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神経性頻尿(膀胱神経症)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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神経性頻尿(膀胱神経症)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 試験や発表会の直前など精神的に緊張する場面が訪れると、突然尿意をもよおすことがあります。神経性頻尿(膀胱神経症)は、このような状態が日常的に続くものです。

 2時間以下の間隔で排尿があり、昼間に8回以上トイレに行くようなら頻尿といえるでしょう。精神的な原因でおこるため夜間の頻尿はみられず、昼間でもなにかに熱中していると尿意を感じないのが特徴です。排尿痛や発熱もなく、尿検査をしてもとくに異常は見つかりません。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 排尿の回数は、一般に1日の尿量と膀胱の大きさで決まります。

 膀胱の正常な容量は、200~300ミリリットル程度です。ふつう、膀胱に150ミリリットルほど尿がたまると軽い尿意を覚え、250ミリリットルたまると強い尿意を覚えるとされています。

 健康な人の排尿回数は1日に7回ほどで、1日の尿量は1500ミリリットル程度です。たびたび尿意を覚えても、1回の排尿量が少なく、夜間は頻尿がないという場合は、体の異常よりも精神的なものが原因となる、神経性頻尿と考えられます。

 学校や職場、家庭でのストレス、いじめ、暴行、事故や災害などが発病のきっかけになることが多いようです。外出や仕事時に頻尿がおこることを非常に恐れるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。また、すぐにトイレに行きたくなるのではという不安が、かえって尿意を招く悪循環をおこす場合もあります。

 真面目で几帳面、責任感が強いといった性格の人によくみられ、抑うつ症状を引きおこすこともあります。

 なお、似た名前の神経因性膀胱は、尿意をつかさどる神経に障害のある、まったく別の病気です。

病気の特徴

 神経質な人、とくに女性に多いとされています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
排尿時刻や排尿量を記録する ★3 少なくとも48時間にわたり、排尿があるたびにその時間と量を記録します。また、排尿前の行動(コーヒー飲用や運動の有無など)や睡眠時間なども書いておきます。これらの情報は、診断の際だけでなく、その後の認知・行動療法などの治療においてもたいへん重要です。 根拠(1)
抗コリン薬を用いる ★2 ときには抗コリン薬を用いることがあります。専門家の意見や経験から支持されています。
認知・行動療法を行う ★5 頻尿がおこる行動パターン(場面)の認知を段階的に進め、不安を取り除く精神療法は、薬物療法との併用では有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(2)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

頻尿治療薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ポラキス(塩酸オキシブチニン) ★5 心理療法の一つである認知・行動療法と組み合わせることで、80パーセント以上の患者さんに排尿回数が減ったり、不安感が軽くなったりするなどの効果があったと報告されています。その効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されていますが、失禁の減少にはつながっていないようです。 根拠(2)
バップフォー(塩酸プロピベリン) ★2 治療効果はあるとの報告があるようですが、効果の程度についての信頼性の高い臨床研究は見あたりません。 根拠(3)
ブラダロン(塩酸フラボキサート) ★2 専門家の経験や意見から支持されています。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

行動療法と薬物療法が柱

 病歴と血液・尿検査で腎・尿路に器質的な病気がないことを確かめて、神経性頻尿であることがほぼ確実になったなら、カウンセリングを含む行動療法と薬物療法のいずれか、あるいは双方を用いて治療することになります。

排尿記録で頻尿への不安を軽減

 排尿時刻や排尿量を記録することで、まず、どのような状況下に置かれると尿意をもよおし、排尿が多くなるのかがわかります。そのことを意識できるだけで、つまり、こんなときには頻繁に尿意をもよおすことになるのだなと自覚し、頻尿になることをあらかじめ予期できるだけで、おこったとしてもそれに伴う不安感は軽減されます。

 そして、不安感が少なくなることで頻尿の程度がやわらぐ可能性があります。

 また、あらかじめ避けることができるもの(たとえば利尿作用のあるコーヒーなど)については、できるだけそれを避けることで無用な頻尿を予防できることになります。

薬物はポラキスが第一選択

 薬物では、ポラキス(塩酸オキシブチニン)、バップフォー(塩酸プロピベリン)、ブラダロン(塩酸フラボキサート)などが使用可能ですが、有効性を示した根拠の強さからいって、まず神経性頻尿治療薬のポラキスを用いるのが実際的でしょう。

 服薬中は、副作用の有無に注意を払う必要があります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Wyman JF, Choi SC, Harkins SW, et al. The urinary diary in evaluation of incontinent women: a test-retest analysis. Obstet Gynecol. 1988;71:812-817.
  • (2) Szonyi G, Collas DM, Ding YY, et al. Oxybutynin with bladder retraining for detrusor instability in elderly people: a randomized controlled trial. Age Ageing. 1995;24:287-291.
  • (3) Watanabe H, Uchida M, Kojima M. Clinical effect of propiverine hydrochloride on urinary incontinence. Hinyokika Kiyo. 1998;44:199-206.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行