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原発性アルドステロン症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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原発性アルドステロン症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 副腎皮質の球状層細胞からアルドステロンが過剰に分泌され、高血圧や手足の麻痺を引きおこす病気です。

 アルドステロンは塩分(血中ナトリウム)の調節を図るホルモンで、全身の血圧を正常に保つしくみにかかわっています。塩分が尿中に排出される量を調節し、体内の塩分の濃度を適切に保つ働きがあります。アルドステロンが過剰に分泌されると腎臓の尿細管に作用して、尿中から再吸収されて血中に戻るナトリウムが増加します。このときにナトリウムと交換されて尿中に排泄されるカリウムと水素イオンが増加します。つまり、血中では、ナトリウムが増え、逆にカリウムと水素イオンが減少することになります。そのため、血中のカリウムが減少する低カリウム血症、代謝性アルカローシスが引きおこされて、高血圧、手足の麻痺、筋力低下、多飲多尿、テタニーなどの症状が現れます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 この病気の原因の大部分は副腎にできた腫瘍(腺腫)ですが、細胞が過剰に増殖する両側副腎皮質過形成によることもあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
手術による腫瘍の摘出を行う ★3 腫瘍(腺腫もしくは過形成)を手術的に摘出することは根本的な治療法です。開腹術だけでなく、腹腔鏡による摘出も行われています。これらの効果については臨床研究によって認められています。ただしほとんどの患者さんで手術後血圧が低下しますが、正常化しない場合もあります。 根拠(1)(2)(5)
抗アルドステロン薬による薬物療法を行う ★3 手術が行われない場合に抗アルドステロン薬が用いられます。抗アルドステロン薬により血中のカリウムを維持する効果は、臨床研究によって確認されています。血圧が正常化し、カリウムを補充しなくても血清カリウム値が正常範囲に維持されるよう薬の量を調節します。副作用として消化器症状、全身倦怠感、勃起障害、女性化乳房などがあります。 根拠(1)(3)(4)
副腎皮質ホルモン合成阻害薬による薬物療法を行う ★2 副腎皮質ホルモンの合成を阻害することによって、血圧を低下させます。専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(7)
少量の糖質コルチコイドによる薬物療法を行う ★2 原発性アルドステロン症の患者さんの一部にみられる、糖質コルチコイドに反応して血圧が低下する糖質コルチコイド反応性アルドステロン症には、少量の糖質コルチコイドによる薬物療法を行います。 根拠(1)(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗アルドステロン薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アルダクトンA(スピロノラクトン) ★3 スピロノラクトンの効果は臨床研究によって確認されています。この薬はカリウム保持性利尿薬の一つで、ナトリウムの排泄を促進し、カリウムの排泄を抑制します。血圧が正常化し血清カリウム値が正常化するまで薬の量をしだいに増やします。 根拠(1)(3)(4)

副腎皮質ホルモン合成阻害薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
デソパン(トリロスタン) ★5 トリロスタンはカリウム値を改善させ、血圧を低下させる効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(7)

カルシウム拮抗薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アダラートL(ニフェジピン徐放剤) ★3 降圧薬であるカルシウム拮抗薬ニフェジピン徐放剤の効果は臨床研究によって確認されています。抗アルドステロン薬のみでは血圧がコントロールできない場合に併用されることがあります。ニフェジピン徐放剤以外の降圧薬として塩酸ベラパミルやアンジオテンシン変換酵素阻害薬なども有効です。 根拠(1)

糖質コルチコイド反応性アルドステロン症に対する薬物療法

主に使われる薬 評価 評価のポイント
デカドロン/コルソン(デキサメタゾン) ★2 原発性アルドステロン症の一部の患者さんで、糖質コルチコイドに反応して血圧が低下するタイプに用いられます。 根拠(1)(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

若い世代の高血圧は原発性アルドステロン症の可能性も

 中等度~高度な高血圧が若い年齢で発症した場合や、血液検査で低カリウム血症が見つかった場合などに、この病気が疑われます。確定診断のためには、アルドステロンやレニンなどのホルモン値を調べる検査や副腎の画像検査が行われます。

腫瘍の摘出手術が安全で確実な治療

 副腎の腫瘍によることが判明したなら、それらを手術的に摘出することが根本的な治療法ということになります。そうすることで、ほとんどの患者さんで血圧は正常化し、降圧薬を服用する必要はまったくなくなります。

 手術の方法には、従来の開腹術に加えて、腹腔鏡下での手術も行われるようになりました。腹腔鏡下手術では、側腹部を大きく切開する必要がなく、内視鏡などを挿入する小さな切開創ですみますので、体に与えるストレスが少なく入院日数も短期間ですみます。

 しかし、新しい手術法ですので、安全に行えるだけの経験を積んだ外科チームによる手術を受けるよう勧められます。

薬の内服により治療を選択する場合

 いろいろな併発疾患や合併症のため、手術的な治療よりも内科的な治療が望ましいと判断されたなら、抗アルドステロン薬などの薬の服用を続けます。

 高血圧が高度な場合には、抗アルドステロン薬のみでは血圧がコントロールできないことも多くあり、カルシウム拮抗薬など、そのほかの降圧薬も同時に用いられます。

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根拠(参考文献)

  • (1) Ganguly A. Primary aldosteronism. N Engl J Med. 1998;339:1828-1834.
  • (2) Gill IS. The case for laparoscopic adrenalectomy. J Urol. 2001;166:429-436.
  • (3) Ghose RP, Hall PM, Bravo EL. Medical management of aldosterone-producing adenomas. Ann Intern Med. 1999;131:105-108.
  • (4) Griffing GT, Melby JC. The therapeutic use of a new potassium-sparing diuretic, amiloride, and a converting enzyme inhibitor, MK-421, in preventing hypokalemia associated with primary and secondary hyperaldosteronism. Clin Exp Hypertens A. 1983;5:779-801.
  • (5) Sawka AM, Young WF, Thompson GB, et al. Primary aldosteronism: factors associated with normalization of blood pressure after surgery. Ann Intern Med. 2001;135:258-261.
  • (6) Dluhy RG, Lifton RP. Glucocorticoid-remediable aldosteronism. J Clin Endocrinol Metab. 1999;84:4341-4344.
  • (7) Nomura K, Demura H, Horiba N, et al. Long-term treatment of idiopathic hyperaldosteronism using trilostane. Acta Endocrinol (Copenh). 1986;113:104-410.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行