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慢性硬膜下血腫の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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慢性硬膜下血腫とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 脳は外側から順に、硬膜、くも膜、軟膜の3つの膜でおおわれています。慢性硬膜下血腫は、このうち硬膜の内側(下)に、じわじわといつのまにか血がたまる病気です。

 頭部の軽い打撲から2週間以上、場合によっては1~3カ月くらいたってから発見されることがよくあります。

 たまる血液が少量なら症状はありません。たまる血液が多いと、頭痛に始まり、手足の麻痺、歩行障害それに思考力の低下、記憶力の低下など認知症の症状がみられます。お年寄りの場合は記憶力の低下が最初の症状となることもあります。手術で完全に治る病気です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 原因は頭部の軽い打撲によるものと、肝機能障害や腎透析によって血液が固まりにくくなっていることによるものに大別されます。打撲が原因の場合は、ドアに頭をぶつけたといった程度のごく軽いものでもおこることがあります。また、肝機能障害はアルコール類の飲みすぎによるものがほとんどです。打撲とアルコール類の飲みすぎが重なっていることも珍しくありません。

病気の特徴

 60歳以上の男性に多い病気です。アルコールをよく飲む人に多いのも特徴です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
保存療法の場合 副腎皮質ステロイド薬を用いる ★3 症状がほとんどなく、硬膜下に出血が少ない場合や、全身状態がよくないため手術を控えざるを得ない場合には、副腎皮質ステロイド薬を使用し、経過を観察することがあります。小さい血腫は自然に吸収されてなくなり、数年後には、その部分が石灰化して落ち着きます。ただし、ある程度大きな血腫では、自然に吸収されるまでに長期間かかり、また完全に吸収されないこともあります。 根拠(1)(2)
脳圧降下薬を用いる ★2 脳圧降下薬の効果は臨床研究によって確認されていませんが、専門家の経験から用いられることがあります。手術をせずに脳圧降下薬を用いても、血腫が縮小、消失するまでに長期間かかります。そのため、症状がなかなかよくならないことが多いので、症状がある場合には早期に手術をすることが必要です。症状がなく、偶然に発見された場合は、手術をせずに経過をみることがありますが、この場合も手術が必要になることが少なくありません。
止血薬を用いる ★2 止血薬は、専門家の経験から用いられることがあります。手術をせずに止血薬などを用いても、血腫が縮小、消失するまでに長期間を要します。そのため、症状がなかなかよくならないことが多いので、症状がある場合は早期に手術をすることが必要と考えられます。
手術の場合 穿頭ドレナージ術を行う ★3 慢性硬膜下血腫による麻痺や意識障害などの神経症状がある場合は、手術で血腫を取り除くことが最善の治療であることが臨床研究によって確認されています。頭蓋骨に小さな穴をあけて硬膜を切開し、そこから管を入れて血腫を取り除く方法が、穿頭ドレナージ術です。血腫の中身は多くの場合液状なので、管を入れるだけで自然に流れでてきます。この手術は脳神経外科の手術のなかでももっとも安全な手術の一つです。局所麻酔で行えるので、お年寄りであってもよほど全身状態が悪くない限り行うことができます。手術を行うことで症状は速やかに消失します。入院期間は1週間程度です(最近は術後2、3日で退院することも多くなっています)。ただ難点は、血腫がまたできて再手術が必要となる場合が全体の10パーセント程度あることです。それでも穿頭ドレナージ術後の再発率は、穿頭洗浄術よりも低いといわれています。 根拠(3)
穿頭洗浄術を行う ★3 穿頭洗浄術は、頭蓋骨に小さな穴をあけて硬膜を切開し、そこから管を入れて血腫を生理食塩水で洗い流す方法です。この手術も脳神経外科の手術のなかでももっとも安全な手術の一つです。手術を行うことで症状は速やかに消失します。入院期間も1週間程度です(最近は術後2、3日で退院することも増えてきています)。ただし、血腫が再びたまって再手術が必要となる場合もあります。再発率は穿頭ドレナージ術より高いといわれています。 根拠(3)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

脳圧降下薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
グリセオール(濃グリセリン・果糖配合液) ★2 臨床研究によって効果は確認されていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。ただし、手術をせずに脳圧降下薬を用いても、血腫が縮小、消失するまでに長期間を要します。そのため、症状がある場合には早期に手術をすることが必要と考えられます。

止血薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
トランサミン(トラネキサム酸) ★2 専門家の意見や経験から用いられることがあります。ただし、手術をせずに止血薬などを用いても、血腫が縮小、消失するまでに長期間を要します。そのため、症状がなかなかよくならないことが多いので、症状がある場合は早期に手術をすることが必要と考えられます。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

症状がある場合は手術で血腫を取り除く

 慢性硬膜下血腫の症状は、脳卒中や認知症の症状と似ていることが多いのですが、CTやMRIなどの検査で診断がつきます。正確な診断のもと、手術で血腫を除去しさえすれば、ほぼ完全に症状は消失します。

 麻痺や意識障害などの神経症状がある場合は、穿頭ドレナージ術や穿頭洗浄術で血腫を取り除くことが最善の治療です。これらの手術は脳神経外科のなかでももっとも安全な手術の一つで、入院期間も数日~1週間程度ですみます。

症状が軽い場合などは経過観察をすることも

 症状がほとんどなく、硬膜下滲出物が少ない場合や、全身状態がよくないため手術を控えざるを得ない場合では、薬を用いずに経過を観察することもあります。小さい血腫は自然に吸収されて消失し、数年後には、石灰化して落ち着きます。

 ただし、ある程度大きな血腫では、自然に吸収されるまでに長期間を要し、また完全に吸収されないこともあるため、症状や兆候が完全には消えないこともあります。

 このような場合には、手術の負担をできるだけ小さくするよう工夫しながら血腫を吸引除去します。

薬物療法の有効性は現段階では不明

 脳圧降下薬や止血薬がよく使われますが、手術をせずにこれらの薬を用いても、血腫が縮小、消失するまでに長期間を要し、症状が思うように改善しないことが多くあります。これらの薬が慢性硬膜下血腫に対してなんらかの効果があるかどうかについては、説得力のある臨床研究はいまのところ行われていません。

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根拠(参考文献)

  • (1)Almenawer SA, Farrokhyar F, Hong C, Alhazzani W, Manoranjan B, Yarascavitch B,Arjmand P, Baronia B, Reddy K, Murty N, Singh S. Chronic subdural hematomamanagement: a systematic review and meta-analysis of 34,829 patients. Ann Surg.2014 Mar;259(3):449-457
  • (2)Zarkou S, Aguilar MI, Patel NP, Wellik KE, Wingerchuk DM, Demaerschalk BM.The role of corticosteroids in the management of chronic subdural hematomas: aCritically appraised topic. Neurologist. 2009 Sep;15(5):299-302
  • (3)Liu W, Bakker NA, Groen RJ. Chronic subdural hematoma: a systematic review and meta-analysis of surgical procedures. J Neurosurg. 2014 Sep;121(3):665-73.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)