単純性甲状腺腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
単純性甲状腺腫とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
甲状腺が腫れて大きくなっているのに、甲状腺の機能には異常がなく、バセドウ病や慢性甲状腺炎(橋本病)、などの自己免疫性疾患や、ホルモン合成障害、腫瘍など原因となる病気が存在しないものをいいます。
若い人に多い思春期甲状腺腫、ヨード欠乏地域(ヨーロッパやアジアの内陸部など)に多くみられる地方性甲状腺腫、先端巨大症での甲状腺腫などが知られています。
腫れた部分がやわらかく、あまり大きくならないので違和感もありません。自覚症状のないまま自然に消えてしまうこともあります。
そのため、とくにほかの病気が背後に隠れていないことが検査で確認できれば、経過を見守ることが勧められます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
原因としては、思春期や妊娠などによる甲状腺ホルモン需要の増大、食品(海藻など)からのヨード摂取不足や過剰摂取、過剰な成長ホルモン、甲状腺ホルモンの合成・分泌を阻害する薬剤(リチウム、ビンブラスチンなど)、軽度の先天的な甲状腺ホルモン合成障害などが考えられます。
またホルモン不足になったときに、それを補うために甲状腺が大きく腫れてホルモンをたくさんつくりだそうとします。ホルモンバランスの崩れやすい思春期の女性や妊婦におこりやすいといわれています。また血液中に女性ホルモンが多く放出されると甲状腺が腫れることもあります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
| 治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| 甲状腺機能は正常なので治療は不要 | ★2 | ヨード摂取に問題があればそれを改善します。また甲状腺腫の原因となり得る薬剤があれば中止します。若年者では一過性の場合があることを考慮して経過を見守ることを中心に対処します。これは、専門家の意見や経験から支持されている考え方です。 根拠(1) | |
| 甲状腺腫が大きくて気になる場合は、甲状腺腫の縮小を期待して甲状腺ホルモン製剤を用いる | ★3 | 甲状腺ホルモン製剤により甲状腺腫が縮小する場合があります。ただし、軽度な甲状腺機能亢進症がある場合(TSH=甲状腺刺激ホルモンが正常下限)は慎重に用いなければなりません。臨床研究によると、改善が得られる場合は、服用後3~6カ月後までに変化がみられるとされています。 根拠(2) | |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
甲状腺ホルモン製剤
| 主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
|---|---|---|---|
| チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム) | ★3 | 甲状腺ホルモン製剤の効果は、臨床研究によって確認されています。 根拠(3) | |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ホルモン不足のために甲状腺が腫れる
全身で甲状腺ホルモンが不足になったときに、それを補うために甲状腺が大きく腫れて、ホルモンを多くつくろうとする反応が現れます。これが単純性甲状腺腫の状態です。
ヨウ素または甲状腺ホルモンで改善
ヨウ素の欠乏によることが疑われる場合には、ヨウ素または甲状腺ホルモンを補うことで、腫れて大きくなった甲状腺が小さくなることが期待できます。しかし、甲状腺の大きな腫れが長年続いていた場合には、必ずしも小さくならないことがあります。
抗甲状腺剤が有効なことも
反対に、甲状腺ホルモンを補うことにより甲状腺腫が縮小する場合があり、とくに若い人で、甲状腺腫がやわらかい場合には効果が期待できます。
気管を圧迫しているときは手術が必要
甲状腺腫が非常に大きく、気管を圧迫したり胸郭の上部を閉塞していたりするような場合には、外科的に甲状腺を部分切除することもあります。
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根拠(参考文献)
- (1) Rallison ML, Dobyns BM, Meikle AW, et al. Natural history of thyroid abnormalities: prevalence, incidence, and regression of thyroid diseases in adolescents and young adults. Am J Med. 1991;91:363-370.
- (2) Jameson JL, Weetma AP. Disorders of the Thyroid Grand In: Harrison's Principles of Internal Medicine (Harrison's Principles of Internal Medicine (Bound Vol), 15th Ed). McGraw-Hill, New York, 2001.
- (3) Wilders-Truschnig MM, Warnkross H, Leb G, et al. The effect of treatment with levothyroxine or iodine on thyroid size and thyroid growth stimulating immunoglobulins in endemic goitre patients. Clin Endocrinol (Oxf). 1993;39:281-286.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行