ベーチェット病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
ベーチェット病とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
ベーチェット病は皮膚粘膜、目、外陰部、血管など全身に炎症がおき、病的な変化をきたす原因不明の病気です。
初期症状として口腔粘膜のアフタ性潰瘍、いわゆる口内炎をくり返します。その後、皮膚症状としてしこりのある紅斑(結節性紅斑)が現われ、痛みを伴います。目の症状が現れる頻度も高く、目の痛み、まぶしくてものが見えづらい羞明という状態や、目のかすみなどの症状(虹彩毛様体炎)が現れます。
このような目の症状は悪化して、視力が低下したり、失明に至ることもあります。また、外陰部にも潰瘍が発生し、痛みを伴います。軽度の関節炎が半数の患者さんに、血栓性静脈炎が4分の1の患者さんに認められます。
こうした症状は1~2週間でいったんおさまりますが、くり返しておこるのが特徴で、いずれ慢性化していきます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
現在のところ、はっきりとした原因はわかっていませんが、ウイルス、連鎖球菌、免疫異常、遺伝素因などが複雑に関係して引きおこされていると考えられています。
病気の特徴
2対1の割合で男性に多く、しかも30歳前後の働き盛りで発症することが多いとされています。ちなみにベーチェット病という病名は、トルコのベーチェット博士が最初にこの病気を報告したことにちなんで命名されました。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
コルヒチン(コルヒチン)を用いる | ★5 | コルヒチンの使用によって、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑などさまざまな症状が抑制されることは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2) | |
免疫抑制薬を用いる | ★5 | 免疫抑制薬であるアザチオプリンのベーチェット病に対する効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3) | |
副腎皮質ステロイド薬を用いる | ★2 | 副腎皮質ステロイド薬の炎症を抑える効果は専門家の意見と経験から支持されています。 | |
重症例ではステロイドパルス療法を行う | ★2 | 重症のベーチェット病に対するステロイドパルス療法(点滴静脈注射で大量のステロイドを注入する方法)には、強力な炎症を抑制する作用があることを考慮し、専門家の臨床経験から判断して、放置すると生命にかかわるような重症の患者さんでは行われます。 | |
炎症性腸疾患に対してサラゾスルファピリジンを用いる | ★2 | 腸管の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
血管炎を引きおこした場合は抗凝固療法を行う | ★2 | 血管の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
口腔内アフタ性潰瘍に対してトリアムシノロンアセトニドを用いる | ★2 | 口腔内の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
結節性紅斑、外陰部潰瘍に対してウフェナマートを用いる | ★2 | 皮膚の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
関節炎に対して非ステロイド抗炎症薬を用いる | ★2 | 関節内の炎症や痛みを抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
血栓性静脈炎に対して抗血栓療法を行う | ★2 | 血栓を取り除く作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
痛風発作治療薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
コルヒチン(コルヒチン) | ★5 | コルヒチンを用いることによって、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑などが抑制されることは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2) |
副腎皮質ステロイド薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ソル・メドロール(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム) | ★2 | 口腔内の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
免疫抑制薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
エンドキサンP(シクロホスファミド) | ★4 | ベーチェット病の患者さんの目の症状に対するシクロホスファミドの効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(4) | |
アザニン/イムラン(アザチオプリン) | ★5 | ベーチェット病の患者さんに対するアザチオプリンの効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(3) | |
サンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン) | ★5 | ベーチェット病の患者さんに対するシクロスポリンの効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(5) |
炎症性腸疾患治療薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
アザルフィジン/サラゾピリン(サラゾスルファピリジン) | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、腸管の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
抗凝固薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ワーファリン(ワルファリンカリウム) | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、血管の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
口内炎治療薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ケナログ(トリアムシノロンアセトニド) | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、口腔内の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
皮膚用薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
コンベック/フエナゾール(ウフェナマート) | ★2 | 皮膚の炎症を抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
非ステロイド抗炎症薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム) | ★2 | 関節内の炎症や痛みを抑制する作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 |
抗血栓薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
パナルジン(塩酸チクロピジン) | ★2 | 血栓を取り除く作用を考慮し、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
バファリン(アスピリン・ダイアルミネート配合剤) | ★2 | ||
ドルナー(ベラプロストナトリウム) | ★2 | ||
ワーファリン(ワルファリンカリウム) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
全身症状すべてに有効な治療法はなく、対症療法が中心となる
ベーチェット病は、遺伝的な体質に加えて、さまざまなウイルスや細菌の感染、免疫の異常などがかかわって発病すると推測されています。しかし、くわしいメカニズムはまだわかっていません。
そこで、全身に現れる多様な症状すべてに対して有効であるというような、決め手となる治療法はないのが現状です。それぞれの場所におこってくる炎症を抑える対症療法が中心となります。
なかでも、関節炎や外陰部潰瘍、結節性紅斑などくり返しおこってくる各種の症状に対してはコルヒチンが有効と考えられますが、とくに若い患者さんでは生殖機能への影響などに留意する必要があります。
深刻な眼症状や精神症状には副腎皮質ステロイド薬か免疫抑制薬を
ベーチェット病の多様な症状のなかでも、もっとも重大な合併症は、ぶどう膜炎(虹彩、毛様体、脈絡膜の部分をぶどう膜といい、ここに炎症がおきる。光がまぶしく感じられたり、目の前を蚊が飛んでいるように見える「飛蚊症」などがおもな症状)や虹彩毛様体炎、網膜血管閉塞、視神経炎(視神経に炎症をおこし、視力の低下や目の奥の痛みを伴う)など目におこる症状であり、放置すれば失明につながることもあります。
したがって、副腎皮質ステロイド薬、さらにはアザニン/イムラン(アザチオプリン)、サンディミュン/ネオーラル(シクロスポリン)など免疫抑制薬のいずれかを用います。
脳圧亢進症状や運動神経麻痺、精神症状などをきたす中枢神経症状が現れた場合も、それらの薬を用いることが妥当と考えられます。
局所の炎症症状には副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬を
しかし、それら以外の口内炎や外陰部潰瘍、皮膚病変に対しては副腎皮質ステロイド薬の外用薬を用いるのが安全といえます。膝や足首の関節炎の痛みが強い場合は、安静にしたうえで、非ステロイド抗炎症薬を用います。
おすすめの記事
根拠(参考文献)
- (1) Yurdakul S, Mat C, Tuzun Y, et al. A double-blind trial of colchicine in Behcet's syndrome. Arthritis Rheum. 2001;44:2686-2692.
- (2) Saenz A, Ausejo M, Shea B, et al. Pharmacotherapy for Behcet's syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD001084.
- (3) Yazici H, Pazarli H, Barnes CG, et al. A controlled trial of azathioprine in Behcet's syndrome. N Engl J Med. 1990;322:281-285.
- (4) Davatchi F, Shakram R, Chams H, et al. Pulse cyclophosphamide for ocular lesions of Behcet's disease: a double blind crossover study (abstr). Arthritis Rheum. 1999;42(suppl):S320.
- (5) Benezra D, Cohen E, Chajek T, et al. Evaluation of conventional therapy versus cyclosporine A in Behcet's syndrome. Transplant Proc. 1988;20(3 Suppl 4):136-143.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行