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うつ病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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うつ病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 身体的な異常がないのに、気分が落ち込んで、元気がでなくなる病気です。誰でも疲れるとこのような状態になりますが、ふつうは十分な栄養と睡眠をとれば回復します。ところが、うつ病では気分の落ち込みが長く続き、自力では回復できません。

 初期症状として注意したいのは、寝つきが悪かったり、夜中や早朝に目が覚めてしまったりする睡眠障害です。食欲も低下し、好物を食べてもおいしいと感じません。その結果、体重も減ります。倦怠感や疲労感があり、性欲が低下、頭痛、肩こり、腰痛といった症状もしばしばみられます。

 精神症状としては、気分が沈み込み、なにごとにも悲観的になります。思考力も減退し、非常にささいなことでも、なにかを決断する力が鈍くなります。友人と会うのもおっくうになって、趣味も楽しめません。買物、入浴といった日常生活さえ面倒になってしまうことがあります。自分を卑下し、「生きていても仕方ない」と思いつめて自殺を図ることも少なくありません。身体症状、精神症状とも朝から午前中にかけて強く現れ、夕方から夜になると、いくぶん楽になるのが大きな特徴です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 多くの場合、精神的な強いストレスがきっかけで抑うつ状態になります。進学、就職、結婚、出産、転居、退職といった人生の節目で、新しい生活環境や人間関係に早くなじもうと努力するあまり、強いストレスを感じて発病することがしばしばあります。職場では異動、転勤、昇進などがきっかけとなる場合があります。

 失恋、近親者との死別など悲しいできごとだけでなく、家の新築や子どもの結婚・独立といった慶事のあとに発病することもあります。

 うつ病はきちょうめんな性格で、真面目にコツコツ働くタイプの人がなりやすい病気といわれています。責任感が強く、周囲への気配りも忘れないことから、職場でも地域でも高い評価を受けていることが多いのですが、完璧にやり遂げようとするあまりに柔軟性に欠け、ストレスを抱え込んでしまう傾向があります。

 直接の原因ははっきりわかっていませんが、うつ病になると脳の神経伝達物質(セロトニン)が減少してしまうと考えられています。

病気の特徴

 現在わが国の人口の2.2パーセントが、うつ病にかかっていると考えられており、生涯に1度でもうつ病を患う人は6.5パーセントといわれています。全国では100万人近くの患者さんがいます。うつ病は精神的に発達した成人でよくみられますが、最近では子どものうつ病も注目されています。

 またお年寄りにみられるうつ病は、妄想的な言動を伴うものが多く、脳梗塞など脳の血管障害が原因でうつ病を引きおこしている可能性もあり、現在研究が進められています。このように、誰でもかかりうる心の病気といえます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
仕事・家事から離れて休養する ★3 ストレスの原因を明らかにし、それに対してアプローチする(仕事が原因であれば仕事を休む、または職場内で異動するなど)ことの有効性は報告されています。 根拠(1)
心理療法を行う ★5 心理療法とは、薬や物理的な治療を行わず、対話や訓練、教示によって精神状態を安定させる治療です。心理療法を行うことでうつ病の状態を良くすることが、多数の研究で証明されています。 根拠(1)
認知行動療法を行う ★5 不安や気分の落ち込みなどを引きおこす元となっている、患者さん本人の認知(ものごとのとらえ方)の歪みを修正していくのが認知行動療法です。認知行動療法は、軽症から中等症のうつ病患者さんに行われ、急性期の効果も、再発予防の効果もあることが知られています。 根拠(2)(3)
対人関係療法を行う ★5 家族や親しい友人などの、重要な他者とのコミュニケーションを通じて、うつ病の治療を行うのが対人関係療法です。対人関係療法の効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認され、社会的な活動機能が改善することも証明されています 根拠(4)
かかりつけ医でカウンセリングを受ける ★5 患者さんの症状や悩みを十分聞き、それらを理解、受容しカウンセリングを受けます。カウンセリングによる治療は、とくに短期的に効果が得られことが、非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。 根拠(5)(6)
抗うつ薬による薬物療法をする ★5 三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(7)(8)(9)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗うつ薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
SSRI パキシル(塩酸パロキセチン水和物) ★5 これらのSSRI、SNRIの有効性は、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(10)
デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩) ★6
レクサプロ(エスシタロプラムシュウ酸塩) ★5
ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン) ★6
SNRI トレドミン(塩酸ミルナシプラン) ★5
サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩) ★5
四環系 テトラミド(塩酸ミアンセリン) ★5 三環系および四環系抗うつ薬の有効性は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(2)(6)(7)
ルジオミール(塩酸マプロチリン) ★5
三環系 アモキサン(アモキサピン) ★5
ノリトレン(塩酸ノルトリプチリン) ★5
トフラニール(イミプラミン塩酸塩) ★5
トリプタノール(アミトリプチリン塩酸塩) ★5
アナフラニール(クロミプラミン塩酸塩) ★5

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

ストレスの元をさぐり、減らすこと

 うつ病は正しく治療すれば治る病気です。治療を始めるにあたっては、いまはつらくても適切な治療を続ければ、いずれは以前と同じような生活ができることを話し、病気を理解してもらいます。

 うつ病になる人は責任感が強く、周囲への気配りも忘れないといったきちょうめんで真面目なタイプの人が多く、ストレスを抱えこんでしまう傾向があります。まずは、このストレスを減らす必要があります。 

 最近のできごとを話してもらいながら、家庭や職場でなにか変化はなかったか、ストレスを増すできごとがなかったかなどをともに考えていきます。また、「がんばれ」などと安易に励ますことはかえって本人の負担になって症状を悪化させることが多いため避けるべきでしょう。

時間はかかるが、服用を続ければ薬の効果は確実に現れる

 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が認められている薬が多数開発されています。しかし、いずれも即効性があるものではなく、効果がでるまでには2カ月程度かかります。また、アルコール摂取はうつ症状を悪化させたり、薬物の効果を妨げたりする可能性があります。うつ病と診断された患者さんは、これらのことをよく知っておくことが大切です。

 多くの種類がある抗うつ薬のなかでも、比較的最近になって使われるようになったのがSSRIと呼ばれる選択的セロトニン再取り込み阻害薬のパキシル(塩酸パロキセチン水和物)、デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩)、レクサプロ(エスシタロプラムシュウ酸塩)、ジェイゾロフト(塩酸セルトラリン)や、SNRIと呼ばれるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるトレドミン(塩酸ミルナシプラン)、サインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)などです。その効果、安全性から、第一選択薬になることが多くなっています。

 しかし、患者さんによっては従来から用いられている抗うつ薬のほうが好ましい場合もあります。いずれにしても、効果がでるまでにある程度時間がかかることを理解して、服薬を続けることが必要です。

精神科医のもとで精神療法が必要な場合も

 うつ病の患者さんの多くは、いろいろな体の不調を訴えて内科を受診することが多いので、ほとんどは内科医が診断し治療しますが、ある程度の期間治療を続けても症状が改善しなかったり、自殺を具体的に考えたりするような場合は、精神科医による診察が必要です。精神科医によって行われる支持的精神療法や認知療法も効果的であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。

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根拠(参考文献)

  • (1)Cuijpers P, van Straten A, van Schaik A et al. Psychological treatment of depression in primary care: a meta-analysis.Br J Gen Pract. 2009 Feb;59(559):e51-60
  • (2)Blackburn IM, Moore RG. Controlled acute and follow-up trial of cognitive therapy and pharmacotherapy in out-patients with recurrent depression. Br J Psychiatry. 1997;171:328-334.
  • (3)Vittengl JR, Clark LA, Dunn TW et al. Reducing relapse and recurrence in unipolar depression: a comparative meta-analysis of cognitive-behavioral therapy's effects. J Consult Clin Psychol. 2007 Jun;75(3):475-88.
  • (4)De Silva MJ, Cooper S, Li HL et al. Effect of psychosocial interventions on social functioning in depression and schizophrenia: meta-analysis. Br J Psychiatry. 2013 Apr;202(4):253-60.
  • (5)Bower P, Knowles S, Coventry PA et al. Counselling for mental health and psychosocial problems in primary care. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD001025.
  • (6)Mynors-Wallis LM, Gath DH, Lloyd-Thomas AR, et al. Randomised controlled trial comparing problem solving treatment with amitriptyline and placebo for major depression in primary care. BMJ. 1995;310:441-445.
  • (7) Anderson IM. SSRIS versus tricyclic antidepressants in depressed inpatients: a meta-analysis of efficacy and tolerability. Depress Anxiety. 1998;7(Suppl 1):11-17.
  • (8) Williams JW Jr, Mulrow CD, Chiquette E, et al. A systematic review of newer pharmacotherapies for depression in adults: evidence report summary. Ann Intern Med. 2000;132:743-756.
  • (9) Moller HJ, Riehl T, Dietzfelbinger T, et al. A controlled study of the efficacy and safety of mianserin and maprotiline in outpatients with major depression. Int Clin Psychopharmacol. 1991;6:179-192.
  • (10) American Psychiatric Association. Practice Guideline for the treatment of patient with major depressive disorder. Am J Psychiatry. 2010.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)