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腰部脊柱管狭窄症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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腰部脊柱管狭窄症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 頸椎から仙骨まで、脊髄を入れているトンネル部分を脊柱管といいます。脊柱管のうち、腰の部分では脊髄が1本ずつの神経に分かれて馬の尻尾のようになっているので馬尾神経と呼んでいます。

 腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなってなかにある神経根や馬尾神経を圧迫し、足や腰に痛みを感じたり、しびれや麻痺がおきたりする病気です。馬尾神経が障害されると、腰痛、足の痛みやしびれ、脱力感がひどくなって歩けなくなることがあります。

 腰を前に曲げたり、しゃがんだり、座ったりして、しばらく休むと歩けるようになりますが、しばらく歩くと再び痛んで歩けなくなります。このような症状を馬尾神経性間欠性跛行といい、この病気の特徴的な症状です。

 病気が進行すると膀胱や直腸の機能が損なわれ、頻尿や残尿感などの排尿障害や排便障害に悩まされることがあります。また、狭窄が進んで神経を障害する場所によっては、腰椎椎間板ヘルニアでみられるような坐骨神経痛をきたすこともあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 多くは老化によって椎間板、椎間関節、椎体が変形・変性して脊柱管が狭くなっておこります。もともと脊柱管の狭い人がこの病気をおこす場合もあります。

 椎間板などの変形・変性によって、新たな骨(骨棘)ができて神経を圧迫することもあります。男性では変形性脊椎症、女性では変性すべり症によって脊柱管が狭くなることが多く、腰椎椎間板ヘルニアとの合併も少なくありません。

病気の特徴

 脊柱管が先天的に狭い人の場合は、比較的若年の30歳~40歳代で発症することがありますが、一般にはお年寄りに多い病気です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
軟性コルセットを装着する ★3 腰椎前弯を少なくさせることが目的です。コルセットを装着することで前かがみの状態にし、神経への圧迫を軽減します。馬尾神経性間欠性跛行のある患者さんを対象にした臨床研究で、少々ですが歩行距離、痛みの改善があるとしています。 根拠(1)
温熱療法をする ★2 温めることで患部の血行を改善させて、筋肉の緊張を取り除き、痛みを緩和する理学療法の一つです。信頼性の高い臨床研究による報告はまだないようですが、ほかの治療で効果のない場合は試してもよいと思われます。
骨盤を牽引する ★2 骨盤を牽引することで腰部の筋肉などの緊張緩和に効果があるといわれます。臨床研究による根拠はないようですが、ほかの治療で効果のない場合に試してもよいと思われます。
仙骨硬膜外ブロックを行う ★2 脊髄神経を取り囲んでいる硬膜(仙骨部)の外腔に局所麻酔薬などを注射することで、神経の働きを抑え、痛みを緩和させる方法です。臨床研究による報告では、治療した直後は約60パーセントの患者さんで背部痛や下肢痛などの軽快を認めましたが、約8週間後には24パーセントに減少しました。馬尾神経性間欠性跛行における歩行距離の改善に関するほかの研究でも、短期での症状の軽快は認めますが、長期的(約3カ月後)にはあまり効果がないとしています。 根拠(2)(3)
神経ブロックを行う ★3 痛みを引きおこしている神経やその周辺に局所麻酔薬を注射し、痛みを抑えます。神経根症状(神経根の圧迫による痛みなど)があり、手術適応のある患者さんに神経ブロックを行ったところ、約80パーセントの人が1~4日以内に症状が改善し、約60パーセントで症状の緩和が数カ月間継続したとの臨床研究があります。しかし、非常に痛みがあって患者さんに負担を強いる治療法であり、通常、ほかに治療法の選択がない場合に行われます。 根拠(4)
カルシトニンを注射する ★4 骨粗しょう症でよく用いられる薬です。骨からカルシウムが溶けだすのを抑え、また腰などの痛みをやわらげる作用もあります。信頼性の高い臨床研究で、鎮痛作用効果、歩行障害の改善が報告されています。保存療法の一つとしてよいと思われます。 根拠(5)
消炎鎮痛薬を用いる ★2 急性の腰部痛に用いたところ、1週間後、症状緩和に効果があったという臨床研究があります。しかし、慢性の腰部痛にはっきりとした効果を認める臨床研究はまだないようです。また、消炎鎮痛薬のなかの非ステロイド抗炎症薬については、どの薬でも効果の差は認められていません。ただし、腰部脊柱管狭窄症の患者さんのみを対象にした臨床研究はほとんどないため、根拠としては明確ではありません。 根拠(6)
ニコチン酸誘導体を用いる ★2 血管拡張作用のある薬です。ほかの治療で効果のないときに試してもよいと思われます。
プロスタグランジン製剤を用いる ★2 血管拡張作用のある薬です。ほかの治療で効果がないときに試してもよいと思われます。
後方椎弓切除術を行う ★4 椎弓と呼ばれる脊椎後方部分を切除する手術です。保存療法で症状が改善されない場合に行われます。臨床研究によると、手術と保存療法を4年後に比較したところ、手術によって約70パーセント、保存療法で52パーセントの患者さんが下肢痛、腰痛の改善を認め、手術療法のほうがよい結果となっています。しかし、まずは保存療法を行うことが勧められています。 根拠(7)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

消炎鎮痛薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム) ★2 ロキソプロフェンナトリウムとジクロフェナクナトリウムには急性の腰部痛には効果があったという臨床研究がありますが、慢性の腰部痛については、はっきりとした効果を示す臨床研究は見あたりません。また、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(6)
ノイロトロピン(ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液) ★2
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) ★2

ニコチン酸誘導体

主に使われる薬 評価 評価のポイント
コレキサミン(ニコモール) ★2 ニコモールは高脂血症に対する薬で末梢血行障害の改善作用をもっています。腰部脊柱管狭窄症に対する末梢血行障害を認めている場合は適応になるかもしれません。

プロスタグランジン製剤

主に使われる薬 評価 評価のポイント
オパルモン/プロレナール(リマプロスト アルファデクス) ★2 リマプロスト アルファデクスはプロスタグランジンE1誘導体で末梢血行障害改善効果をもっています。腰部脊柱管狭窄症に対する効果について確認できませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

原因と診断を明確に

 歩いたり、立ったりすると背中やお尻、下肢に痛みを生じ、座ると痛みが消失するというのが、この病気の特徴です。原因には年齢に伴うものから、外傷、代謝内分泌疾患まで、さまざまなものがあります。

 的確に治療を行うためには、動脈の狭窄による下肢の痛みとの鑑別がまず大切です。そして、腰部脊柱管狭窄症と診断されたなら、原因となっている病気(代謝内分泌疾患など)自体に対する治療が可能かどうか、明確にする必要があります。

まずは薬物療法や装具などで経過を見る

 症状を軽減するためには、消炎鎮痛薬の服用や、骨粗しょう症のある患者さんではカルシトニンの注射を行い、さらに、軟性コルセットの装着、温熱療法、骨盤の牽引などをまず試みるのが一般的です。

 それらの治療法で十分な効果が得られない場合には、仙骨硬膜外ブロックや神経ブロックなど、ペインクリニックでの治療を考慮します。

最終的には手術の選択も

 保存的な治療をしても、日常生活に支障をきたすような症状が続く場合には、後方椎弓切除術を行います。手術で症状が消失したり軽くなる確率は高いのですが、似たような狭窄症が再発する可能性もあります。

 これまでに行われた臨床研究では、長期的に見ても有効率のもっとも高い治療法は後方椎弓切除術です。ただし、手術に伴うリスクや苦痛はゼロではありませんので、有効性は少々低くても、合併症や副作用の少ない方法から試してみるのが賢明でしょう。

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根拠(参考文献)

  • (1) Prateepavanich P, Thanapipatsiri S, Santisatisakul P, et al. The effectiveness of lumbosacral corset in symptomatic degenerative lumbar spinal stenosis. J Med Assoc Thai. 2001;84:572-576.
  • (2) Rosen CD, Kahanovitz N, Bernstein R, et al. A retrospective analysis of the efficacy of epidural steroid injections. Clin Orthop. 1988;228:270-272.
  • (3) Fukusaki M, Kobayashi I, Hara T, et al. Symptoms of spinal stenosis do not improve after epidural steroid injection. Clin J Pain. 1998;14:148-151.
  • (4) Narozny M, Zanetti M, Boos N. et al. Therapeutic efficacy of selective nerve root blocks in the treatment of lumbar radicular leg pain. Swiss Med Wkly. 2001;131:75-80.
  • (5) Eskola A, Pohjolainen T, Alaranta H, et al. Calcitonin treatment in lumbar spinal stenosis: a randomized, placebo-controlled, double-blind, cross-over study with one-year follow-up. Calcif Tissue Int. 1992;50:400-403.
  • (6) van Tulder MW, Scholten RJ, Koes BW, et al. Non-steroidal anti-inflammatory drugs for low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD000396.
  • (7) Amundsen T, Weber H, Nordal HJ, et al. Lumbar spinal stenosis: conservative or surgical management?: A prospective 10-year study. Spine. 2000;25:1424-1435.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行