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三叉神経痛の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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三叉神経痛とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 三叉神経痛は神経痛の一つです。なんらかの原因によって神経が刺激され、その神経が支配している部分にそって激しい痛みを感じるのが神経痛です。

 三叉神経は顔面の感覚を脳に伝える神経で、眼神経(第1枝)、上顎神経(第2枝)、下顎神経(第3枝)の3本の枝に分かれています。三叉神経痛はこのうちのどれかの神経に非常に激しい痛みが生じる病気です。痛みは、通常、顔面の片側におこり、電気が走るような衝撃、焼け火箸が突き刺さるような痛みと表現されることもあります。

 歯みがき、洗面、ひげそり、ものをかむ、冷たい風に吹かれる、軽く顔に触れる、話すことなどによって突然痛みが誘発されます。数秒から数十秒と持続時間は短いのですが、くり返しおこり、痛みの激しさのために顔をしかめるような表情が特徴的な症状となります。

 あまりにも激しい痛みのためにうつ状態になったり、食事ができなくなって体調を崩すこともあります。患者さんにとってつらいのは、症状が進むにつれて、痛みが強くなり、さらに痛みがおこる回数も増えてくることです。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因が明確でない特発性と、なんらかの原因疾患のある症候性とに分かれます。特発性のものは第2枝、第3枝に多く、症候性は第1枝に多くみられます。症候性の原因としては、動脈硬化などで形が変形した動脈や静脈が三叉神経に直接触れ、神経を圧迫することがあげられます。

 そのほか、炎症や外傷、帯状疱疹ウイルス、感染後の後遺症、多発性硬化症、脳腫瘍などが原因と考えられます。

病気の特徴

 一般的にお年寄りに多いとされていますが、30歳未満に発症する場合は腫瘍が見つかることが多くあります。症状が現れるのは、冬よりは秋口、春先など急に気温が低下し、突然寒さを感じるような日に多くなっています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
長期にわたる可能性を理解し、痛みにあまり意識を集中しないようにする ★2 痛みに関して意識を集中しないでおくことで、痛みが軽減する場合もあります。専門家の意見や経験から支持されています。
特発性と症候性とを鑑別する(CT、MRI検査) ★4 CT、MRI検査は、脳腫瘍、多発性硬化症の診断に有用です。深刻な病気との鑑別を行う重要性は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。MRIによって血管が三叉神経を圧迫しているかどうか知ることができます。 根拠(1)
特発性のものに対しては抗てんかん薬を用いる ★5 いくつかの非常に信頼性の高い臨床研究によって、抗てんかん薬が三叉神経痛を軽減することが確認されています。 根拠(2)
うつ傾向がみられる場合は抗うつ薬を用いる ★2 痛みの発作が長引き、うつ傾向を認めた場合は、その症状を抑えるために抗うつ薬を用いることが専門家の意見や経験から支持されています。ただし、三叉神経痛そのものを治すことはできません。
神経ブロックを検討する ★2 神経ブロックとは、痛みを支配している神経に麻酔薬を注入し、痛みの伝達を遮断する治療法です。三叉神経痛に対して顔のむくみなどの副作用が臨床研究で報告されています。これらのことから、現在のところ、すべての患者さんに勧められる治療とはいえません。 根拠(3)
微小血管減圧術を検討する ★3 抗てんかん薬によって症状の改善を認めない患者さん、また副作用などで服用が困難な患者さんには微小血管減圧術が行われています。これは、三叉神経痛の原因となっている脳の血管の神経への圧迫を手術によって取り除くというものです。手術後に症状が改善したとの臨床研究がいくつか報告されており、合併症も少なく、効果が確認されています。 根拠(4)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗てんかん薬を服用する

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テグレトール(カルバマゼピン) ★5 いくつかの非常に信頼性の高い研究報告によって、三叉神経痛に対する抗てんかん薬の効果が確認されています。 根拠(2)

カルバマゼピンの働きを助けるためにビタミン薬を併用する

主に使われる薬 評価 評価のポイント
混合ビタミンB群 ★2 いずれの薬も、専門家の意見や経験から支持されている薬剤です。 うつ傾向がみられる場合には抗うつ薬を用いる
ビタミンB12 ★2
トフラニール/イミドール(塩酸イミプラミン) ★2 うつ症状が強い場合は、その改善のために抗うつ薬を用いる場合もあります。

さらに抗てんかん薬を追加する

主に使われる薬 評価 評価のポイント
アレビアチン/フェニトイン/ヒダントール(フェニトイン) ★5 フェニトインを単独で使用する場合は有効であるとの非常に信頼性の高い臨床研究がありますが、カルバマゼピンとの併用で効果が増加するかどうかはわかっていません。 根拠(5)
リボトリール/ランドセン(クロナゼパム) ★3 臨床研究では激しい痛みの軽減に効果があることが確認されています。しかし、カルバマゼピンとの併用によって効果が増加するかはわかっていません。 根拠(6)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

特発性か原因があるものかの区別を

 最初に、三叉神経痛がおきる原因があるかどうか、つまり特発性と、ほかに原因となる病気がある症候性との区別を確実に行います。そのためにCT検査やMRI検査が必要となります。

 特発性の場合は抗てんかん薬による薬物療法を行います。とくに、テグレトール(カルバマゼピン)がよく用いられています。

 この薬はてんかんばかりでなく、躁病、躁うつ病の躁状態、統合失調症の興奮状態に対して使用する薬です。

 テグレトール(カルバマゼピン)についてはよく研究されていて、効果があることを示す非常に信頼性の高い臨床研究の報告があります。

血管が神経を圧迫しているものには手術を

 抗てんかん薬で効果の現れない患者さんや副作用によって抗てんかん薬を用いることのできない患者さんでは外科的な治療が検討されます。

 外科的な治療としては微小血管減圧術の効果がいくつかの臨床研究によって証明されています。三叉神経痛の多くは血管が神経を圧迫するために生じています。微小血管減圧術はその圧迫している血管を神経から引き離し、血管と神経の間にできたすき間にクッションとなるものを入れこみ、再び圧力が加わらないようにするものです。

 顕微鏡下で行う手術なので、比較的患者さんの負担は軽いと考えられますが、手術を行う医師の熟練が要求されます。十分に専門医と検討したうえで選択すべきでしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1) Bakshi R, Lerner A, Fritz JV, et al. Vascular compression in trigeminal neuralgia shown by magnetic resonance imaging and magnetic resonance angiography image registration. Arch Neurol. 2001;58:1290-1291.
  • (2) McQuay H, Carroll D, Jadad AR, et al. Anticonvulsant drugs for management of pain: a systematic review. BMJ. 1995;311:1047-1052.
  • (3) Bittar GT, Graff-Radford SB. Peripheral streptomycin/lidocaine injections versus lidocaine alone in the treatment of idiopathic trigeminal neuralgia. A double blind controlled trial. J Craniomaxillofac Surg. 1990;18:243-246.
  • (4) Barker FG 2nd, Jannetta PJ, Bissonette DJ, et al. The long-term outcome of microvascular decompression for trigeminal neuralgia. N Engl J Med. 1996;334:1077-1083.
  • (5) Jensen TS. Anticonvulsants in neuropathic pain: rationale and clinical evidence. Eur J Pain. 2002;6(Suppl A):61-68.
  • (6) Smirne S, Scarlato G. Clonazepam in cranial neuralgias. Med J Aust. 1977;1:93-94.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行