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甲状腺機能低下症/慢性甲状腺炎(橋本病)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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甲状腺機能低下症/慢性甲状腺炎(橋本病)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの量がなんらかの要因によって減少し、その影響で体のさまざまな器官に不調がでてくる病気です。

 自覚症状としては、顔全体の腫れ、皮膚の乾燥、声が低くなる、便秘、手足のむくみ、体のだるさなどがあります。

 しかし、甲状腺の腫れ以外は目立った症状がほとんど現れない場合も少なくありません。

 成人にみられる甲状腺機能低下症のほとんどは、慢性甲状腺炎(橋本病)に続いて発症したものです。慢性甲状腺炎(橋本病)は、本来は体を守るべきリンパ球が自分の甲状腺を自分ではない外敵とみなして攻撃する自己免疫疾患で、およそ90年前に九州大学の橋本策博士が、この病気に対する研究を世界ではじめて詳細に報告したことからこの名前がつけられました。

 また、長期にわたって甲状腺機能低下症になり、その機能低下が著しい場合は、まれに、皮膚に特有の水腫ができます。これを粘液水腫といいます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 甲状腺機能低下症は、甲状腺の破壊や切除によっておこります。もっとも多いのは、慢性甲状腺炎(橋本病)が原因で甲状腺の機能が低下する場合です。

 また、バセドウ病の治療後に、甲状腺機能低下症がみられる場合もあります。このほか、ヨードを多く含む海藻類を大量に食べた場合にも一時的に機能低下をおこすことがあります。

 慢性甲状腺炎(橋本病)は甲状腺に炎症がおこる慢性の病気です。自己免疫疾患ですが、その原因は現在のところわかっていません。

 この病気にかかっている女性では出産後に、無痛性甲状腺炎といって、一時的に甲状腺ホルモンが多くなり、バセドウ病と同じような症状が現れることがあります。

 その後1~2カ月すると逆にホルモンは低下してしまい、不安定な状態となります。ただし、ほとんどは自然に回復に向かいます。

病気の特徴

 甲状腺機能低下症は男性よりも女性のほうが数倍多く、年齢とともに増えていきます。40歳~50歳代以降の女性では約20パーセントの人が慢性甲状腺炎(橋本病)といわれています。治療が必要な機能低下をおこしているのは、そのうちの10パーセント以下と考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
甲状腺ホルモン製剤を用いる ★3 甲状腺機能が低下している場合、甲状腺ホルモン製剤を使用すると機能が回復します。甲状腺機能が正常でも、甲状腺腫を小さくすることを目的に用いることがあります。これは臨床研究によって確認されています。 根拠(1)
副腎皮質機能不全を伴う場合は、副腎皮質ステロイド薬を用いてから甲状腺ホルモン製剤を用いる ★3 副腎皮質機能不全がある場合に甲状腺ホルモン製剤を使用すると急性腎不全を引きおこす危険性があるので、副腎皮質ステロイド薬を1週間服用してから甲状腺ホルモン製剤を服用します。これは臨床研究によって確認されています。 根拠(2)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

甲状腺ホルモン製剤

主に使われる薬 評価 評価のポイント
チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム) ★3 甲状腺ホルモン製剤は、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)

副腎皮質機能不全を伴う甲状腺機能低下症に対して

主に使われる薬 評価 評価のポイント
甲状腺ホルモン製剤 チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム) ★3 甲状腺ホルモン製剤は、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(1)
副腎皮質ステロイド薬 コートリル(ヒドロコルチゾン) ★3 副腎皮質ステロイド薬は、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(2)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

甲状腺ホルモン補充を徐々に増量していく

 慢性甲状腺炎(橋本病)であっても、甲状腺ホルモンが正常範囲内の量、分泌されていれば、甲状腺が著しく腫れて大きくなっている場合を除いて、特別な治療を必要としません。

 甲状腺ホルモンの分泌が低下している場合には甲状腺ホルモン製剤チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)を補充します。個人差がありますので、少量から始めて、血液検査で甲状腺ホルモンが正常範囲になるまで徐々に増量していきます。ほとんどのケースで、甲状腺ホルモン低下に伴ういろいろな症状がほぼ確実に消失します。

 お年寄りや循環器系の合併症のある人、あるいは動脈硬化の著しい人は、この治療を行うと狭心症や心筋梗塞を引きおこすことがあるので、その治療には注意が必要です。

 比較的まれですが、同時に副腎皮質機能不全を伴う場合は、まず副腎皮質ステロイド薬を補ったあとに甲状腺ホルモンを補います。

 また、治療をしているときに、急に甲状腺のサイズが大きくなった場合は、がんになっている可能性もあるので専門医の検査が必要になります。

ヨードを含む食品を多量にとると甲状腺が腫れることも

 食生活の注意としてはヨードを多く含む海藻類(こんぶ、わかめなど)を多く食べると甲状腺からホルモンがでにくくなり、甲状腺機能低下症の症状(便秘、むくみ、体のだるさなど)がみられ、甲状腺が腫れることがあります。しかし、ヨードを多く含む食品を食べないようにすると、3~5週間後には正常な状態に戻ります。

妊娠・出産も大きな問題はない

 また、慢性甲状腺炎(橋本病)は女性の患者さんが多いため、妊娠に対する影響が大きな問題となります。しかし、甲状腺機能が低下していても甲状腺ホルモンを服用して、血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になっていれば妊娠・出産をすることに深刻な問題はありません。ただし、産後6カ月ごろまでに、無痛性甲状腺炎がおこり甲状腺ホルモンが過剰になることがあります。その後、逆に甲状腺ホルモン不足になることがあるので、注意が必要です。

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根拠(参考文献)

  • (1)Dayan CM, Daniels GH. Chronic autoimmune thyroiditis. N Engl J Med. 1996;335:99-107.
  • (2)Lamberts SW, de Herder WW, van der Lely AJ. Pituitary insufficiency. Lancet. 1998;352:127-134.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)