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くも膜下出血の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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くも膜下出血とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 脳の表面は軟膜というやわらかい膜で包まれ、さらに、くも膜、硬膜と呼ばれる三つの膜で覆われています。このうち、軟膜とくも膜の間にあるすき間(くも膜下腔)には、脳の比較的太い動脈が多数、根を張るようにして走っています。この部分の動脈が破裂して脳の表面に出血がおこるのが、くも膜下出血です。

 出血がおこると、その瞬間に過去に経験がないほどの猛烈な頭痛と吐き気に襲われます。出血の量が激しい場合は、そのまま意識不明となったり、非常に重症な場合には突然死したりすることもあります。

 くも膜下出血は、出血がいったん止まっても再出血することが多く、その再出血によって約半数は死に至ります。最初の出血から2週間以内に約20パーセントが再出血するといわれ、とくに1日以内におこることが多くなっています。

 たいていの場合、出血はくも膜下腔に限られ脳の内部に至らないため、運動障害、言語障害、知覚障害などはおこりません。

 くも膜下出血から数日後から2~3週間の間に血管れん縮という深刻な状態がおこることがあります。これは、脳の血管が収縮して血液の流れが悪くなる状態で、この症状がおこると、話すことができなくなったり、麻痺がおこったり、脳梗塞や脳死に至る場合もあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 くも膜下出血の大部分は、脳動脈の一部がふくらんでできたこぶ(動脈瘤)が破裂して出血したものです。そのほか、脳動静脈奇形などによるものもあります。

 脳動脈瘤は血管が分岐する部分に発生しやすく、もともと血管に弱いところがあると、そこに長い年月血圧が加わることで、しだいにふくらみ、大きくなっていきます。これが破裂して、くも膜下腔に広く散らばった状態で出血します。その血液が脳の動脈を圧迫したり、頭のなかの圧力をあげたりすることで激しい頭痛がおこります。脳動脈瘤は脳のなかに存在していても、それだけではなんの症状もありません。

病気の特徴

 脳卒中のうち約10パーセントがくも膜下出血です。毎年、1万人に1人の割合で発病しており、発病する人は、わずかながら増加傾向にあります。

 全体の約3分の1の人が初回の破裂で死亡するといわれています。

 働き盛りの年代に多いとされる病気であり、脳梗塞や脳出血に比べて、やや若い50歳代に発病する人が多く、発病する平均年齢は55歳です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
脳動脈瘤頸部クリッピング術を行う ★4 脳動脈瘤頸部クリッピング術の効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。脳動脈瘤手術の歴史は古く、1800年代後半から行われてきましたが、初期の手術成績は不良で、手術を無事に終えたあともベッド上で安静にしていなくてはなりませんでした。しかし、その後、手術テクニックが改良され、1970年前後には脳動脈瘤頸部クリッピング術がほかの治療法と比較してもっともすぐれた治療法であるというコンセンサス(認識)が確立されました。ただし、最近は脳血管内手術による塞栓術という新しい治療法が生まれ、脳動脈瘤頸部クリッピング術に代わる治療として注目されています。 根拠(1)
脳血管内手術による塞栓術を行う ★5 最近の非常に信頼性の高い臨床研究によると、脳血管内手術による塞栓術(脳動脈瘤のなかに白金コイルを入れて再出血を防ぐ)の成績は脳動脈瘤頸部クリッピング術よりすぐれているという結果が示されています。ただし、この手術も脳動脈瘤頸部クリッピング術も高度な技術を要するために、手術を行う医師の技量により結果は大きく異なると思われます。 根拠(2)(3)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

できるだけ早く手術をして脳動脈瘤の再破裂を防ぐ

 発作後は速やかに、できれば72時間以内に手術を行うことが勧められています。手術の方法には、脳動脈瘤頸部クリッピング術と脳血管内手術による塞栓術の2種類があります。

 脳動脈瘤頸部クリッピング術は、開頭して脳動脈瘤の付け根にクリップをかけ、再破裂しないようにする手術です。

 脳血管内手術による塞栓術は、大腿動脈から入れたカテーテル(管)を介して脳動脈瘤のなかに白金コイルを入れます。コイルを入れると動脈瘤の内側に血栓がつくられるため、再出血を防ぐことができます。

 いずれも信頼性の高い臨床研究によって、その有効性が確認されている術式ですが、最近の研究では脳血管内手術による塞栓術のほうが脳動脈瘤頸部クリッピング術より効果が高いという報告がなされています。

 ただし、脳血管内手術による塞栓術は比較的新しい術式ですので、現在のところ、医師の技量によって手術がうまくいくかどうか左右される部分が大きいと思われます。

 また、どちらの手術がどのようなケースでより好ましいのか、現在、大規模な臨床研究が行われているところです。数年後にはその結果によって、どちらの方法が標準的に行われるべきか、専門家の意見が集約されることになると思います。

発作後におこる脳血管の収縮が予後を左右することも

 くも膜下出血に見舞われたあと、脳血管が収縮して血流が悪くなる血管れん縮という状態がおこることがあります。これはその後の経過を決定する重大な病状で、生命にもかかわります。

 血管れん縮がひどい場合は、大部分の脳が虚血に陥り、死に至ることも少なくありません。

 現在のところ、このような血管れん縮を確実に取り除くことが証明されている薬はありません。

 血管れん縮を少しでも予防するために、点滴静脈注射での輸液の内容や量を注意深く調節することが一般的に行われています。

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根拠(参考文献)

  • (1)日本脳卒中学会 脳卒中治療ガイドライン2009
  • (2)Vanninen R, Koivisto T, Saari T, et al. Ruptured intracranial aneurysms: acute endovascular treatment with electrolytically detachable coils--a prospective randomized study. Radiology 1999;211:325-336.
  • (3)van der Schaaf I, Algra A, Wermer M, Molyneux A, Clarke M, van Gijn J, et al. Endovascular coiling versus neurosurgical clipping for patients with aneurysmal subarachnoid haemorrhage. Cochrane Database Syst Rev 2005(4):CD003085
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)