パニック障害の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
パニック障害とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
身体的な異常がなにもないのに、パニック発作と呼ばれる特徴的な発作を突然おこす病気です。
胸が締めつけられるように痛む、心臓がどきどきして脈が速くなっていく、呼吸が苦しくなる、めまいがする、手足がしびれる、冷や汗がでるといった症状が、数分から10分ほど続きます。
「このまま死んでしまうのではないか」と思えるほど強い苦痛となることもありますが、パニック発作で死ぬことはありません。救急車で病院に運ばれることも多いのですが、ふつう病院に着いたころには症状がおさまっています。
パニック発作をおこすと、次にまた発作がおきるのではないかという「予期不安」におびえ、以前発作をおこした場所や、満員電車やデパートのなかなど、すぐに病院に行けない場所を避けるようになります。
このため、仕事や買い物にでかけられず、社会生活に支障をきたします。
自然に治ることもありますが、発作をくり返したり、予期不安のために社会生活に問題が生じたりする場合は治療が必要です。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
脳内の神経伝達物質の一つであるセロトニンがなんらかの原因で不足すると、不安や恐怖をコントロールしている部分のバランスが崩れて、パニック発作がおこると考えられています。
予期不安から外出を嫌うため、ときに怠け者と誤解されますが、心のもちようや怠け癖からパニック障害になるわけではありません。
病気の特徴
女性にやや多い病気で、不安・緊張・過労などを背景に、自律神経の過敏な人がなりやすいと考えられています。
20歳代、30歳代での発症が多くみられますが、40歳代、50歳代の人が発症することもあります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
認知行動療法による治療を行う | ★5 | 患者さんが困っている問題を習慣的な行動ととらえ、生活しやすくする行動を学ぶ治療が認知行動療法です。また、パニックになる原因にわざと暴露する、暴露療法も効果があるとされています。その他、筋肉をリラックスさせたり呼吸を落ち着けたりする方法も効果があります 根拠(1)(2)(3) | |
薬で発作を予防する | ★5 | 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)による治療が、パニック障害には第一選択薬として使用されます。うつ病も併発している場合、アルコールや薬物乱用がある場合は、三環系抗うつ薬も使用されます。長時間作用型のベンゾジアゼピン系抗不安薬も用いることが可能です。 根拠(1)(2)(3) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗うつ薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
SSRI | パキシル(塩酸パロキセチン水和物) | ★5 | 信頼性の高い研究により、SSRIによる治療は、パニック障害の症状を軽減するだけでなく、発作の予防効果が示唆されています。通常第一選択薬として使用されます。 根拠(1)(4)~(9) |
デプロメール/ルボックス(フルボキサミンマレイン酸塩) | ★5 | ||
SNRI | トレドミン(塩酸ミルナシプラン) | ★4 | SNRIは、SSRIと同様に、信頼性の高い研究によりパニック障害の症状軽減および再発予防効果が示されており、第一選択薬の一つとしてよく使われます。 根拠(1) |
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ソラナックス/コンスタン(アルプラゾラム) | ★4 | ベンゾジアゼピン系抗不安薬もパニック障害に対する効果があります。とくに薬物乱用やうつ病を併発している患者さんには、ベンゾジアゼピン系抗不安薬に加え、抗うつ薬を使用することが推奨されます。 根拠(10)(11) | |
メイラックス(ロフラゼプ酸エチル) | ★3 |
三環系抗うつ薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
トリプタノール(アミトリプチリン塩酸塩) | ★4 | 三環系抗うつ薬も、他の薬と同様にパニック障害の症状緩和や再発予防に効果があるとされています。 根拠(1) |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
病気を理解し、安心することが第一
パニック発作からこのまま死んでしまうのかと思われる場合でも、生命にかかわる病気ではありません。まずはそのことを理解することが重要です。
発作が日常生活に著しい支障をきたすほどでなく、1日になんどもおこるわけではないときには、病気を理解するだけで軽い発作はコントロールできるようになります。
どのような状況で発作がおこりやすいのかを認識し、その前後を含めた心の動きを自分自身でコントロールできるよう、医師とともに話し合いましょう。患者さんが困っている問題を習慣的な行動ととらえ、生活しやすくする行動を学ぶ認知行動療法の効果は非常に信頼性の高い研究によって確認されています。
抗うつ薬や抗不安薬で発作を抑制
カウンセリング的手法では解決できないほど発作が強かったり、たびたびおこったりするようであれば、パキシル(塩酸パロキセチン水和物)などの抗うつ薬を用いたり、あるいはソラナックス/コンスタン(アルプラゾラム)などの抗不安薬が使われます。
これらはパニック発作を抑制する可能性が高いことが、非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。
また、薬があるから大丈夫といった安心感から、薬をもらっているだけで発作がおきなくなる例もみられます。
薬を服用するとしても、信頼できる医師による診察をしばらく継続する必要があります。
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根拠(参考文献)
- (1) Stein B. M, Goin K. M, Pollack H. M, et al. American pyschiatric association. APA guideline on treatment of patients with panic disorder 2009.
- (2) Barlow DH, Gorman JM, Shear MK, et al. Cognitive-behavioral therapy, imipramine, or their combination for panic disorder: A randomized controlled trial. JAMA. 2000;283:2529-2536.
- (3) Barlow DH. Cognitive-behavioral therapy for panic disorder: current status. J Clin Psychiatry. 1997;58(Suppl 2):32-36.
- (4) Sheehan DV, Harnett-Sheehan K. The role of SSRIs in panic disorder. J Clin Psychiatry. 1996;57(Suppl 10):51-58.
- (5) Black DW, Wesner R, Bowers W, et al. A comparison of fluvoxamine, cognitive therapy, and placebo in the treatment of panic disorder. Arch Gen Psychiatry. 1993;50:44-50.
- (6) Ballenger JC, WheadonDE, Steiner M, et al. Double-blind, fixed-dose, placebo-controlled study of paroxetine in the treatment of panic disorder. Am J Psychiatry. 1998;155:36-42.
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- (8) Michelson D, Allgulander C, Dantendorfer K, et al. Efficacy of usual antidepressant dosing regimens of fluoxetine in panic disorder: randomised, placebo-controlled trial. Br J Psychiatry. 2001;179:514-518.
- (9) Otto MW, Tuby KS, Gould RA, et al. An effect-size analysis of the relative efficacy and tolerability of serotonin selective reuptake inhibitors for panic disorder. Am J Psychiatry. 2001;158:1989-1992.
- (10) Lydiard RB. Panic Disorder: Pharmacologic treatment. Phychiatr Ann. 1988;18:468.
- (11) Lydiard RB, Lesser IM, Ballenger JC, et al. A fixed-dose study of alprazolam 2 mg, alprazolam 6 mg, and placebo in panic disorder. J ClinPsychopharmacol. 1992;12:96-103.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)