水虫・いんきんたむし(白癬)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
水虫・いんきんたむし(白癬)とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
水虫やいんきんたむしは、皮膚糸状菌(多くは白癬菌)という真菌(カビの一種)によって生じる病気です。足に現れるものを水虫(足白癬)、爪は爪水虫(爪白癬)、股部はいんきんたむし(股部白癬)、体はたむし(体部白癬)、頭部はしらくも(頭部白癬)と呼びならわします。
白癬菌は高温多湿を好み、皮膚のたんぱく質であるケラチンを栄養源とするため、足の裏、足指の間などによくできます。ふつうは皮膚表面に感染しますが、頭部の毛穴から皮膚内部へ入り込み、広範囲におよぶ脱毛をおこすケルスス禿瘡を引きおこすことがあります。
水虫は足底などに小水疱をつくるもの、足指の間にできた小水疱が破れて白くふやけ、びらんとなるもの、足の裏の角質層が厚く硬くなるものの3タイプがあります。角質層が厚くなるタイプ以外のものはかゆみを伴います。
爪水虫になると爪が白く濁り、爪の角質がぼろぼろになります。
いんきんたむしは鼠径部(足のつけ根)に慢性湿疹に似た赤いブツブツができ、次第に周囲へ広がるものです。強いかゆみを伴います。
たむしは環状の皮疹が特徴で、コインの形をしていることから“ぜにたむし”とも呼ばれてきました。
しらくもは頭部に大小の円形の白い斑点ができます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
いずれも白癬菌による感染症です。しらくもは犬、猫などのペットから感染します。白癬菌は高温多湿の環境を好むため、汗ばんだり濡れたりした皮膚をそのまま放置していると、感染しやすくなります。また、糖尿病や副腎皮質ステロイド薬の外用・内服によって免疫力が低下している場合も、感染しやすくなります。
病気の特徴
白癬のなかでもっとも多い水虫は、2100万人が悩んでいると推計されています。水虫は男女とも年齢が高くなるほど多くなる傾向を示しています。なかでも男性では、20歳代から50歳代にかけて患者さんが増えます。いんきんたむしは青年期の男性に比較的多い病気です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
外用抗真菌薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
メンタックス/ボレー(塩酸ブテナフィン) | ★5 | いずれも塗り薬で、塩酸ブテナフィン、ビホナゾールの両抗真菌薬については、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。ラノコナゾールについては、臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験と意見から支持されている薬です。 根拠(1)(5) | |
マイコスポール(ビホナゾール) | ★5 | ||
アスタット(ラノコナゾール) | ★2 | ||
ラミシール(塩酸テルビナフィン) | ★5 | 塩酸テルビナフィン、硝酸ミコナゾール、クロトリマゾールについては、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。 根拠(3) | |
フロリードD(硝酸ミコナゾール) | ★5 | ||
エンペシド(クロトリマゾール) | ★5 |
内服抗真菌薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ラミシール(塩酸テルビナフィン) | ★5 | 塩酸テルビナフィン、イトラコナゾールの内服薬については、非常に信頼性の高い臨床研究で、効果が確かめられています。 根拠(4)(6)(7) | |
イトリゾール(イトラコナゾール) | ★5 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
患部は濡れたままにしない
原因となる白癬菌は高温多湿の環境を好むため、汗ばんだ皮膚をそのまま放置していたり、入浴後などにも患部の水分をよくふき取らずに濡れたままにしたりしていると、かかりやすくなったり、治りにくくなったりします。白癬のできやすい部分の汗や水分はこまめにふき取るようにしましょう。
手足など一部の白癬には外用薬を
体部、股部、手や足など、限られた範囲の白癬には抗真菌薬の使用は、もっとも標準的で確実な治療法です。
ただし、外用薬で一見治ったように見えても、完治していないことが多く、使用を止めてしまったために再発することが少なくありません。真菌が巣食っている皮膚角質層がすべて脱落し、真菌が完全に消滅するまで、長期間塗りつづける必要があります。その際、塗る回数などは少しずつ変えていくこともあります。たとえば、最初の1カ月間は外用薬を毎日塗布し、改善がみられてきたら週に1回ずつの塗布を数カ月間続ける、といった具合です。辛抱強く、正しく使っていけば、ほとんどの患者さんが治ります。
爪水虫などには内服薬を
一方、症状の重い白癬、爪や頭皮、鬚のある部位などの白癬では、外用薬では効果があまりみられないため、抗真菌薬の内服が必要になります。長期間服用しなければならないため、肝機能障害をはじめ、さまざまな副作用の可能性もあります。皮膚科医とよく相談のうえ、注意して指示通り服用しなくてはなりません。
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根拠(参考文献)
- (1) Reyes BA, Beutner KR, Cullen SI, et al. Treatment of interdigital tinea pedis with a 4-week once-daily regimen of butenafine hydrochloride 1% cream. J Am Acad Dermatol. 1997;36:S9-S14.
- (2) Arca E, Tastan HB, Akar A, et al. An open, randomized, comparative study of oral fluconazole, itraconazole and terbinafine therapy in onychomycosis. J Dermatolog Treat. 2002;13:3-9.
- (3) Crawford F, Hart R, Bell-Syer S, et al. Topical treatment for fungal infections of the skin and nails of the foot. The Cochrane Library, Issue 3, 2001.
- (4) Bell-Syer SE, Hart R, Crawford F, et al. A systematic review of oral treatments for fungal infections of the skin of the feet. J Dermatolog Treat. 2001;12:69-74.
- (5) Zienicke H, Korting HC, Braun-Falco O, et al. Comparative efficacy and safety of bifonazole 1% cream and the corresponding base preparation in the treatment of seborrhoeic dermatitis. Mycoses. 1993;36:325-331.
- (6) Drake LA, Shear NH, Arlette JP, et al. Oral terbinafine in the treatment of toenail onychomycosis: North American multicenter trial. J Am Acad Dermatol. 1997;37:740-745.
- (7) Degreef H, del Palacio A, Mygind S, et al. A Randomized double-blind comparison of short-term itraconazole and terbinafine therapy for toenail onychomycosis. Acta Derm Venereol. 1999;79:221-223.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行