかったことに気がつかずにいると、周囲の人を感染させることもあります。ただし、排菌していなければ(痰のなかに菌がいなければ)他人を感染させることはまずありませんし、結核菌に触れても必ず結核にかかるわけではありません。

 結核菌は比較的毒性の弱い菌で、初期症状が軽く、病状が進行してから気がつくことが多いため注意が必要です。また、お年寄りでは、感染していても症状のなかった人が、体力の低下などをきっかけに発病することもあります。

 せきとともに吐きだされた結核菌を含む飛沫を吸い込み、肺胞に結核菌が付着するとその部分で菌が増殖し、病巣をつくって感染が生じます。

 多くの場合、免疫力によって感染は抑えられますが、免疫力が弱い場合や菌の量が多い場合は、結核結節をつくります。

 その後、体力が低下した際に肺内に病巣が拡大して肺結核となったり、結核性胸膜炎、リンパ節結核などの病気になったりします。

病気の特徴

 若年者からお年寄りまで、年齢にかかわりなく発病します。1950年代から発生患者数は低下の一途をたどってきましたが、43年ぶりに患者発生率が増加に転じたため、1999年7月に当時の厚生省(現・厚生労働省)から「結核緊急事態宣言」が発せられました。その後、新規登録患者数は減少から横ばいの傾向ですが、未だ年間2万人以上の結核患者が新たに登録されています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
初期治療の重要性を患者さんに理解させる ★5 発病後最初の6カ月の薬物治療が完全に治癒させるうえで非常に重要であることがわかっています。患者さんに対してこの治療の重要性を理解してもらうための教育を行うと、治療に協力的になるという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(1)(2)
結核治療薬による初期強化短期療法を行う ★3 結核の初期治療は、次にあげる薬物療法のなかから一つを選択します。これらの薬物療法は、多くの専門家の経験に基づいてつくられた処方であり、診療ガイドラインなどで強く推奨されています。イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミドイソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+塩酸エタンブトールイソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+硫酸ストレプトマイシン 根拠(5)~(12)
肝障害、高尿酸血症がある場合には、ピラジナミドの入っていない処方で初期強化短期療法を行う ★3 ピラジナミドは、ときに重症の肝障害をおこすことが知られています。またアルコール類をよく飲む人や肝障害のある人は、結核治療薬によって肝機能が悪化しやすいことが知られています。以上の理由から、肝障害のある人は、ピラジナミドの使用を避けたほうがよいでしょう。またピラジナミドにより高尿酸血症がおこることが知られていますが、それが痛風などの合併症の原因になるかどうかは、はっきりとわかっていません。高尿酸血症があっても、2カ月までならようすを見ながらピラジナミドを使用してもよいという専門家の意見もあります。 根拠(13)
感染防止のため、結核病棟に入院する ★4 結核に感染した患者さんと濃厚に接触することにより院内感染がおこることが、多くの信頼性の高い研究の結果によってわかっています。したがって、①排菌していないことが証明されるまで、②退院するまで、③感染していないことが証明されるまで、結核と診断された患者さんおよび結核の疑いのある患者さんは結核病棟に入院する必要があります。 根拠(14)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

初回療法に使用する薬剤 根拠 (3)(4)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
イスコチン/スミフォン(イソニアジド)+リファジン/リマクタン(リファンピシン)+ピラマイド(ピラジナミド)+硫酸ストレプトマイシン(硫酸ストレプトマイシン)+エサンブトール/エブトール(塩酸エタンブトール) ★3 ふつうはイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの3剤に硫酸ストレプトマイシンまたは塩酸エタンブトールを組み合わせた4剤が用いられます。この処方は臨床研究によって確認され、ガイドラインでも推奨されています。 根拠(3)(4)

肝障害、高尿酸血症がある場合に使用する薬剤 根拠 (3)(4)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
イスコチン/スミフォン(イソニアジド)+リファジン/リマクタン(リファンピシン)+硫酸ストレプトマイシン(硫酸ストレプトマイシン) ★3 いずれの薬も併用療法で有効であることが臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)

軽症の場合に使用する薬剤 根拠 (3)(4)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
イスコチン/スミフォン(イソニアジド)+リファジン/リマクタン(リファンピシン) ★3 いずれの薬も併用療法で有効であることが臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

排菌者は結核病棟に入院が必要

 結核菌を排菌している患者さんは、まず、結核病棟に入院して内服による薬物療法を受けることになります。ただし、ふつう6カ月間の内服治療の全期間あるいは完全に治癒するまで入院する必要はなく、排菌さえなくなれば外来治療に移行しても大丈夫です。

4剤併用療法が有効

 ふつうはイスコチン/スミフォン(イソニアジド)+リファジン/リマクタン(リファンピシン)+ピラマイド(ピラジナミド)+硫酸ストレプトマイシン(硫酸ストレプトマイシン)またはエサンブトール/エブトール(塩酸エタンブトール)の4剤による治療を行います。イソニアジドには神経に異常を感じる副作用がみられることがあるので、予防のためにビタミンB6(ピリドキシン)を同時に服用してもらいます。

薬剤耐性化に注意

 最初の治療において必要な薬を医師の指示通りにきちんと服用しないと、薬剤の効かない結核菌が増えてしまい、のちのちの治療が非常に難しくなります。これを薬剤耐性化といい、肺結核の治療で非常に重要なポイントの一つです。

 とくに薬の服用期間が半年から1年と長期にわたることが多いので、自己判断で薬を中止しないように注意してください。副作用などで薬が飲みにくいと感じたときは、医師に相談することが必要です。

服薬の意味を理解することが大切

 WHO(世界保健機関)の世界結核計画では、DOTS(DirectlyObservedTherapy, Short-course:直接監視下服薬、短期コース)を推奨しています。これは病気の発見や薬剤の安定供給に対して政府が積極的に取り組むとともに、患者さんが治療薬を服用するところを保健医療従事者が見届け、そのことを記録して、治療を確実に行おうとするものです。結核治療薬を患者さんが確実に服用することができるようにするためのプログラムといえるでしょう。

 DOTSはおもに開発途上国で実施されていますが、薬を確実に服用することの重要性はわが国でも同じです。医師や薬剤師など医療関係者は、十分な情報提供と教育・指導をしていく必要があります。

 同時に患者さんも、服薬の意味をよく理解して治療に取り組むことが大切です。

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根拠(参考文献)

  • (1)Essential components of a tuberculosis prevention and control program. Recommendations of the Advisory Council for the Elimination of Tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 1995;44(RR-11):1-16.
  • (2)White MC, Tulsky JP, Goldenson J, et al. Randomized controlled trial of interventions to improve follow-up for latent tuberculosis infection after release from jail. Arch Intern Med. 2002;162:1044-1050.
  • (3) Blumberg HM, Burman WJ, Chaisson RE, et al. American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention/Infectious Diseases Society of America: treatment of tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med 2003; 167:603.
  • (4) Hopewell PC, Pai M, Maher D, et al. International standards for tuberculosis care. Lancet Infect Dis 2006; 6:710.
  • (5) Controlled clinical trial of four short-course (6-month) regimens of chemotherapy for treatment of pulmonary tuberculosis. Second report. Lancet 1973; 1:1331.
  • (6) Controlled trial of 6-month and 9-month regimens of daily and intermittent streptomycin plus isoniazid plus pyrazinamide for pulmonary tuberculosis in Hong Kong. The results up to 30 months. Am Rev Respir Dis 1977; 115:727.
  • (7) Short-course chemotherapy in pulmonary tuberculosis. A controlled trial by the British Thoracic and Tuberculosis Association. Lancet 1976; 2:1102.
  • (8) A controlled trial of six months chemotherapy in pulmonary tuberculosis. Second report: results during the 24 months after the end of chemotherapy. British Thoracic Association. Am Rev Respir Dis 1982; 126:460.
  • (9) Five-year follow-up of a controlled trial of five 6-month regimens of chemotherapy for pulmonary tuberculosis. Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Am Rev Respir Dis 1987; 136:1339.
  • (10) Controlled trial of 2, 4, and 6 months of pyrazinamide in 6-month, three-times-weekly regimens for smear-positive pulmonary tuberculosis, including an assessment of a combined preparation of isoniazid, rifampin, and pyrazinamide. Results at 30 months. Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Am Rev Respir Dis 1991; 143:700.
  • (11) Johnson JL, Hadad DJ, Dietze R, et al. Shortening treatment in adults with noncavitary tuberculosis and 2-month culture conversion. Am J Respir Crit Care Med 2009; 180:558.
  • (12) Combs DL, O'Brien RJ, Geiter LJ. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity, and acceptability. The report of final results. Ann Intern Med 1990; 112:397.
  • (13) Sharma SK, Balamurugan A, Saha PK, et al. Evaluation of clinical and immunogenetic risk factors for the development of hepatotoxicity during antituberculosis treatment. Am J RespirCrit Care Med. 2002;166:916-919.
  • (14) Bass JB Jr, Farer LS, Hopewell PC, et al. Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. American Thoracic Society and The Centers for Disease Control and Prevention. Am J RespirCrit Care Med. 1994;149:1359-1374.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)