痒疹/皮膚掻痒症の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
痒疹/皮膚掻痒症とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
痒疹は強いかゆみを伴うしこりや丘疹のことです。これに対して、皮膚掻痒症は皮疹がみられずに強いかゆみだけが持続する状態をいいます。からだのあちこちがかゆくなる全身性皮膚掻痒症と、体の一部だけがかゆくなる限局性皮膚掻痒症があります。痒疹と皮膚掻痒症はともに、かくことで症状がかえって悪化する病気です。かきすぎることによって皮膚がごわごわして厚くなったり、硬いタコのような発疹ができたりすることもあります。また、皮膚以外の病気がもとになって、これらの症状が現れていることもありますので、くわしい検査が必要になることもあります。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
痒疹は虫刺され、薬疹、アトピー性皮膚炎などが原因です。慢性的に広範囲におこる頑固な痒疹の場合は内臓疾患が原因となっていることがあります。全身性皮膚掻痒症の多くは、皮膚の老化に伴うものです。表面の角質層が水分を失い、かさかさになるとかゆみがおこります。空気が乾燥した寒い季節に症状が強くでます。
限局性皮膚掻痒症は、とくに女性の場合、カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎、月経、妊娠などが原因となって、陰部にしばしばみられます。男性の場合は、前立腺肥大症でみられることがあります。便秘、下痢、痔などが原因となって肛門の周囲にかゆみを感じることもあります。ほかに、肝臓病、腎臓病、糖尿病、高尿酸血症、ホジキン病などの病気が背景にある場合、これらの皮膚症状が現れることもあります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
副腎皮質ステロイド薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
デルモベート(プロピオン酸クロベタゾール) | ★4 | 痒疹に対して、副腎皮質ステロイド薬の外用薬を使用することは一般的ではありません。ただし、アトピー性皮膚炎によるものであれば、副腎皮質ステロイド薬の外用薬が効果的です。じんましんに対しては副腎皮質ステロイド薬の内服が効果的です。いずれの治療も信頼性の高い臨床研究によって確かめられています。 根拠(1)(4) | |
リンデロン-V(吉草酸ベタメタゾン) | ★4 | ||
ドレニゾン(フルドロキシコルチド) | ★4 | ||
ネリゾナ(吉草酸ジフルコルトロン) | ★4 |
抗アレルギー薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ジルテック(塩酸セチリジン) | ★5 | アトピー性皮膚炎が原因となっている場合に用いられます。乳幼児のアトピー性皮膚炎に対して抗アレルギー薬を用いると副腎皮質ステロイド薬の外用薬の使用期間や使用量を減らすということが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(5)(6) | |
アゼプチン(塩酸アゼラスチン) | ★5 |
抗ヒスタミン薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ポララミン(d-マレイン酸クロルフェニラミン) | ★5 | 抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎のかゆみや目の症状を抑える目的でしばしば用いられます。また、じんましんのようなアトピー性皮膚炎以外でも皮膚掻痒感の解消に用いられます。その効果については、非常に信頼性の高い臨床研究によって認められています。 根拠(2)~(4) | |
セレスタミン(d-マレイン酸クロルフェニラミン・ベタメタゾン配合剤) | ★5 | ||
アタラックス(塩酸ヒドロキシジン) | ★5 |
保湿剤
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質) | ★2 | 保湿剤の効果については臨床研究は見あたりません。ただし、皮膚の水分量が減っているためにかゆみがおきている場合には、保湿剤によって水分を逃さないようにすることは、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
ケラチナミン/ウレパール(尿素) | ★2 | ||
白色ワセリン | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは内科的な検査を
痒疹の原因は、虫刺され、薬疹、アトピー性皮膚炎だけでなく、内臓の疾患である可能性もあります。一見皮膚には異常がないのにかゆみがあるときは、加齢に伴う皮膚の乾燥によるものと考えられる場合を除けば、一度は内科的な精密検査を受けるよう勧められます。肝臓や腎臓の病気、糖尿病、高尿酸血症、ホジキン病など、重大な病気によってかゆみが現れることがあるからです。そのような場合には、病気ごとにまったく異なった治療が行われます。
お年寄りの場合はまず日常生活のケアを
お年寄りの皮膚掻痒症には、入浴の回数を減らしたり、一般的に用いられている石けんを低刺激のニュートロジーナやミノンなど(ニュートロジーナやミノンは皮膚科で勧める低刺激の石けんで、医薬品ではありません)に替えたりします。尿素やグリセリン軟膏を用いた保湿剤によって皮膚の水分を逃さないようにすることも勧められます。
日常生活のケアだけでかゆみが抑えられなければ、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を用いてようすをみます。こちらは臨床研究で効果が確かめられています。
場合によっては副腎皮質ステロイド薬を
アトピー性皮膚炎やじんましんなど、特殊な痒疹には、副腎皮質ステロイド薬の外用薬を用います。その効果については臨床研究で確認されています。また、患部をかくこと自体が皮膚症状をさらに悪化させますので、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の内服を用いることもあります。
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根拠(参考文献)
- (1) Bleehen SS, Chu AC, Hamann I, et al. Fluticasone propionate 0.05% cream in the treatment of atopic eczema: a multicentre study comparing once-daily treatment and once-daily vehicle cream application versus twice-daily treatment. Br J Dermatol. 1995;133:592-597.
- (2) Klein PA, Clark RA. An evidence-based review of the efficacy of antihistamines in relieving pruritus in atopic dermatitis. Arch Dermatol. 1999;135:1522-1525.
- (3) Nuovo J, Ellsworth AJ, Larson EB. Treatment of atopic dermatitis with antihistamines: lessons from a single-patient, randomized clinical trial. J Am Board Fam Pract. 1992;5:137-141.
- (4) Grattan C, Powell S, Humphreys F. Management and diagnostic guidelines for urticaria and angio-oedema. Br J Dermatol. 2001;144:708-714.
- (5) Diepgen TL; Early Treatment of the Atopic Child Study Group. Long-term treatment with cetirizine of infants with atopic dermatitis: a multi-country, double-blind, randomized, placebo-controlled trial (the ETAC trial) over 18 months. Pediatr Allergy Immunol. 2002;13:278-286.
- (6) Breneman DL. Cetirizine versus hydroxyzine and placebo in chronic idiopathic urticaria. Ann Pharmacother. 1996;30:1075-1079.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行