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バセドウ病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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バセドウ病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 甲状腺は甲状腺ホルモンというホルモンをつくっている器官ですが、バセドウ病はこの甲状腺のはたらきが高まり、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になる状態(甲状腺機能の亢進)です。

 甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を促進するホルモンであり、血液中の甲状腺ホルモンの量が増加すると、全身の代謝が過度になります。甲状腺のはたらきが高まる原因はいくつもありますが、日本ではほとんどがバセドウ病によるものです。

 バセドウ病では、代謝のスピードが速まるので、動悸が激しくなる、頻脈(脈が速くなる)、体温が上昇して汗をかきやすくなる、食欲が増し、食べる量が増えているのに体重が減少する、いらいらしたり怒りっぽくなったりする、眠れなくなるなど、さまざまな全身症状が現れます。当初は症状が軽く、進行もゆっくりであるため、病気であると気づかないことも少なくありません。そのほか甲状腺が腫れる、手指のふるえ、眼球が飛びだしたり目つきが鋭くなったりする、月経不順、不妊症などの症状がみられることもあります。お年寄りの場合は、これらの症状がはっきりでないで、不整脈や心不全となって発見される場合もあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 バセドウ病は、本来は体に侵入してきた外敵、異物に対しておこるはずの免疫反応が自分の体に対しておきてしまう自己免疫疾患のひとつです。なんらかの原因によって自分の甲状腺に対し免疫反応がおこると、抗体(自己抗体)が甲状腺を異常に刺激して、過剰に甲状腺ホルモンがつくられることになります。

 発症のきっかけには、妊娠、出産、感染、ストレスなどが関与していると考えられています。また遺伝的な要素もあると考えられています。

 免疫異常がおこるメカニズムは次のようなものです。

 通常、体内では血液中の甲状腺ホルモンが増えすぎたり、足りなくなったりしないように調節されています。この調節を担っているのが脳の下垂体から分泌されている甲状腺刺激ホルモンです。甲状腺刺激ホルモンは甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの合成を促進しますが、血液中の甲状腺ホルモンの量によって分泌量が変化するしくみになっています。甲状腺ホルモンの量が増えれば甲状腺刺激ホルモンが減り、逆に甲状腺ホルモンが減少すれば甲状腺刺激ホルモンが増加します。

 甲状腺の細胞の表面には、甲状腺刺激ホルモンと結合するための受容体(レセプター)があって、このレセプターと甲状腺刺激ホルモンはちょうど鍵穴と鍵のような関係になっています。鍵穴に鍵を入れ込むように、レセプターに甲状腺刺激ホルモンが結合することで、甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンがつくられ始めます。

 バセドウ病では、このレセプターに対する自己抗体(免疫グロブリン)がつくられ、それが次々とレセプターと結合して甲状腺を刺激し続けるために、甲状腺ホルモンが過剰につくられ、血液中のホルモン量が異常に増加することになります。

 この自己抗体がなぜ、どのようにしてつくられてしまうかについては現在のところわかっていませんが、ストレスや喫煙、ウイルスなど微生物の感染などが引きがねになるのではないかと推測されています。

病気の特徴

 一般に女性に多い病気です。40歳以上の女性のうち1000人中2~6人いるといわれています。しかし、自律神経失調症や更年期障害などほかの病気にまちがえられやすく、潜在的な患者数もかなりあると考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
薬物療法を行う ★5 国内では最初に試みられることが多い治療です。抗甲状腺薬を用い、甲状腺ホルモンの合成を阻害することがおもな効果ですが、バセドウ病の原因である免疫異常を改善することも期待されています。非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。また、抗甲状腺薬、放射性ヨード療法、手術療法の三つの治療を比較した非常に信頼性の高い臨床研究では、とくに効果が劣る結果のでた治療はありません。 根拠(1)~(5)
放射性ヨード療法を行う ★5 放射性ヨードを内服し、甲状腺の細胞を破壊するのが放射性ヨード療法です。これはヨードが甲状腺だけに選択的に取り込まれる性質を利用しています。甲状腺の細胞が破壊され減少することで甲状腺ホルモンの過剰な分泌を抑えます。抗甲状腺薬では治療困難な場合や、きちんとした服薬が困難な場合などに行われ、逆に妊娠・授乳中や妊娠の予定がある場合は行われません。全体として、抗甲状腺薬治療よりも少し早く甲状腺機能が正常化するとされています。ただし、バセドウ病眼症(眼球突出など)が悪化している場合、さらに症状が悪化する場合があるとされています。再発は抗甲状腺薬治療より少ないとされています。治療後、長期的にみると甲状腺機能低下症になるケースがあります。この場合、甲状腺ホルモン薬を服用し、甲状腺機能を正常に保ちます。これらのことは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(4)(6)
手術療法を行う ★5 大きくなった甲状腺の大部分を切除し、亢進した機能を正常化させます。甲状腺腫が大きい場合、またなるべく早く改善したい場合、抗甲状腺薬では治療困難な場合に行われます。治療効果がほかの治療と比べて早く確実に得られるとされています。手術の合併症としては、副甲状腺機能低下症や声帯麻痺などがあげられます。再発もほかの治療法と比べて少ないとされています。手術後、甲状腺機能低下症になる場合があります。これらのことは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(4)
ステロイドパルス療法を行う ★3 数日間、大量の副腎皮質ステロイド薬を点滴静脈注射し、その後急速に減量し終了する治療で、甲状腺機能亢進症による眼球突出が激しい場合に行われます。臨床研究では副作用も比較的少なく、効果が高いとされています。 根拠(6)
β遮断薬を用いる ★2 動悸、頻脈、ふるえ、不安といった甲状腺機能亢進症に伴った症状を緩和します。バセドウ病に対するβ遮断薬の効果を認める臨床研究はありませんが、ふるえや不安などに対する効果は広く支持されています。 根拠(7)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗甲状腺薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メルカゾール(チアマゾール) ★5 抗甲状腺薬は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されており、バセドウ病の標準的な治療のひとつです。 根拠(1)~(4)
プロパジール/チウラジール(プロピオチオウラシル) ★5

放射性ヨード

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ヨウ化ナトリウム(131I) ★5 放射性ヨードは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されており、バセドウ病の標準的な治療のひとつです。 根拠(1)(3)(4)

副腎皮質ステロイド薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プレドニン(プレドニゾロン) ★3 眼球突出に対して使用されます。臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(7)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

三つの治療から選択する

 バセドウ病に対する三つの治療(抗甲状腺薬による薬物療法、放射性ヨード療法、手術療法)のいずれも、高まった甲状腺機能を抑えるという意味での有効性は確実に実証されています。したがって、患者さんの病状(年齢、妊娠・授乳中かどうか、甲状腺の大きさ、症状の強さなど)、それぞれの治療に伴う副作用、合併症、治療の煩雑さ、費用などについて総合的に考えたうえで、まずどの治療法を用いるのかを決定します。

日本ではまず抗甲状腺薬を用いる

 わが国では、抗甲状腺薬による薬物療法が最初に試みられることが多くなっています。ほとんどのケースが、薬を飲み始めて6~8週ごろまでに甲状腺機能が正常化します。甲状腺の機能を示す甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの量を指標にして使用量を調節していきます。服薬の中止を考えるひとつの目安が甲状腺を刺激する自己抗体の消失で、消失が確認されてから、さらに約1~2年間は服薬を続けます。

 抗甲状腺薬の副作用としては、発疹、肝機能障害、関節痛、無顆粒球症(白血球の顆粒球がなくなる病気)などがあります。とくに、突発的な発熱が生じた場合には、無顆粒球症の可能性があるので、早期に医療機関を受診するべきです。

 抗甲状腺薬は服薬を中止するとしばしば再発し、中止後も寛解状態(症状がおさまっている状態)が持続して、治癒が得られるのは20~30パーセント程度とされています。薬の量の調節や副作用があるかどうかをチェックするために、薬を飲み始めた初期のころは、2~4週間に一度くらいの間隔で通院が必要です。

病状に合わせ、放射性ヨード療法、手術を検討

 抗甲状腺薬では治療が困難な患者さんや、副作用によって薬の服用が続けられなくなった患者さんで、妊娠・授乳中ではない場合に、放射性ヨード療法が選択されます。この治療は、放射性ヨードを使用するもので、副作用はほとんどありませんが、甲状腺機能が低下してしまうことがあります。

 また、甲状腺腫が著しく大きかったり、なるべく早く甲状腺機能を正常に戻さなくてはならなかったりする場合などは手術療法が選択されます。手術療法は早く、確実に治りますが、再発がまったくないわけではなく、入院が必要であるという負担もあります。いずれにしても、三つの治療について、メリットとデメリットを十分知ったうえで、医師と相談して決定するとよいでしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1)Wartofsky L, Glinoer D, Solomon B, et al. Differences and similarities in the diagnosis and treatment of Graves' disease in Europe, Japan, and the United States. Thyroid. 1991;1:129-135.
  • (2)Weetman AP. The immunomodulatory effects of antithyroid drugs. Thyroid. 1994;4:145-146.
  • (3)Allannic H, Fauchet R, Orgiazzi J, et al. Antithyroid drugs and Graves' disease: a prospective randomized evaluation of the efficacy of treatment duration. J Clin Endocrinol Metab. 1990;70:675-679.
  • (4)Weetman AP. Graves' disease. N Engl J Med. 2000;343:1236-1248.
  • (5)Torring O, Tallstedt L, Wallin G, et al. Graves' hyperthyroidism: treatment with antithyroid drugs, surgery, or radioiodine-a prospective, randomized study. Thyroid Study Group. J Clin Endocrinol Metab. 1996;81:2986-2993.
  • (6)Prummel MF, Wiersinga WM. Medical management of Graves' ophthalmopathy. Thyroid. 1995;5:231-234.
  • (7)Geffner DL, Hershman JM. Beta-adrenergic blockade for the treatment of hyperthyroidism. Am J Med. 1992;93:61-68.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)