緊張型頭痛の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
緊張型頭痛とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
頭痛は大きく分けると、脳腫瘍、脳出血、くも膜下出血、髄膜炎などといった頭蓋内外に器質性の病気や外傷があるためにおこる症候性頭痛と、そうした病気がなく慢性的におこる機能性頭痛の二つがあります。症候性であるか機能性であるかによって、治療やその後の経過が大きく変わってきますので、これらをしっかり判別することが重要です。
経験したことのないような激しい頭痛、急性におこった頭痛、発熱、吐き気、嘔吐を伴う頭痛などではくわしい検査が必要となります。
緊張型頭痛は機能性頭痛の代表的なもので、慢性的におこる頭痛のなかではもっとも頻度の高いものです。前兆となるような症状はなく、両側におこります。痛みは徐々に増し、「頭が締めつけられるような」、「きついヘルメットで圧迫されているような」痛みが、おもに後頭部から頸部(首)にかけて持続します。
肩こりなど頸部の筋肉の過度の緊張を伴う場合が多く、また、疲労や精神的ストレス、悪い姿勢、睡眠不足などが引きがねになる場合もあります。
緊張型頭痛自体は深刻な状態を招くものではなく、寝込んだりする必要もありません。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
緊張型頭痛という名前が付いているのは、かつて頭頸部の筋肉の過度の収縮によって痛みがおこると考えられていたからです。しかし筋収縮と頭痛の因果関係は見いだされないことが近年の研究によってわかってきました。
現在、要因として考えられているのはストレスなど心理的な問題です。頭痛を悪化させる要因としては、眼精疲労、いすや机の高さと関係した無理な姿勢、頸椎の変形、歯の食いしばり癖などがあげられます。
病気の特徴
緊張型頭痛は、10歳代からお年寄りまで幅広い年齢層でみられます。そのなかでも、とくに多いのが中高年の女性です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
症候性との鑑別のためにCT検査を行う | ★3 | 症候性頭痛に特徴的な症状を認める場合には、頭部CTによる検査が必要です。アメリカで作成された診療ガイドラインによると、①神経学的異常を認める場合、②神経学的異常がはっきりしない場合(頭痛で目が覚める、高齢者の頭痛、進行性頭痛など)、③機能性頭痛の症状が非典型的な場合、頭部CTなどの画像検査を行うとされています。 根拠(1) | |
過労やストレスの多くなる要素がないか、仕事や生活を見直す | ★5 | 非常に信頼性の高い臨床研究によると、ストレスマネージメントによって頭痛の症状が軽快し、抗うつ薬と同等の効果が認められています。 根拠(2) | |
高い枕、悪い姿勢など頸部の筋肉に過度の緊張をもたらす習慣がないか見直す | ★2 | 生活習慣の見直しが効果的であることについては、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
頸部の筋肉の緊張をほぐすマッサージを行う | ★4 | マッサージなどの理学療法によって、頭痛の症状が軽快したとする信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(3) | |
適度な運動を行う | ★4 | 等張性運動を含む理学療法が、緊張型頭痛の頻度や強さを軽減したとの結果を示した信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(3) | |
適度な睡眠をとる | ★2 | 睡眠をとることは、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
不安を取り除くために抗不安薬を用いる | ★3 | 臨床研究によって効果が確かめられています。不安の症状が強い場合は有効かもしれません。 根拠(4) | |
筋肉の緊張をやわらげるために筋弛緩薬を用いる | ★2 | 臨床研究によって効果が確認されています。しかし、一つの研究ではプラセボ(偽薬)と変わりないという報告があります。したがって第二選択薬となると思われます。 根拠(5)(6) | |
うつ状態が激しいときは抗うつ薬を用いる | ★5 | 抗うつ薬は非常に信頼性の高い臨床研究によって、プラセボと比べ頭痛症状、鎮痛薬の減量、頭痛に関連した身体症状を減少させる効果があることが示されています。うつ状態に対してだけではなく、頭痛の症状に対しても用いるべきでしょう。 根拠(2)(7) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
不安が強い場合
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
デパス(エチゾラム) | ★2 | エチゾラム、オキサゾラムともに専門家の意見や経験から支持されているものです。アルプラゾラムは、効果を認めたとの臨床研究があります。 根拠(4) | |
セレナール(オキサゾラム) | ★2 | ||
コンスタン/ソラナックス(アルプラゾラム) | ★3 |
筋緊張が強い場合
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
テルネリン(塩酸チザニジン) | ★2 | 塩酸チザニジンはいくつかの臨床研究で効果が報告されています。しかし、一つの報告ではプラセボと変わりないという報告があるので、第二選択薬になると思われます。塩酸エペリゾンに関しては、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(5)(6) | |
ミオナール(塩酸エペリゾン) | ★2 |
うつ状態が強い場合
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) | ★5 | 予防薬として有効です。非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(2)(7) |
痛みが強い場合短期間に用いる
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
バファリン(アスピリン・ダイアルミネート配合剤) | ★4 | 信頼性の高い臨床研究によって、アスピリン・ダイアルミネート配合剤の効果が確認されています。 根拠(8) | |
ポンタール(メフェナム酸) | ★2 | メフェナム酸は、専門家の意見や経験から支持されています。 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
原因となる深刻な疾患がないかどうかを見極める
頭痛での最大の心配は、生命にかかわる病気がないかどうかです。
脳腫瘍、脳出血、くも膜下出血、髄膜炎などといった深刻な病気や外傷があるために頭痛がおこっている場合もあります。したがって、一度は、くわしい症状と診察結果に基づいて、必要ならばCT検査で頭蓋内の異常がないことを確かめる必要があります。
これまで経験したことのないような激しい頭痛であるとか、急性におこった頭痛であるとか、発熱、吐き気、嘔吐を伴う頭痛などでは、とくに注意が必要となるでしょう。
ストレスマネージメントのノウハウを学ぶ
頭蓋内に異常がないことが確かめられたうえで、頭痛の誘因となる因子を見つけ出し、可能ならばその因子を取り除きます。
過労やストレス、とくに仕事上のストレス、睡眠不足などがしばしば緊張型頭痛の要因となっています。医師やカウンセラーなどから、ストレスマネージメントのノウハウを学ぶのも一つの方法でしょう。
必ずしも質の高い根拠はなくても、人によっては運動(速足歩行、ジョギング、水泳、自転車など)や、仕事のスケジュール調整が緊張型頭痛の軽減に役立つことも少なくありません。
このような方法は、副作用もなく自分でできるものです。体に無理のない方法で試してみる価値は十分あると思われます。
マッサージや抗うつ薬も効果が
いったんおこった頭痛については、頸部の筋肉のマッサージ、抗不安薬の服用、場合によれば抗うつ薬の服用が有効なこともあります。とくに、抗うつ薬については、頭痛症状そのものだけでなく、鎮痛薬の減量、頭痛に関連した身体症状を軽減する効果が、非常に信頼性の高い研究によって認められています。
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根拠(参考文献)
- (1) Silberstein SD, Rosenberg J. Multispecialty consensus on diagnosis and treatment of headache. Neurology. 2000;54:1553.
- (2) Holroyd KA, O'Donnell FJ, Stensland M, et al. Management of chronic tension-type headache with tricyclic antidepressant medication, stress management therapy, and their combination: a randomized controlled trial. JAMA. 2001;285:2208-2215.
- (3) Hammill JM, Cook TM, Rosecrance JC. Effectiveness of a physical therapy regimen in the treatment of tension-type headache. Headache. 1996;36:149-153.
- (4) Shukla R, Nag D, Ahuja RC. Alprazolam in chronic tension type headache. J Assoc Physicians India. 1996;44:641-644.
- (5) Fogelholm R, Murros K. Tizanidine in chronic tension-type headache: a placebo controlled double-blind cross-over study. Headache. 1992;32:509-513.
- (6) Murros K, Kataja M, Hedman C, et al. Modified-release formulation of tizanidine in chronic tension-type headache. Headache. 2000;40:633-637.
- (7) Tomkins GE, Jackson JL, O'Malley PG, et al. Treatment of chronic headache with antidepressants: a meta-analysis. Am J Med. 2001;111:54-63.
- (8) Steiner TJ, Lange R, Voelker M. Aspirin in episodic tension-type headache: placebo-controlled dose-ranging comparison with paracetamol. Cephalalgia. 2003;23:59-66.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行