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気胸の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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気胸とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 肺を包んでいる胸膜(肋膜)に穴があき、突然の胸痛(胸の痛み)に襲われて呼吸が苦しくなる病気です。通常、肺は大きく膨らんだり縮んだりして呼吸作用をしています。この病気になると、肺の表面から胸腔(胸のなか)に空気が漏れだし、肺が縮んだままになって、十分に膨らむことができません。

 漏れでる空気の量が多くなると、肺が反対側に圧迫されて心臓や血管まで押されてしまうことがあります。これを緊張性気胸といい、放置すると呼吸困難やチアノーゼをきたして危険な状態となります。

 両側の肺におこると命にかかわりますが、両側におこるのはまれで、ほとんどは片方の肺におきます。

 また、気胸をおこしたことのある患者さんの約半分は再発することが知られています。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 気胸とは胸腔内(壁側胸膜と臓側胸膜との間)に空気が入り、肺がダメージを受けた状態です。原因はさまざまで、(1)自然気胸、(2)外傷性気胸、(3)医原性気胸の三つに大きく分けられます。このうち自然気胸は、肺の表面に薄い空気の袋ができる気腫性のう胞(ブラ)や、胸膜下のう胞(ブレブ)の破裂によって生じる原発性自然気胸と、ほかの肺の病気に続発して生じる続発性気胸に分けられます。外傷性気胸は胸部圧迫や肋骨骨折などによって生じます。医原性気胸は経皮肺生検、鎖骨下静脈穿刺、経気管支肺生検などに引き続いて生じることがあります。

病気の特徴

 自然気胸は、若年のやせ型で長身の男性に発症することが多く、続発性気胸は基礎疾患である肺気腫、結核が治った後の気腫性肺のう胞症などに併発しておこるため、高齢者に多く発症します。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
軽症例では安静を保つ ★3 安静のみで、虚脱(縮んだ状態)した肺が1日あたり1.25パーセントずつ拡張することを示した観察研究があります。 根拠(1)
穿刺脱気療法・持続脱気療法を行う ★3 胸膜に針を刺してたまった空気を抜くのが穿刺脱気療法、胸膜にチューブを入れ、そのままにしておき持続的に空気を抜けるようにするのが持続脱気療法です。これらの治療の効果は臨床研究によって確認されています。まずは穿刺脱気療法を行い、改善がみられない場合に限って、持続脱気療法を行うことが勧められます。 根拠(2)~(4)
胸腔鏡下手術で肺のう胞切除術を行う ★4 再発をくり返す場合、または若年者で再発を避けたい患者さんには初回から胸腔鏡下手術を行います。それによって再発を予防できることが、信頼性の高い臨床研究によって報告されています。 根拠(2)(5)
胸膜癒着療法<▲>きょうまくゆちゃくりょうほうを行う ★3 胸腔内に薬剤を注入して、人工的に炎症をおこし、肺と胸壁を癒着させ空気の漏れを防ぐのが胸膜癒着療法です。テトラサイクリン系抗菌薬による胸膜癒着療法では胸腔鏡下手術と同等の効果を得られることを報告した臨床研究があります。しかし、若年者に発生することが多い単純な自然気胸に対する効果や危険性は明らかではないため、胸腔ドレーンからの空気の漏れが持続する場合や、続発性気胸やほかの原因による気胸に限って行うべきでしょう。 根拠(2)(7)(8)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

胸膜癒着療法のための注入液

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テトラサイクリン系抗菌薬 ★3 テトラサイクリン系抗菌薬による胸膜癒着療法では、胸腔鏡下手術と同等の効果を得られると臨床研究によって報告されていますが、若年者に発生することが多い単純な自然気胸に対する効果や危険性は明らかではありません。胸腔ドレーンからの空気の漏れが持続する場合や続発性気胸やほかの原因による気胸に限って行うべきでしょう。 根拠(2)(7)(8)

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

虚脱度25パーセント以下なら安静のみ

 気胸は肺内の空気が漏れだして肺が縮み、十分に膨らむことができなくなる状態で、突然の胸痛や呼吸困難に見舞われます。治療は肺の虚脱(肺の縮み具合)の度合いに応じて対応します。虚脱度が肺全体の25パーセント以下で、進行性でなければ安静のみでようすをみます。

 肺が縮むと破れた部分が癒着して、自然治癒が期待できます。とくに虚脱度合が10パーセント以下なら、ふつうは1~2週間で自然に治ります。

胸にたまった空気を抜く場合も

 虚脱度50パーセント以上、慢性の肺の病気などの基礎疾患がある場合で、安静療法だけでは虚脱肺の再拡張がみられない場合は、細いチューブで胸のなかにたまった空気を抜くトロッカーチューブで、穿刺脱気療法や持続脱気療法を行います。

重症者は胸腔鏡下手術を

 20歳~30歳代で再発をくり返す、両側の肺で自然気胸になったことがある、肺虚脱が長期間続く、胸腔鏡で肺の表面にブラやブレブと呼ばれる異常な組織がいくつかできている、などの患者さんでは胸腔鏡下手術でブラやブレブを切除する肺のう胞切除術を行うこともあります。

単純な自然気胸に胸膜癒着療法はしない

 また、テトラサイクリン系の抗菌薬を使って胸腔内に炎症をおこすことで、肺と胸壁を癒着させて空気の漏れを防ぐ胸膜癒着療法は、単純な自然気胸での効果は明らかになっていません。そこで、この治療は自然気胸については行わず、ほかの原因による気胸に対して行うべきでしょう。

根拠(参考文献)

  • (1) Light RW. Pleural Diseases, 4th ed. Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, 2001.
  • (2) Morimoto T, Fukui T, Koyama H, et al. Optimal strategy for the first episode of primary spontaneous pneumothorax in young men. A decision analysis. J Gen Intern Med. 2002;17:193-202.
  • (3)Devanand A, Koh MS, Ong TH, et al. Simple aspiration versus chest-tube insertion in the management of primary spontaneous pneumothorax: a systematic review. Respir Med 2004; 98:579.
  • (4) Ayed AK, Chandrasekaran C, Sukumar M. Aspiration versus tube drainage in primary spontaneous pneumothorax: a randomised study. Eur Respir J 2006; 27:477.
  • (5)Hwong TM, Ng CS, Lee TW, et al. Video-assisted thoracic surgery for primary spontaneous hemopneumothorax. Eur J Cardiothorac Surg 2004; 26:893.
  • (6) Sawada S, Watanabe Y, Moriyama S. Video-assisted thoracoscopic surgery for primary spontaneous pneumothorax: evaluation of indications and long-term outcome compared with conservative treatment and open thoracotomy. Chest 2005; 127:2226.
  • (7)Light RW, O'Hara VS, Moritz TE, et al. Intrapleural tetracycline for the prevention of recurrent spontaneous pneumothorax. Results of a Department of Veterans Affairs cooperative study. JAMA 1990; 264:2224.
  • (8) Chen JS, Tsai KT, Hsu HH, et al. Intrapleural minocycline following simple aspiration for initial treatment of primary spontaneous pneumothorax. Respir Med 2008; 102:1004.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)