慢性気管支炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
慢性気管支炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
慢性気管支炎は、急性気管支炎が慢性化したものではなく、まったく別の病気です。痰を伴ったせきが、2年以上にわたってでている状態をいいます。とくに冬期に症状が悪化し、それ以外の時期には一時的に症状が落ち着く傾向があります。ただし、1年中症状が続く人も約3割程度います。
気道が狭くなっているため呼吸が苦しくなりやすく、作業や運動をしたときに息切れすることがあります。「ぜいぜい」という呼吸音もおこりますが、気管支喘息と違って発作的なものではありません。
この病気では細菌による肺の感染症、たとえば肺炎などをくり返しやすく、肺機能が徐々に低下していきます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
気管支の表面は細かな線毛におおわれ、分泌される粘液とともに、外からの異物を排除する働きをしています。慢性気管支炎はこの働きがスムースになされなくなった状態です。
このような状態は、一つのことが原因でおこるのではなく、いくつもの要因が重なっておこると考えられています。加齢、性別、アレルギー素因、気道の状態、喫煙、大気汚染、細菌やウイルスの感染などが影響しあって発症することになります。なかでも喫煙が最大の原因といわれています。
年齢とともに気管支腺が肥大することも関係しています。気管支腺は気道の粘液生産と分泌に関係する器官です。慢性気管支炎の人は、粘液が過剰に分泌される状態にあり、このため痰が増えたり、気道に炎症がおこりやすくなっています。
また、気道に炎症がおこると、気道が狭くなって空気がうまく流れなくなり、呼吸が苦しくなります。
病気の特徴
40歳以上の人に多くみられ、男性が女性の約2.5倍です。
大気が汚染されている地域に住んでいる人や、粉塵刺激性のガスのある職場で勤務する人に、とくに多く認められます。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
薬物治療を行う | ★4 | 薬物治療の目標は、症状の管理、増悪を抑えること、健康状態の改善にあります。そのために、気管支拡張薬が治療の中心になります。このことは、信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1) | |
冬期にはインフルエンザワクチンを接種する | ★4 | 日本のほか欧米でも慢性気管支炎の患者さんに対するワクチン接種を勧めています。ワクチン接種によって、急性増悪や死亡が約50パーセント減少したという信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(1)(2) | |
腹式呼吸法を行う | ★2 | 腹式呼吸法は、胸部と腹部の協調運動の妨げになるという報告があり、効果についてははっきりしていません。 根拠(3) | |
体位ドレナージにより排痰を促す | ★2 | 体位ドレナージによる排痰は、臨床研究によって効果は確認されていないようですが、専門家の経験や意見から支持されています。 | |
在宅酸素療法を行う | ★5 | 在宅酸素療法(1日15時間以上)によって、生命予後(病気の経過や寿命の長さ)が改善されることが非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。酸素分圧55(酸素飽和度88パーセント)以下がこの治療の適応です。 根拠(4) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
気管支拡張薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
メプチン(塩酸プロカテロール) | ★5 | β刺激薬の効果は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(5) | |
テオドール/ユニフィル/ユニコン(テオフィリン徐放剤) | ★5 | テオフィリン徐放剤の効果については非常に信頼性の高い臨床研究によって、呼吸状態の改善を認めると報告されています。 根拠(6) | |
アトロベントエロゾル(臭化イプラトロピウム) | ★5 | 臭化イプラトロピウムは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7) |
去痰薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ムコダイン(カルボシステイン) | ★2 | 去痰薬については、専門家の経験や意見から支持されています。 | |
ムコソルバン(塩酸アンブロキソール) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まず禁煙すること
この病気の最大の原因は喫煙です。たばこを吸っている患者さんは、まず禁煙しなくてはなりません。そのうえで、以下の治療をするかどうかを考えます。
気管支拡張薬、在宅酸素療法は有効
なんらかの種類の気管支拡張薬を用いること、肺から体に取り入れられる酸素があるレベル以下にまで低下したなら、在宅酸素療法を行うことなどについては、非常に信頼性の高い臨床研究で有効なことが示されています。
副作用に注意して薬剤を使用
患者さんによっては、気管支拡張薬でもさまざまな副作用がおこる場合があります。
メプチン(塩酸プロカテロール)などのβ刺激薬には動悸、頻脈(脈が速い)、振戦(ふるえ)、吐き気・嘔吐など、テオドール/ユニフィル/ユニコン(テオフィリン徐放剤)には頭痛、振戦、不眠、いらいら感など、アトロベントエアロゾル(臭化イプラトロピウム)では頭痛、振戦、発疹、口内乾燥などがおこりえます。したがって、適切な種類の薬を適切な量、適切な時間間隔で服用する必要があります。
苦痛がなければ体位ドレナージも可
体位ドレナージの有効性は必ずしも明確ではありませんが、それ自体には副作用や合併症がありませんので、苦痛でない限り行うべきでしょう。去痰薬の効果は、信頼性の高い臨床研究で有効性が検証されているわけではありません。副作用さえなければ、試してみてもよいと思われます。
感染症の予防が重要
慢性気管支炎に肺炎を合併することも多く、それによって生命にかかわる状況になることがあります。したがって、あらかじめ感染症の予防、たとえばインフルエンザや肺炎球菌に対する予防接種に努めることが大切です。
また、いったん感染症が疑われた場合は、すぐにペニシリン系もしくはセフェム系の抗菌薬を使って、適切な治療をしなければなりません。
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根拠(参考文献)
- (1) Pauwels RA, Buist AS, Calverley PM, et al.; The GOLD Scientific Committee. Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease. NHLBI/WHO Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) Workshop summary. Am J Respir Crit Care Med. 2001;163:1256-1276.
- (2) Bridges CB, Fukuda K, Uyeki TM, et al. Prevention and control of influenza. Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Recomm Rep. 2002;51:1-31.
- (3) Willeput R, Vesahaudez JP, Lenders D, et al. Thoracoabdominal motion during chest physiotherapy in patients affected by chronic obstructive lung disease. Respiration. 1983;44:204-214.
- (4) Continuous or nocturnal oxygen therapy in hypoxemic chronic obstructive lung disease: a clinical trial. Nocturnal Oxygen Therapy Trial Group. Ann Intern Med. 1980;93:391-398.
- (5) Vathenen AS, Britton JR, Ebden P, et al. High-dose inhaled albuterol in severe chronic airflow limitation. Am Rev Respir Dis. 1988;138:850-855.
- (6) Ram FS, Jones PW, Castro AA, et al. Oral theophylline for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(4):CD003902.
- (7) Friedman M. A multicenter study of nebulized bronchodilator solutions in chronic obstructive pulmonary disease. Am J Med. 1996;100:30S-39S.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行