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片頭痛の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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片頭痛とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 片頭痛は体にとくに病気や外傷がないにもかかわらず、慢性的におこる頭痛です。なにか特別な病気が原因となる頭痛と区別することが重要となります。

 片頭痛の多くは、片側の額やこめかみにおこりますが、おこる側は一定していません。いつも同じ側とは限らず、発作がおこるたびに違う側になったり、頭のうしろや頸部(首)まで痛みが広がっていったり、逆に後頭部から前頭部に向けて痛みが広がっていく場合、あるいは両側に痛みを感じる場合もあります。

 ほとんどが脈にあわせてズキンズキンと痛む拍動性の痛みで始まり、その後、持続性の鈍痛に変わります。吐き気や嘔吐を伴うことも少なくありません。

 片頭痛がおこる前には、妙に興奮が高まって高揚したり、反対に憂うつになったり、いらいらしたり、さらに甘いものが欲しくなる、食欲が通常より進むといった、さまざまな気分や体調の変化がおこることもあります。

 これらの変調のほか、前兆となる視覚の異常や神経症状が現れる場合もあります。

 代表的な前兆症状は、目の前がちらちらする、ぎざぎざの光が現れて視野が狭くなる、体の左右どちらかにしびれがでたり脱力したりする、などです。このような前兆は頭痛が始まると徐々に消えていきます。

 頭痛がおこる回数は年に1~2回というものから、ほとんど毎日おこる場合もあり、持続時間も短いものから数日続くものまで患者さんによってさまざまです。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 片頭痛の発症のメカニズムについて、くわしいことは解明されていません。脳内の血管や血流、三叉神経などが関係しているのではないかと考えられています。

 とくに、セロトニンという脳内の神経伝達物質の役割が注目され、最近になって治療に応用されはじめています。

 セロトニンは動脈を引き締め収縮させる物質ですが、片頭痛の患者さんでは、このセロトニンが一時的に減ってしまうことがわかっています。そのため、脳内の血管が一気にゆるんで拡張すると、動脈の周囲をとり囲んでいる神経が引っぱられ、拍動にあわせて痛むことになります。このとき、痛みを感じやすくする物質が放出されるのではないかとも推測されています。

 また、脳内でなんらかの物質によって三叉神経が刺激され、三叉神経を支配している血管に炎症反応がおきるため、血管が拡張し、痛みがおこるという仮説もあります。

 このような脳内の血管の反応をおこすきっかけには、次のようなものが考えられています。食事を抜いている、睡眠時間がふだんより多い、または少ない、特定の食品、ストレス、過激な運動、天候の急激な変化、光のまぶしさ、たばこ、香水、化学薬品の匂いなどです。

病気の特徴

 頭痛は一般的に5歳~55歳までの幅広い年齢層に多くみられ、女性と男性では3対1の割合で女性に多くみられます。とくに女性の場合は、月経の前後に症状が現れることが多く、これは女性ホルモンの変化が引きがねとなっているからだと考えられています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ストレスを取り除きリラックスするようにする ★5 片頭痛はストレスと強い関連があります。リラックスすることで発作の頻度が減り、症状が改善することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(1)(2)
適度な睡眠をとる ★5 睡眠不足は片頭痛を引きおこす原因となります。規則的な生活を送り、適度な睡眠をとることで症状が改善するという、非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(3)
片頭痛をおこす可能性のある食品は避ける ★2 臨床研究で、チーズなどチラミンを含む食品と片頭痛との関連性が示唆されていますが、ある特定の食事を避けると片頭痛が改善するかどうかはまだはっきりとしていません。ただし、明らかな関連が疑われる場合には避けるようにしましょう。 根拠(4)(5)
騒音や強い光が引きがねになる場合には、それらを避ける ★3 臨床研究によって、騒音や強い光が片頭痛を引きおこすケースが知られています。騒音や強い光が引きがねになる場合には、それらを避けるようにしましょう。 根拠(6)(7)
頭痛発作がくり返しおこる場合には発作予防薬を用いる ★5 片頭痛の発作がくり返しおこり、日常生活の活動に著しい影響がある場合には、片頭痛を予防する目的の薬を服用するよう、非常に信頼性の高い臨床研究によって勧められています。予防薬を使用することで頭痛の頻度を減らすことができます。 根拠(8)(9)
痛みが激しく、日常生活に支障をきたす場合には鎮痛薬を用いる ★5 片頭痛の急性発作時に、いくつかの薬剤が有効であることがわかっています。副作用や使用制限などに注意しながら用いることで、症状を緩和することができます。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(8)(9)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

片頭痛の予防薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テグレトール(カルバマゼピン) ★5 抗てんかん薬であるカルバマゼピンは、片頭痛を予防する効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
トリプタノール(塩酸アミトリプチリン) ★5 抗うつ薬である塩酸アミトリプチリンは、片頭痛を予防する効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
テノーミン(アテノロール) ★5 降圧薬としても用いられるβ遮断薬のアテノロール、酒石酸メトプロロール、ナドロール、塩酸プロプラノロールやカルシウム拮抗薬の塩酸ベラパミルは、片頭痛を予防する効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
ロプレソール/セロケン(酒石酸メトプロロール) ★5
ナディック(ナドロール) ★5
インデラル(塩酸プロプラノロール) ★5
ワソラン(塩酸ベラパミル) ★5
ピリナジン/カロナール(アセトアミノフェン) ★5 非ステロイド抗炎症薬のアセトアミノフェンは、一般的に鎮痛薬として用いられていますが、片頭痛を予防する効果もあることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
ミグシス/テラナス(塩酸ロメリジン) ★2 新しいタイプのカルシウム拮抗薬である塩酸ロメリジン、抗セロトニン受容体拮抗薬であるメシル酸ジメトチアジンは、片頭痛の原因に深く関連している薬であるため、ほかの予防に用いられる薬と同等の効果があると考えられ、専門家によって経験的に支持されています。
ミグリステン(メシル酸ジメトチアジン) ★2

片頭痛急性発作の治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
イミグラン(コハク酸スマトリプタン) ★5 コハク酸スマトリプタンやエルゴタミン配合剤は、頭部の血管の拡張を抑えることによって、片頭痛の症状をやわらげる効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
カフェルゴット/ヘクト・M(エルゴタミン配合剤) ★5
ピリナジン/カロナール(アセトアミノフェン) ★5 アセトアミノフェンなどの非ステロイド抗炎症薬は、一般的に鎮痛薬として用いられていますが、片頭痛についても効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
フェノバール(フェノバルビタール) ★5 抗てんかん薬であるフェノバルビタールは、片頭痛の治療薬としても効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)

吐き気が強い場合の治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
プリンペラン(メトクロプラミド) ★5 一般的に制吐薬として用いられるこれらの薬は、片頭痛の際の吐き気についても効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(8)(9)
コントミン/ウインタミン(塩酸クロルプロマジン) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

発作の誘因になるものを避ける

 片頭痛をもっている患者さんの多くは、それまでの経験から、どんなことがきっかけとなって頭痛がおこるか、発作を引きおこす要因に気づいています。たとえば、仕事上や家庭内のストレス、睡眠不足、騒音、強い光などです。そのような場合は、できるだけ、片頭痛のきっかけとなるそれらのできごとを避けたり予防したりすることができれば理想的でしょう。

 発作がおきた場合には、ピリナジン/カロナール(アセトアミノフェン)などの一般的な鎮痛薬、あるいは抗セロトニン受容体拮抗薬を用い、吐き気を伴う場合には制吐薬も対症的に用います。

予防用の薬と規則正しい生活を

 頻繁に発作をおこして日常生活に支障をきたす場合には、予防薬を服用します。

 予防効果のあることが実証されている薬は比較的多いため、使ってみてもっとも副作用の少ないものを見つけるとよいでしょう。

 随時服用する薬については医師とよく相談のうえ、用いるようにすることが大切です。

 片頭痛は一生つきあっていかなければならない慢性の病気ですが、生活習慣に気をつけたり、適切な薬を使うことによって、症状を十分にコントロールすることができます。

 予防するには、運動の習慣を身につけること、忙しいからといって食事を抜いたりせず規則正しい食事をすること、ストレスをためないようリラックスする方法を見つけることなどが大切です。

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根拠(参考文献)

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  • (8) Steiner TJ, MacGregor EA, Davies PTG. GUIDELINES FOR ALL DOCTORS IN THE DIAGNOSIS AND MANAGEMENT OF MIGRAINE AND TENSION-TYPE HEADACHE. 2nd edition approved for publication, 27th March 2000. available at http://www.bash.org.uk/
  • (9) Silberstein SD. Practice parameter: evidence-based guidelines for migraine headache (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2000;55:754-762.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行