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子宮内膜症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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子宮内膜症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 子宮内膜症は、子宮の内側にある粘膜(子宮内膜)と同じような組織が、子宮の内側以外のいろいろな場所で増殖する病気です。

 特徴的な症状は強い月経痛(下腹部痛)ですが、このほか、腰痛や排便痛、性交時痛などもみられ、病状が進行すると不妊を引きおこす場合もあります。痛みが激しい場合は、通常の生活ができず、寝込んでしまうこともあります。反対に、まったく自覚症状のない人もいます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 組織の増殖がよくみられる場所は、直腸と子宮のすき間(ダグラス窩)、膀胱と子宮の間(膀胱子宮窩)のほか、卵巣、卵管、子宮筋層、骨盤腹膜などです。また、肺や直腸などに発生する場合もあります。

 子宮内膜は女性ホルモンによって一定の周期ではがれ、月経をおこします。異常に増殖した組織も、子宮内膜にできる正常な組織と同じ周期ではがれ落ちるため、月経がくるたびに子宮の内側でも、外側でも出血がおこるようになります。これが痛みの原因です。さらに、子宮の外側の血液には排出できる出口がないためそこにたまっていき、徐々に周りの組織と癒着をおこすことになります。この場合、排便時などにひどい痛みを伴います。

 卵巣に発症した場合は、血液がチョコレートのような茶色いかたまり(のう腫)になるため、「チョコレートのう腫」と呼ばれます。子宮の筋層内に発症した場合は「子宮腺筋症」と呼ばれます。

病気の特徴

 妊娠中や初潮前、閉経後の女性をのぞく女性におこる病気です。30歳代に多くみられ、また、子宮内膜症の20パーセント前後が不妊症を伴うともいわれています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
ホルモン療法により、痛みをやわらげる ★5 ホルモン療法とは、各種ホルモン薬によって、月経をおこすとともに子宮内膜症とも深い関連のある女性ホルモン(エストロゲン)の働きを抑え症状を改善させる療法です。用いられるホルモン薬には、ダナゾール、GnRHアゴニスト、低用量ピル(日本では適応なし)などがあります。いずれの薬も非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。ただし、不妊症を合併している場合、不妊はホルモン薬では改善しないことも確認されています。 根拠(1)
手術によって子宮や卵巣などの病気の部分だけを切除する ★5 部分だけの切除では、腹腔鏡による手術が行われます。非常に信頼性の高い臨床研究で、この手術は痛みと不妊のどちらにも効果があると確認されていますが、不妊については、手術をしても改善しないという結果を示した研究もあります。 根拠(1)
ホルモン療法、部分切除で効果がみられない場合は、子宮や卵巣を摘出する手術を検討する ★3 子宮を摘出するときに卵巣を残すと痛みの再発が多いという臨床研究がありますが、根拠は弱いものです。症状が強くて、ホルモン療法や部分切除では改善しない場合、さらに出産を希望しない場合、最終的に考慮される治療法といえます。 根拠(2)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ホルモン療法薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
スプレキュア(MP注射)(点鼻液)(酢酸ブセレリン) ★5 これらの薬はGnRHアゴニストと呼ばれるもので、下垂体からでる卵胞刺激ホルモンを抑えることで卵巣からでるエストロゲンの働きを抑えます。いわば閉経のような状態をつくる薬です。非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。ただし、副作用として、更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗など)がおこりやすいとしています。 根拠(1)
ナサニール(酢酸ナファレリン) ★5
リュープリン(酢酸リュープロレリン) ★5
ゾラデックス(酢酸ゴセレリン) ★5
ボンゾール(ダナゾール) ★5 ダナゾールは、卵巣の働きを抑えて月経を止める、やはり閉経のような状態をつくる薬です。非常に信頼性の高い臨床研究で痛みが軽減することが確認されています。副作用としては、更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗、肩こり、頭痛、精神的な憂うつ感や不眠など)や肝機能障害がおこりやすいこともわかっています。 根拠(1)
低用量ピル ★5 低用量ピルは、エストロゲンとプロゲステロンの合剤ですが、これらの女性ホルモンを補充して、体を妊娠中と同じような状態にすることで月経を抑えます。非常に信頼性の高い臨床研究によって、痛みが軽減することが確認されています。副作用としては吐き気や乳房の張りなどがあります。日本では避妊薬としての適応はありますが、子宮内膜症での適応はありません。 根拠(1)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

症状が弱いときは、経過観察で

 子宮内膜症は良性の病気です。月経痛や腰痛、排便痛、性交痛などの症状が強くなく、かつ不妊の原因になっていない場合には、特別な治療は必要とせず、経過観察のみ行います。

薬物療法は副作用を考慮して続ける

 症状が強い場合には、ホルモン療法(GnRHアゴニスト、ダナゾール)を、あるいは腹腔鏡を用いた患部の部分切除を行います。

 一般的には、身体的な負担を考慮して、まずホルモン療法から行われますが、いろいろな副作用として、更年期障害のような症状(ほてり、のぼせ、発汗、肩こり、頭痛、精神的な憂うつ感や不眠など)や肝機能障害がおこることもあります。一度開始した治療でも、副作用と思われる症状が現れたときには、かかっている婦人科医に症状をよく説明して相談のうえ、継続するかどうか決めるとよいでしょう。

 ただし、アメリカなどでは、症状が強い場合の治療の第一選択は腹腔鏡による手術ですし、ホルモン療法で用いられる薬も低用量ピルが一番ポピュラーです。しかし、わが国では子宮内膜症での低用量ピルの使用は保険適応になっていません。今後、どのような治療法や薬を第一選択とするべきか、安全性や経済性の側面も含めた検討が必要でしょう。

重症のときは手術を検討

 これらの治療では効果がなく、日常生活を送れないほど症状が重症な場合には、子宮や卵管、卵巣の摘出が必要になることもあります。

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根拠(参考文献)

  • (1) Farquhar C. Endometriosis. Clin Evid. 2002;8:1864-1874.
  • (2) Namnoum AB. Incidence of symptom recurrence after hysterectomy for endometriosis. Fertil Steril. 1995;64:898-902.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行