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にきび(座瘡)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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にきび(座瘡)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 顔面、前胸部、背部など皮脂の分泌の多い部分の毛穴に、ブツブツ(面皰)や赤く盛りあがった発疹(紅色丘疹)、膿疱がみられるものです。最初は皮膚と同じ色のブツブツですが、炎症をおこすと赤くなったり膿みがたまったりします。炎症が強いと色素が沈着したり、治ったあとが瘢痕となって残ったりします。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 思春期になると男性ホルモンの影響で脂腺が発達し、皮脂の分泌が盛んになります。毛穴のなかに皮脂がたまり(白にきび)、それが固まるとにきびの芯(黒にきび)となる面皰ができます。そこへ、皮膚に常在する菌(P・アクネ)の働きなどで皮脂が分解され、さらに患部に刺激を与え、その影響で毛穴が硬くなったり狭くなったりして、ますます皮脂がたまりやすくなるという悪循環に陥ってしまいます。

 さらに、白血球も集まってきて炎症をおこします(赤にきび)。細菌感染をおこすと膿疱ができます。体質に加えて、洗顔などが不十分で皮膚が不潔になると、にきびができやすいといえるでしょう。

 脂肪や糖分の多い食事、胃腸障害、化粧品、精神的なもの、物理的刺激、月経、避妊薬をはじめとする薬剤などが、ホルモンや皮脂の分泌に影響を与え、引きがねとなることもあります。このほか、初潮時に生理的におこる場合もあります。

病気の特徴

 程度の違いはあるものの、思春期の男女の80パーセント以上が経験する皮膚の病気です。成人になってから出現する場合もありますが、多くは30歳くらいで軽快します。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
正しく洗顔し、毛穴を清潔に保つ ★2 洗顔や毛穴を清潔に保つことでにきびを予防し、症状を抑えるという点については、病気の成り立ちからいって、専門家からは支持されており、患者さん自身が行えるケアです。
食生活を改善する ★2 明確な根拠を示す臨床研究は見あたりませんが、食事との関連は専門家から支持され、一般的に認められています。
レチノイド外用薬を用いる ★5 いずれのタイプのにきびにもレチノイドの外用薬は効果があることが臨床研究で示されています。 根拠(1)(2)
抗菌薬の外用薬を用いる ★5 抗菌薬の外用薬が有効であることを示す臨床研究報告があります。 根拠(3)~(6)
抗菌薬(内服)を用いる ★3 抗菌薬の内服によって原因となる現象を抑える研究はあります。ただし、耐性菌の出現などの問題もあり、使用には注意が必要です。 根拠(7)~(10)
面皰圧出を行う ★3 たまっている皮脂を専用の器具で取り出す面皰圧出に関して、治療効果があるという研究報告は見あたりません。しかし、専門家の意見と経験によって支持されている治療です。 根拠(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

レチノイド外用薬を用いる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ディフェリン(アダバレン) ★5 にきびのタイプにかかわらず、レチノイド外用薬は効果があることが、信頼性の高い臨床研究で示されています。 根拠(1)(2)

抗菌薬(内服)を用いる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩) ★3 外用薬と同様、抗菌薬の内服についても、有効であるという臨床研究があります。ミノサイクリン塩酸塩とビブラマイシンはテトラサイクリン系抗菌薬の一つですが、同類のテトラサイクリン系の抗菌薬に比べ、効果があるという結果が報告されています。 根拠(7)(8)
ビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物) ★3
ルリッド(ロキシスロマイシン) ★5 ロキシスロマイシンの有効性を確認した信頼性の高い臨床研究があります。耐性菌の出現などの副作用があるため、抗菌薬の使用にあたっては十分な注意が必要です。 根拠(10)(9)
ジスロマック(アジスロマイシン水和物) ★3

抗菌薬の外用薬を用いる

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ダラシンTゲル(クリンダマイシンリン酸エステル) ★3 クリンダマイシンやニューキノロン系抗菌薬(ナジフロキサシン)の外用について、有効であるという臨床研究があります。 根拠(3)(4)(5)(6)
アクアチムローションもしくはクリーム(ナジフロキサシン) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

治療の目的は四つ

 にきびの治療では、過剰な皮脂の産生を少なくする、P・アクネ菌など細菌の増殖を抑える、毛穴(毛包部)に角質や皮質がたまるのを防ぎ正常化する、炎症を抑える、のいずれかの目的で治療が行われます。

 皮脂の産生は、先天的(遺伝的)な要素に、食事などの後天的な要素がかかわっていると考えられています。ただ、具体的にどのような食事をすれば皮脂の産生が抑制できるのかは、いまのところ明確ではありません。

細菌の増殖を防ぐ日常のケアと抗菌薬

 まめに洗顔し、毛穴を清潔に保つことは、細菌が繁殖しておこるにきびの性質上、必ず行うべきことです。市販されているにきび用洗顔料のどれがもっとも効果があるのか、副作用はどうなのか、などについての厳密な臨床研究は見あたらないようです。使う洗顔料のいかんにかかわらず、水かぬるま湯でよくすすぎ、石けんをきちんと落とすことが大切という意見もあります。また、にきびはいじったりつぶしたりすると、化膿してひどくなる場合があるため、その癖も直す必要があります。

 薬物治療としては、レチノイドの外用薬が、いずれのタイプのにきびにも効果があることが示されています。

 抗菌薬は、まず外用薬を局所的に用いて、その効果がないときに内服薬を用いるというのが通常の方法です。さまざまな種類の抗菌薬について、有効性が臨床研究で確かめられています。一般的には、外用はニューキノロン系、内服はテトラサイクリン系のミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)、マクロライド系抗菌薬のルリッド(ロキシスロマイシン)などが用いられます。ただし、内服薬では耐性菌の問題などがありますので、使用には十分な注意が必要です。

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根拠(参考文献)

  • (1) Eady EA, Bojar RA, Jones CE, et al. The effects of acne treatment with a combination of benzoyl peroxide and erythromycin on skin carriage of erythromycin-resistant propionibacteria. Br J Dermatol. 1996;134:107-113.
  • (2) Lookingbill DP, Chalker DK, Lindholm JS, et al. Treatment of acne with a combination clindamycin/benzoyl peroxide gel and vehicle gel: Combined results of two double-blind investigations. J Am AcadDermatol. 1997;37:590-595.
  • (3) Webster GF, Toso SM, Hegemann L. Inhibition of a model of in vitro granuloma formation by tetracyclines and ciprofloxacin. Arch Dermatol. 1994;130:748.
  • (4) Hubbell CG, Hobbs ER, Rist T, et al. Efficacy of minocycline compared with tetracycline in treatment of acne vulgaris. Arch Dermatol. 1982;118:989-992.
  • (5) Gough A, Chapman S, Wagstaff K, et al. Minocycline induced autoimmune hepatitis and systemic lupus erythematosus-like syndrome. BMJ. 1996;312:169-172.
  • (6) Elkayam O, Levartovsky D, Brautbar C, et al. Clinical and immunological study of 7 patients with minocycline-induced autoimmune phenomena. Am J Med. 1998;105:484-487.
  • (7) Sturkenboom MC, Meier CR, Jick H, et al. Minocycline and lupuslike syndrome in acne patients. Arch Intern Med. 1999;159:493-497.
  • (8) Eady EA, Cove JH, Holland KT, et al. Erythromycin resistant propionibacteria in antibiotic treated acne patients: Association with therapeutic failure. Br J Dermatol. 1989;121:51-57.
  • (9) Cooper AJ. Systematic review of Propionibacterium acnes resistance to systemic antibiotics. Med J Aust. 1998;169:259-261.
  • (10) Goldstein BG, Goldstein AO. Diagnostic procedures. In Practical Dermatology, 2nd ed, Mosby-year Book, Inc, 1997, p26.
  • (11) Fern A Wirth, MD. Approach to acne vulgaris . UpToDate online ver 11.1 available at www.uptodate.com
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)