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肺炎球菌性肺炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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肺炎球菌性肺炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 肺炎球菌による肺炎では、まず最初に鼻水、のどの痛み、せきなどの症状が現れることがあります。その数日後、急激に悪寒やふるえとともに39度以上の熱がでます。胸痛を覚えることも多く、汗がでて、脱力や筋肉痛、食欲低下、意識低下をおこすこともあります。せきは強く、最初は痰は少ないのですが、徐々に肺出血による鉄さび色の痰がでます。聴診器では特有の水疱性ラ音(ぜろぜろという音)が聞かれ、レントゲン写真では気管支肺炎に特徴的な所見がみられます。痰の培養検査で、感染の原因菌をつきとめると同時に抗菌薬による治療を行います。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 肺炎球菌は一般の健康な人の50~60パーセントの上気道に見いだされる細菌です。通常の免疫力をもっている場合には問題となりません。ただし、免疫力が低下した場合などは肺炎や敗血症、心内膜炎(心臓の内腔側の膜や弁におこる炎症)、化膿性髄膜炎(脳のくも膜に炎症がおこる)の原因菌になります。感染力は強くないので隔離などの必要はありません。

 上気道に存在する肺炎球菌が、分泌物とともに肺のなかへ吸いこまれ、肺の奥(肺胞腔)で増殖すると肺胞毛細血管から滲出液と赤血球がにじみでて肺胞腔内に充満します。これが鉄さび色の痰の元です。肺炎球菌の感染によって多くの痰が排出されると同時に、血管からの滲出液などにより呼吸が苦しくなります。

病気の特徴

 肺炎のなかではもっとも多くみられます。免疫力が低下したお年寄りなどでは重症化する可能性もあり、ワクチンの接種が勧められます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
抗菌薬による薬物療法を行う ★2 肺炎球菌性肺炎に代表される市中肺炎(病院に入院しているときに発病したものでない肺炎)のガイドラインでは、培養の結果を待たずに経験的に治療するよう勧めているものもあります。専門家のなかには培養をして使用する抗菌薬を決めても必ずしも生存率には影響を与えないという意見もあります。一方、とくにペニシリンに対して耐性をもつ肺炎球菌が多く出現してきている現状では、感受性試験が必要だという専門家もいて、現在統一した見解はでていません。ガイドラインでも発表団体によって見解が異なっています。 根拠(1)~(5)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

外来で治療を行う場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ペニシリン系もしくはセフェム系の抗菌薬 オーグメンチン(アモキシシリン:クラブラン酸カリウム=2:1) ★3 これらの薬の効果は臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)
パンスポリン(塩酸セフォチアム) ★3

ペニシリン耐性肺炎球菌に対して

主に使われる薬 評価 評価のポイント
メイアクト(セフジトレンピボキシル) ★1 ペニシリンに耐性のある菌に対して、セフジトレンピボキシルなどのセフェム系抗菌薬は推奨されていません。市中肺炎で外来で治療するのであればマクロライド系抗菌薬のなかの新しい薬、もしくは肺炎球菌に効果のあるニューキノロン系抗菌薬が選択になります。 根拠(3)(4)

入院治療の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
重症の場合に用いる注射薬 ペントシリン(ピペラシリンナトリウム) ★3 これらの薬の効果は臨床研究によって確認されています。 根拠(3)(4)
モダシン(セフタジジム) ★3
スルペラゾン(セフォプラゾンナトリウム:スルバクタムナトリウム=1:1) ★3

呼吸困難をおこし集中治療が必要な場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
マキシピーム(塩酸セフェピム) ★3 最近の市中肺炎のガイドラインでは、ICU(集中治療室)に入院するような重症の患者さんの場合、上記の薬に緑膿菌に対して効力のあるニューキノロン系抗菌薬である塩酸シプロフロキサシンを加えるか、もしくはマクロライド系抗菌薬アジスロマイシンやニューキノロン系抗菌薬を加えるように推奨されています。 根拠(3)(4)
チエナム(イミペネム:シラスタチンナトリウム=1:1) ★3
メロペン(メロペネム三水和物) ★3
タゾシン(タゾバクタムナトリウム:ピペラシリンナトリウム=1:4) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

鉄さび色の痰が特徴

 悪寒、発熱、せき、痰、胸痛といった症状は、原因となる菌にかかわらず肺炎にみられる一般的な症状ですが、肺炎球菌性肺炎の場合は鉄さび色の痰がでることが特徴です。 

 肺炎球菌はもともと上気道に存在していて、通常の免疫力がある場合は問題にならないのですが、とくにお年寄りや免疫力の低下している場合などに、分泌物とともに肺のなかへ吸引され、肺の奥(肺胞腔)で増殖すると、肺胞毛細血管から滲出液と赤血球がにじみでて肺胞腔内に充満します。これが鉄さび色の痰がでる原因です。

ペニシリン系もしくはセフェム系抗菌薬を用いる

 一般に感染症の患者さんでは、原因となる菌の存在する可能性の高い場所の体液を培養し、原因となる菌の種類を確かめて、感受性試験によって有効な抗菌薬を選ぶのが理想です。したがって、肺炎患者さんでは、痰の培養により肺炎球菌によるものとの診断がつきさえすれば、ペニシリン系もしくはセフェム系抗菌薬を用いて治療することができます。

 ただし、市中肺炎(入院時に発病したものでない肺炎)における菌の培養には現在一致した見解が得られておらず、培養の結果を待たずに、経験的に治療を始めることを勧めているガイドラインもあります。

ペニシリン耐性菌の場合はマクロライド系かニューキノロン系抗菌薬を用いる

 ペニシリン耐性菌の場合に限っては、マクロライド系あるいはニューキノロン系抗菌薬を用いるのが適切と考えられています。ペニシリン耐性菌の場合、セフェム系抗菌薬を使った治療は効果が確認されておらず、専門家の意見や経験からも支持されていません。

必要に応じて対症療法を

 肺炎に伴う発熱、せき、痰には、それぞれ解熱薬、鎮咳薬、去痰薬などを、必要に応じて対症的に用います。

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根拠(参考文献)

  • (1) Mandell LA, Niederman MS. Community-acquired pneumonia. N Engl J Med. 1996;334:861.
  • (2) Bartlett JG, Mundy LM. Community -acquired pneumonia (letter). N Engl J Med. 1996;334:862-863.
  • (3) Bartlett JG, Dowell SF, Mandell LA, et al. Practice guidelines for the management of community-acquired pneumonia in adults. Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2000;31:347-382.
  • (4) Niederman MS, Mandell LA, Anzueto A, et al. Guidelines for the Management of Adults with Community-acquired Pneumonia. Diagnosis, assessment of severity, antimicrobial therapy, and prevention. Am J Respir Crit Care Med. 2001;163:1730-1754.
  • (5) Plouffe J, Breiman R, Facklam R, et al. Bacteremia with Streptococcus pneumoniae. Implications for therapy and prevention. Franklin County Pneumonia Study Group. JAMA. 1996;275:194-198.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行