2003年初版 2016年改訂版を見る

特発性血小板減少性紫斑病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク

特発性血小板減少性紫斑病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 特発性血小板減少性紫斑病は、血液の血小板が減少し紫斑(点状や斑状の形をした出血)ができる病気です。出血したときに血を固める働きをする血小板が減少するので、体のさまざまな場所から出血しやすくなります。

 具体的には、紫斑が現れる、また歯ぐきからの出血、鼻血、便に血が混じったり、黒い便がでる、尿に血が混じる、月経過多、重症の場合は、脳出血などがあります。

 急性型と慢性型の2つに分けられます。急性型は子どもに多くみられ、主としてウイルス感染の1~2週間後に突然血小板が減少しますが、ほぼ3カ月以内に自然に回復します。一方、慢性型は成人女性に多くみられ、はっきりとした原因もなく、数カ月から数年にわたって徐々に発症し、治療でよくなってもしばしば再発をくり返します。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 免疫機能の異常な働きによって、血小板に対する「自己抗体」ができ、脾臓で血小板が破壊されるために、血小板の数が減ってしまうことが原因です。

 抗体は本来、体外から侵入してくる異物(抗原)を攻撃するものですが、この病気では自分の血小板を異物とみなして免疫システムが誤作動してしまいます。このため、自己免疫疾患と呼ばれます。なぜ「自己抗体」ができるのかについては、解明されていません。

 子どもでは85~90パーセントが急性のもので、その多くはかぜ、風疹、はしか、水ぼうそう、おたふくかぜなどのウイルス感染症を発症した1~6週間後に、皮膚や粘膜に紫斑が現れたり、鼻血などの症状がでます。

 慢性型では徐々に血小板が減少していきます。血小板が5万/マイクロリットル以下の軽症例では、皮膚に紫斑が現れます。2万/マイクロリットル以下の重症例は、そうした症状に加え鼻血や血尿などの症状がでてきます。

 さらに1万/マイクロリットル以下になるともっとも危険な脳出血の心配がでてきます。

病気の特徴

 特発性血小板減少性紫斑病の発症数は、子どもでは男女同数です。成人になると、男女比1対3と、女性に多く発症します。

 発症年齢は、子どもでは5歳未満がもっとも多く、成人では20歳代後半と40歳代後半に多く発症します。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
生命を脅かすようなひどい出血がある場合には、血小板輸血、副腎皮質ステロイド薬や免疫グロブリン製剤などを用いる ★2 専門家の間では、生命を脅かすようなひどい出血(脳出血、大量の消化管出血、性器出血など)がある場合は早急に血小板数を増加させる治療(血小板輸血、副腎皮質ステロイド薬を点滴により大量に入れるステロイドパルス療法、免疫グロブリン製剤を静脈注射するなど)をいくつか併用することが当然であるとの意見で一致しています。 根拠(1)
血小板数を増加させるために、副腎皮質ステロイドを用いる 子どもに対して ★5 副腎皮質ステロイド薬によって血小板数を増加できることが、臨床研究で示されています。とくに子どもの患者さんに対しては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。しかし死亡率を減少させるかどうかという長期的な効果については十分な研究がなされていません。 根拠(2)~(4)
成人に対して ★3
慢性型患者(成人)に対して免疫グロブリン製剤を用いる ★2 免疫グロブリン製剤静注療法をすると、成人慢性型の患者さんの約75パーセントで、血小板数が増加することがいくつかの臨床研究によって示されています。しかし3~4週間後には元の数に戻ってしまうことが多く(約75パーセント)、また、なかには治療をくり返すにしたがい、次第に効果が弱くなってしまう場合もあります。長期的にみて、死亡率を減少させるかどうかについては十分な研究がなされていません。 根拠(5)~(7)
手術により脾臓を摘出する 子どもに対して ★3 脾臓を摘出することで血小板が増加し、症状を落ち着いた状態で維持できることが臨床研究で示されています。いつ手術を行うべきかについては、十分な検討がなされていません。多くは内科的治療で効果がない患者さんや、重大な出血がおこった患者さんに行われている治療です。 根拠(8)~(10)
成人に対して ★3 脾臓を摘出することにより、血小板数が増加することが知られています。手術後、約3分の2の患者さんは、正常の血小板数を維持できるという臨床研究があります。 根拠(11)~(13)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
血小板輸血製剤 ★3 特発性血小板減少性紫斑病になった患者さんは、血小板が破壊されやすいため、輸血された血小板も通常よりも早く減少します。約半数(42パーセント)の患者さんは、輸血により血小板の数が2万/マイクロリットル以上増加し、輸血の効果を認める患者さんのうち38パーセントは、翌日まで効果が持続するという臨床研究があります。 根拠(14)(15)

副腎皮質ステロイド薬プレドニン(プレドニゾロン)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
子どもに対して ★5 子ども、成人いずれにおいても、血小板数を増加させることが臨床研究で示されています。とくに子どもの患者さんに対しての効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし長期的に死亡率を減少させるかどうかについては、十分な研究がなされていません。 根拠(2)(2)~(4)
成人に対して ★3

免疫グロブリン製剤グロブリン-Wf(人免疫グロブリン)

主に使われる薬 評価 評価のポイント
子どもに対して ★5 子ども、成人いずれにおいても、血小板数を増加させることが、臨床研究で示されています。とくに子どもの患者さんに対しての効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。しかし長期的に死亡率を減少させるかどうかについては、十分な研究がなされていません。 根拠(2)(16)(5)~(7)
成人に対して ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

解熱鎮痛薬の服用は最小限に

 一般に、血小板数が2万/マイクロリットル以下、あるいは5万/マイクロリットル以下で粘膜出血が著しい患者さんや、出血の危険性が高い患者さん(たとえば高血圧や消化性潰瘍をもっている人、外傷をおこしやすい職業の人)が治療の対象となります。日常生活では頭部を打撲しないように注意し、出血しやすくなる鎮痛解熱薬の服用は最小限にとどめ、とくにアスピリンは服用しないようにします。

急性型は自然に治ることも

 ただし、特発性血小板減少性紫斑病の急性型は自然に治ることがあるので、治療をせず経過をみていきます。また、成人で血小板数が2万以上の場合には、特別な治療をしないのが標準的になってきています。しかし、治療はしないといっても成人では子どもに比べて頭蓋内出血をおこすことが比較的多いので、転倒したり頭部を打ちつけたりしないように注意が必要です。

まずステロイド薬を用いる

 現在のところ、成人の慢性型の特発性血小板減少性紫斑病では、まず副腎皮質ステロイド薬を用いて、中止後に血小板がまた減った場合に脾臓を摘出、それでも増えない場合に免疫抑制薬を用いるという順番で治療が選択されるのが一般的です。約20パーセントは副腎皮質ステロイド薬で治癒し、脾臓の摘出で60~70パーセントが治ります。

重症の場合では血小板輸血が必要

 しかし、大量の消化管出血や性器出血、脳出血など、ひどい出血をおこしている状態の患者さんでは、血小板輸血を行い、副腎皮質ステロイド薬、免疫グロブリン製剤などを同時に使用します。

 このような集中的な治療法の有効性は、臨床研究で検証されているわけではありませんが、生命にかかわる状況では、医学的にも倫理的にも妥当な対応と考えられます。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1) George JN, Woolf SH, Raskob GE, et al. Idiopathic thrombocytopenic purpura: A practice guideline developed by explicit methods for the american society of hematology. Blood. 1996;88:3-40.
  • (2) Blanchette VS, Luke B, Andrew M, et al. A prospective, randomized trial of high-dose intravenous immune globulin G therapy, oral prednisone therapy, and no therapy in children acute immune thrombocytopenic purpura. J Pediatr. 1993;123:989-996.
  • (3) Cortelazzo S, Finazzi G, Buelli M, et al. High risk of severe bleeding in aged patients with chronic idiopathic thrombocytopenic purpura. Blood. 1991;77:31-33.
  • (4) Pizzuto J, Ambriz R. Therapeutic experience on 934 adults with idiopathic thrombocytopenic purpura: multicentric trial of the cooperative Latin American group on hemostasis and thrombosis. Blood. 1984;64:1179-1183.
  • (5) Bussel JB, Pham LC, Aledort L, et al. Maintenance treatment of adults with chronic refractory immune thrombocytopenic purpura using repeated intravenous infusions of gammaglobuline. Blood. 1988;72:121-127.
  • (6) Warrier IA, Lusher JM. Intravenous gammagloblin (gamimune) for treatment of chronic idiopathic thrombocytopenic purpura (ITP): a two-year follow-up. Am J Hematol. 1986;23:323-328.
  • (7) Lang JM, Faradji A, Giron C, et al. High-dose intravenous IgG for chronic idiopathic thrombocytopenic purpura in adults. Blut. 1984;49:95-99.
  • (8) Davis PW, Williams DA, Shamberger RC. Immune thrombocytopenia: Surgical therapy and predictors of response. J Pediatr Surg. 1991;26:407-412.
  • (9) Robb LG, Tiedeman K. Idiopathic thrombocytopenic purpura: Predictors of chronic disease. Arch Dis Child. 1990;65:502-506.
  • (10) Zaki M, Hassanein AA, Khalil AF. Childhood idiopathic thrombocytopenic purpura: Report of 60 cases from Kuwait. J Trop Pediatr. 1990;36:10-13.
  • (11) Naouri A, Feghali B, Chabal J, et al. Results of splenectomy for idiopathic thrombocytopenic purpura. Review of 72 cases. Acta Haematol. 1993;89:200-203.
  • (12) Julia A, Araguas C, Rossello J, et al. Lack of useful clinical predictors of response to splenectomy in patients with chronic idiopathic thrombocytopenic purpura. Br J Haematol. 1990;76:250-255.
  • (13) Fenaux P, Caulier MT, Hirschauer MC, et al. Reevaluation of the prognostic factors for splecectomy in chronic idiopathic thrombocytopenic purpura (ITP): a report on 181 cases. Eur J Haematol. 1989;42:259-264.
  • (14) Carr JM, Kruskall MS, Kaye JA, et al. Efficacy of platelet transfusions in immune thrombocytopenia. Am J Med. 1986;80:1051-1054.
  • (15) Baumann MA, Menitove JE, Aster RH, et al. Urgent treatment of idiopathic thrombocytopenic purpura with single-dose gammaglobulin infusion followed by platelet transfusion. Ann Intern Med. 1986;104:808-809.
  • (16) Rodeghiero F, Schiavotto C, Castaman G, et al. A follow-up study of 49 adult patients with idiopathic thrombocytopenic purpura treated with high-dose immunoglobulins and anti-D immunoglobulins. Haematologia. 1992;77:248-252.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行