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乳腺症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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乳腺症とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 乳腺症は排卵から月経の時期に、乳房の片方、あるいは両方に1個から数個のしこりが触れたり、消えたりする病気です。これは、乳腺のすき間に水がたまったもの(のう胞)で、触ると弾力性に富んでいますが、硬い場合もあります。しこりの大きさや形はいろいろあり、周囲との境界がはっきりしないものもみられます。痛みを伴い、とくに、月経前には痛みが強くなり、月経が始まると軽くなります。また、乳頭から異常な分泌液(水様、乳汁様、黄褐色、血性など)がでることもあります。

 日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合以外は、とくに治療する必要はありません。

 乳腺症から乳がんになることはほとんどありませんが、乳がんと似ている症状だったり、乳がんを合併していたりすることもあるため、気になる症状がみられたら検査を受けて、正確に診断してもらうことが必要です。

 検査は触診、またはエコー(超音波)検査やマンモグラフィー(特殊なエックス線撮影)で行います。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 女性ホルモンのバランスの崩れが原因と考えられていて、エストロゲンが過剰になると、乳腺組織が変化することがわかっています。

病気の特徴

 30歳~45歳に多くみられる病気です。外来で診察する乳腺の病気のなかで、乳腺症は一番多くみられます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
乳がんとの区別を確実に行う ★3 乳房に関する訴えのある、40歳以上の受診者の4パーセントに乳がんがみられたという臨床研究があります。乳房になんらかの異常がある場合は、まず乳がんであるかないかを確かめることが重要です。 根拠(1)
のう胞がある場合は、たまっている液を排出する ★2 のう胞から液を排出した場合としない場合で、治療後の経過を比較した臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。
痛みが強い場合は、ホルモン療法薬を用いる ★4 ホルモン療法薬の乳房の痛みをやわらげる効果は信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(2)(3)
非常に痛みが強い場合は、鎮痛薬を用いる ★2 乳腺症に対して鎮痛薬を使用した場合と、使用せず痛みをがまんした場合の経過を比較した臨床研究は見あたりませんが、痛みの強い場合にそれを抑えることは専門家の意見や経験から支持されています。
カフェイン、脂肪の摂取を制限する ★2 カフェインの制限に関しては議論が分かれていますが、最近の研究では、効果がなかったとするものが優勢です。しかし、カフェイン制限は無害であるため、現在でも推奨されています。脂肪制限については臨床研究が見あたらないようです。 根拠(4)
ヨードをとる ★3 海藻などに含まれるヨードは甲状腺への影響も少なく、有効であったという臨床研究があります。 根拠(5)
毎月の自己検診、少なくとも年1回の乳がん検診を行う ★4 自己検診についての信頼性の高い臨床研究はありませんが、乳腺症の診断を受けた人、あるいは疑いのある人が、乳がんの自己検診をすることでがんのリスクを回避できるという臨床研究があります。乳がん検診は、簡便で、費用もあまりかからない検査です。定期的に検査を受けることで早期発見が可能になります。40歳以上では、マンモグラフィーによる検診が推奨されています。 根拠(6)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

ホルモン療法薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ボンゾール(ダナゾール) ★4 女性ホルモンのバランスを是正するダナゾールの効果は信頼性の高い臨床研究で確認されています。 根拠(2)(3)

乳汁分泌抑制薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
パーロデル(メシル酸ブロモクリプチン) ★4 乳汁分泌がある場合には分泌を抑制する薬を服用します。このことは信頼性の高い臨床研究で、確認されています。 根拠(7)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

日常生活で困ることがなければ、治療は不要

 乳腺症と診断されても、日常生活に支障をきたすほど痛みが強くなければ、特別な治療はしないほうがよいでしょう。

 あらゆる治療には、副作用や合併症が引きおこされる可能性がゼロではないからです。

乳房の痛みが強いときは、内服薬でやわらげる

 乳房の痛みをやわらげるときには、脳の下垂体から放出するホルモンであるGnRHの分泌を抑制する効果があるボンゾール(ダナゾール)、あるいは非ステロイド抗炎症薬を用います。ダナゾールに関しては、信頼性の高い臨床研究で、その効果が確認されています。

乳汁分泌がみられるときには、乳汁分泌抑制薬を

 乳汁分泌があって困るときには、乳汁分泌抑制薬のパーロデル(メシル酸ブロモクリプチン)を用います。この薬は信頼性の高い臨床研究で、効果が確認されています。

乳腺症と診断されたり、疑われたりした場合は、乳がん検診を

 乳腺症から乳がんになることはほとんどありませんが、乳がんと似ている症状だったり、乳がんを合併していることもあったりするため、気になる症状がみられたら検査を受けることが必要です。

 とくに、「初経から最初の妊娠までの期間や初経から閉経までの期間が長い女性」、「ホルモン補充療法を行っている女性」、「家族や親類に乳がん患者がいる女性」などは、乳腺症の診察とともに、乳がん検診を定期的に受けるよう勧められます。欧米では40歳以上の女性は、マンモグラフィーによる検診が乳がんの早期発見につながるため推奨されています。わが国でもこうした予防的な対応が勧められています。

ヨード摂取は乳腺症治療に有効

 海藻などに含まれるヨードは甲状腺への影響も少なく、乳腺症に対して有効であったという臨床研究があります。ヨードはのりやわかめ、昆布、ひじきなどに多く含まれています。

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根拠(参考文献)

  • (1) Barton MB, Elmore JG, Fletcher SW. Breast symptoms among women enrolled in a health maintenance organization: frequency, evaluation, and outcome. Ann Intern Med. 1999;130:651-657.
  • (2) Mansel RE, Wisbey JR, Hughes LE. Controlled trial of the antigonadotropin danazol in painful nodular benign breast disease. Lancet. 1982;1:928-930.
  • (3) Gateley CA, Miers M, Mansel RE, et al. Drug treatments for mastalgia: 17 years experience in the Cardiff Mastalgia Clinic. J R Soc Med. 1992;85:12-15.
  • (4) Lubin F, Ron E, Wax Y, et al. A case-control study of caffeine and methylxanthines in benign breast disease. JAMA. 1985;253:2388-2392.
  • (5) Ghent WR, Eskin BA, Low DA, et al. Iodine replacement in fibrocystic disease of the breast. Can J Surg. 1993;36:453-460.
  • (6) Humphrey LL, Helfand M, Chan BK, et al. Breast cancer screening: a summary of the evidence for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2002;137(5 Part 1):347-360.
  • (7) Parlati E, Polinari U, Salvi G, et al. Bromocriptine for treatment of benign breast disease. A double-blind clinical trial versus placebo. Acta Obstet Gynecol Scand. 1987;66:483-488.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行