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上腕骨上顆炎(テニスひじ、ゴルフひじ)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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上腕骨上顆炎(テニスひじ、ゴルフひじ)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 ひじの関節の外側(親指側)の骨が突きだしている部分(上腕骨外側上顆部)に炎症がおこる病気です。

 テニスプレーヤーに多い障害のため、テニスひじとも呼ばれますが、テニスとは関係なく、ひじの関節の曲げ伸ばしをくり返す作業をよくする人にもおこります。

 とくにテニスなどのスポーツをしない女性が、日常の家事で症状をおこすことも少なくありません。

 手や腕を動かさなければ痛みませんが、ラケットを持ってボールを打ったり、タオルを絞るなどひじをひねる動作をすると、ひじから前腕にかけて痛みが走ります。

 悪化すると握力が低下してラケットを握れなくなったり、日常生活では茶碗を落としたりするようになります。ひじの外側を指で押すと、上腕と前腕に痛みが広がっていくように感じます。

 一方、ひじの関節部分の内側(上腕骨内側上顆部)に痛みをおこすのはゴルファーが多いため、これをゴルフひじといいます。ただしゴルファーの場合は、外側に痛みを感じることもあるため、痛む場所の内外に関係なくゴルフひじと呼ぶこともあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 この病気は前腕の筋肉にくり返し力が加わること、あるいは加齢によってそれらの筋肉が衰えることによっておこります。テニスひじで痛みがおこる上腕骨外側上顆部は指を伸ばしたり、手首を反らしたりする筋肉群の付け根にあたる部分であり、一方ゴルフひじで痛みがおこる上腕骨内側上顆部は指や手首を曲げる筋肉群の付け根にあたる部分です。これらの筋肉群はいずれも体のなかでよく使われる部分で、過度の負担が加わりやすく筋肉や腱に細かな断裂がおきたり、骨の表面や靭帯などに炎症をおこしやすくなります。また、いちど炎症がおこると毎日使う部分でもあるので炎症がなかなか治りにくくなります。

病気の特徴

 テニスやゴルフのプレーヤーを除くと、30歳~50歳代の女性によくみられる病気です。テニスひじとゴルフひじに悩む人の割合はおおよそ8対2で、テニスひじに悩む人のほうが多くみられます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
手関節伸展試験(Thomsen test)を行う ★3 上腕骨上顆炎の診断には、腕や手や指の特定の運動により、痛みがおこるかどうかを確認するテスト(疼痛誘発テスト)が有効です。手関節伸展試験(Thomsen test)はその代表的なもので、ひじの関節を伸ばしたまま、抵抗を加えながら手首の関節を背屈させる(甲の側に反らせる)ことで、痛みがおこるかどうかを確かめます。手関節伸展試験については臨床研究によってその妥当性が確認されています。 根拠(1)
中指伸展試験を行う ★3 疼痛誘発テストの一つです。手のひらを下にして、まっすぐ前に腕を突きだした状態(ひじの関節と中指を伸ばした状態)で、中指を下に向けて押されたときに、ひじに痛みを感じるかどうかを確かめます。中指伸展試験については臨床試験によってその妥当性が確認されています。 根拠(2)
いす試験を行う ★2 疼痛誘発テストの一つです。前腕を内側にひねり、ひじを伸ばしたままで4キログラム前後のいすを持ち上げたとき、ひじに強い痛みが生じるかどうかを確かめます。専門家の意見や経験から支持されている試験です。
消炎鎮痛薬を用いる ★2 ひじの安静を保つことが治療の基本ですが、症状が強い場合は一時的に消炎鎮痛薬を使用して、痛みをやわらげることもあります。消炎鎮痛薬は副作用もあるため、慎重に使う必要があります。この治療についての臨床研究は、効果があると結論しているものと、効果がないと結論しているものがあり、定まった評価を得ていません。 根拠(3)~(5)
湿布をする ★3 痛みをやわらげるため、消炎鎮痛薬の入った湿布を患部に貼ります。その効果については臨床研究によって確認されています。 根拠(6)(7)
軟膏を塗る ★5 痛みをやわらげるために、消炎鎮痛薬の入った軟膏を患部に塗ります。非常に信頼性の高い臨床研究でナプロキセンとジメチルスルホキシドの軟膏について、効果があると確認されています。ただし、いずれの薬剤も日本では発売されていません。 根拠(8)(9)
手関節背屈固定装具をする ★2 手首の安静を保つために、ギブスをつける場合がまれにあります。通常の使用期間は、数週間です。あまり長期になると筋肉の萎縮を招き、かえって回復を遅らせることにもなりますから、注意が必要です。この治療法に関する臨床研究結果は、効果を認めたものもあれば、効果を認めなかったものもあり、いまだに結論は出ていません。 根拠(10)
副腎皮質ステロイド薬の局所注射を行う ★2 保存的治療の最終手段として、一時的にひじに副腎皮質ステロイド薬を注射することもあります。副腎皮質ステロイド薬に麻酔薬を混ぜることもあります。この治療法の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。ただし、この治療法は一時的に痛みをやわらげますが、その効果が期待できるのは1~2カ月くらいです。長期にわたって続けることはお勧めできません。 根拠(11)(12)
手関節掌背屈筋のストレッチングを行う ★4 再発を防ぐため、手首をうしろに反らすストレッチングをして、筋肉の柔軟性を高めます。その効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(13)
テニスひじ用サポーターをする ★2 テニスひじ用サポーターを着用すると、力が分散されてひじのストレスが軽減するといわれています。この治療の効果に関しては、あまり臨床研究がなされていません。効果があるとする研究と、効果がないとする研究があり、評価が分かれています。 根拠(14)(15)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

消炎鎮痛薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) ★2 ジクロフェナクナトリウムの効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、消炎鎮痛薬の内服については効果がないと結論づけている臨床研究もあり、評価は定まっていません。用いる場合には、副作用に注意する必要があります。 根拠(4)

湿布

主に使われる薬 評価 評価のポイント
スルプロチン/スレンダム/トパルジック(スプロフェン) ★3 消炎鎮痛薬の湿布は、臨床研究によって効果が確認されています。 根拠(6)(7)
セルタッチ(フェルビナク) ★3

軟膏

主に使われる薬 評価 評価のポイント
モビラート軟膏(副腎エキス・ヘパリン類似物質) ★2 痛みや炎症をやわらげる軟膏です。専門家の意見や経験によって、支持されています。
ボルタレンゲル(ジクロフェナクナトリウム) ★2

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

ひじを休め、湿布や軟膏で治療する

 この病気は指を曲げ伸ばしする筋肉、手首を反らせたりする筋肉に過度の負担がかかって炎症がおこるものです。

 炎症がおこっている部分に対してのみ、局所的に治療を行えば、体のほかの部分への副作用を心配しなくてすみます。つまり、テニスひじやゴルフひじでは、しばらくひじを安静にして消炎鎮痛薬の湿布や軟膏を使用し、全身への影響が考えられる経口の消炎鎮痛薬の服用はできるだけ避けるのが原則です。

痛みがひどい場合は、一時的にステロイド薬を

 炎症の程度が強く、ひじの痛みが非常に激しい場合にのみ、ひじに直接副腎皮質ステロイド薬に局所麻酔薬を混ぜた注射をします。この方法は痛みをとるのに非常に効果的ですが、何カ月も続けていると効果が薄れ、副作用の心配も出てきます。あくまでも一時的な治療にとどめるべきです。

手首のストレッチングが効果的

 手首をうしろに反らす手関節掌背屈筋のストレッチングは、有効性が示されていますので行うとよいでしょう。筋肉の柔軟性を高め、再発予防にもなります。テニスひじ用サポーターは、現在のところ、はっきりした効果が確認されていませんので、装着すべきとも装着すべきでないともいえません。患者さんの判断で決めてよいでしょう。

 この病気で炎症がおきる筋肉は日常でも頻繁に使われる部分です。放置しておけば、それだけ負担がかかり、症状が長引くことになるので、痛みを感じたら早めに安静にするなどの対応をしたほうがよいでしょう。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行