薬疹の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
薬疹とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
薬の副作用によって、皮膚に発疹がおこるものを薬疹といいます。そのほとんどは、アレルギー反応によるものです。
薬を使い始めてから、10日前後で発症することが多いのですが、数週間や半年以上たってから症状がでることもあります。
薬疹によってできる皮膚の症状に特徴はなく、いろいろな色(赤色、赤紫色)や形があり、水ぶくれができることもあります。とくに、全身に小さな赤い発疹が多くでるタイプ(紅斑丘疹型薬疹)や、赤い円形が平べったく盛り上がるタイプ(多形滲出性紅斑)が多くみられます。
多形滲出性紅斑タイプの発疹では、まれに、生命にかかわる重い合併症がおこります。たとえば、「皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)」では、高熱や全身のだるさ、のどの痛みなどを伴うことがあり、さらに口のなかや目、陰部などの粘膜にも発疹ができます。
また、「中毒性表皮壊死融解症(ライエル症候群あるいはTEN型薬疹)」では、突然、全身にやけどをしたような灼熱感とチクチクした痛みを伴う紅斑が発症して全身に広がり、ただれ(びらん)ができます。これらの場合は、早急に医師の診察を受ける必要があります。
なお、外用薬に対する薬疹は、「かぶれ(接触皮膚炎)」といい、薬疹には含まれません。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
薬に対して、体内の免疫細胞がアレルギー反応を記憶してしまうこと(感作)が原因です。ふつう、感作には2週間かかります。その後、再び同じ薬が体内に入ると、早ければ数分(即時型)、遅くとも2~3日(遅延型)のうちに、アレルギー反応が引きおこされます。即時型ではじんましん(赤いみみずばれで、かゆみがある)やショック反応(けいれんをおこし、失神状態になる)、遅延型ではいろいろなタイプの皮膚症状がおこります。
ある薬で薬疹ができた場合、次に同じ薬を飲んだり、注射を受けたりすると、再発します。また、薬疹をおこした薬と化学構造が似ている場合も、同じようにアレルギー反応をおこす可能性があります。薬疹を引きおこす薬は、人によって異なります。なお、発疹の形によって、原因となる薬を判別することはできません。
このほか、薬疹のなかには特殊なタイプもあります。同じ薬を飲むたびに同じ場所だけが赤くなって、やがて黒っぽいシミ(色素沈着)に変わるものを「固定薬疹」、日光にあたる部分の皮膚になんらかの症状がでるものを「光線過敏型薬疹」といいます。
病気の特徴
薬疹のなかでも重症の「皮膚粘膜眼症候群」の罹患率は、人口100万人あたり年間1~6人、「中毒性表皮壊死融解症」は年間0.4~1.2人とされています。
よくみられる病気ではありませんが、「皮膚粘膜眼症候群」の死亡率は6~10パーセント、「中毒性表皮壊死融解症」は20~30パーセント程度と推定されているため、このような症状がみられた場合には迅速な対応が必要です。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
疑わしい薬剤の使用を中止する | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、薬疹と考えられた場合は、すぐに疑わしい薬剤の使用を中止します。そのまま放置して使いつづけると、症状がひどくなる可能性があります。 | |
軽症の場合では抗ヒスタミン薬の内服を行う | ★2 | 抗ヒスタミン薬が発疹を消失させるという臨床研究は見あたりませんが、この薬の効果は専門家の経験や意見によって支持されています。 | |
軽症の場合では副腎皮質ステロイド薬の外用を行う | ★2 | 副腎皮質ステロイド薬が発疹を消失させるという臨床研究は見あたりませんが、この薬の効果は専門家の経験や意見によって支持されています。 | |
重症の場合では原因薬剤以外の薬剤も使用を中止する | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、重症の場合は疑わしい薬のほかにも、薬の使用を控えるべきです。症状がひどくなる可能性があります。 | |
重症の場合では早期にステロイド大量療法を行う | ★2 | ステロイド大量療法とは、炎症を早急に抑える必要がある場合に、副腎皮質ステロイド薬を大量に集中的に使って治療する方法です。この治療で効果があがれば、治療期間や入院期間が短くなり、副腎皮質ステロイド薬の副作用を軽減させることができます。重症な薬疹の場合に対する副腎皮質ステロイド薬の内服治療は、「効果がある」という臨床研究と「有害である」という臨床研究があります。どちらも信頼性の高い臨床研究の結果ですが、それらの臨床研究より、さらに信頼性の高いランダム化比較試験で認められたものではありません。 根拠(1)~(5) | |
重症の場合では全身状態を改善させるために輸液を行う | ★2 | 臨床研究は見あたりませんが、この治療の効果は専門家から支持されています。重症の場合では傷ついた皮膚から水分や電解質(細胞が働くために必要なナトリウム、カリウム、カルシウムなど)が失われやすく、生命にかかわるため、適切な輸液は基本として必要な治療です。 | |
水ぶくれ、ただれが激しい場合は熱傷(やけど)治療に準じた治療を行う | ★2 | 水ぶくれやただれがひどいような重症の場合では、傷口から細菌が入り合併症をおこす可能性があります。このような場合は、やけどの場合と同じように、医師による治療と管理が必要です。迅速に病院で診察を受けてください。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
抗ヒスタミン薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ゼスラン・ニポラジン(メキタジン) | ★2 | 薬疹に対して、抗ヒスタミン薬が発疹を消失させるという臨床研究は見あたりませんが、この薬の効果は専門家の経験と意見によって支持されています。 | |
ポララミン(d-マレイン酸クロルフェニラミン) | ★2 |
副腎皮質ステロイド外用薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
マイザー(ジフルプレドナート) | ★2 | 薬疹に対して、副腎皮質ステロイド薬が発疹を消失させるという臨床研究は見あたりませんが、この薬の炎症を抑える効果は専門家の経験や意見によって支持されています。(副腎皮質ステロイド外用薬の強弱については(図)を参照) | |
アンテベート(酪酸プロピオン酸ベタメタゾン) | ★2 | ||
フルメタ(フランカルボン酸モメタゾン) | ★2 |
ステロイド大量療法
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ソル・メドロール(コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム) | ★2 | ステロイド大量療法では、一般的に、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムをゆっくり点滴静脈注射する治療を3日間続けます。効果が出れば、以降はプレドニゾロンやベタメタゾンを服用します。重症の薬疹に対する副腎皮質ステロイド薬の内服薬治療は、「効果がある」という臨床研究と「有害である」という臨床研究があります。どちらも信頼性の高い臨床研究の結果ですが、それらの臨床研究よりさらに信頼性の高いランダム化比較試験で認められたものではありません。 | |
プレドニン(プレドニゾロン) | ★2 | ||
リンデロン(ベタメタゾン) | ★2 |
輸液
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
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症状に応じて選択する | ★2 | 信頼性の高い臨床研究はありませんが、症状に応じて輸液が必要となることは専門家から支持されています。 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
疑わしい薬剤を中止する
薬疹と考えられた場合、疑わしい薬剤を早期に中止することが、もっとも重要です。一般的に、発疹が軽度であれば、薬剤を中止するだけで、自然に治癒するのを待ちます。また、薬疹の原因と考えられた薬物は、以後、絶対に使わないように注意することが大切です。
症状がやや強い場合は、抗ヒスタミン薬を
ヒスタミンは、アレルギーをおこすと体内で放出される物質の一つです。この作用を抑える抗ヒスタミン薬などの内服薬や、炎症を抑える副腎皮質ステロイド外用薬(塗り薬)は、アレルギー反応を抑える働きをします。
症状がひどい場合は、すべての薬剤を中止し、ステロイド大量療法を
重症の場合は、原因となった薬だけでなく、すべての薬剤の使用を中止します。
さらに、ステロイド大量療法を行い、炎症を迅速に抑えます。ステロイド大量療法で効果があがれば、その後は、内服の副腎皮質ステロイド薬を用い、医師の指示にしたがって減量していきます。
副腎皮質ステロイド内服薬は非常に効きめのよい薬ですが、服用が長期間にわたると、副作用がでやすい薬です。このため、症状を確認しながら、医師の判断で少しずつ薬の量を減らしていきます。
もし、途中で自分勝手に薬の量を変えたり、飲むのをやめたりした場合、副作用だけが表面に強く現れて、急に症状が悪化する可能性が高くなります。
この薬の使用については絶対に医師の指示を守るよう注意してください。
水ぶくれやただれが現われた場合は、早急に医師の診察を
水ぶくれ、ただれが重症である場合は、中毒性表皮壊死融解症が疑われ、ただちに熱傷(やけど)治療と同じような治療が必要となり、医師の診察を必要とします。
脱水・電解質異常・栄養障害がおこりやすいため、輸液を行うこともあります。
また、高熱やだるさなどの全身症状を伴う場合は皮膚粘膜眼症候群が疑われます。これらのタイプの薬疹は、重症化して生命にかかわることになりかねませんので、一刻も早く受診してください。
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根拠(参考文献)
- (1) Tripathi A, Ditto AM, Grammer LC, et al. Corticosteroid therapy in an additional 13 cases of Stevens-Johnson syndrome: a total series of 67 cases. Allergy Asthma Proc. 2000;21:101-105.
- (2) Kakourou T, Klontza D, Soteropoulou F, et al. Corticosteroid treatment of erythema multiforme major (Stevens-Johnson syndrome) in children. Eur J Pediatr. 1997;156:90-93.
- (3) Halebian PH, Corder VJ, Madden MR, et al. Improved burn center survival of patients with toxic epidermal necrolysis managed without corticosteroids. Ann Surg. 1986;204:503-512.
- (4) Rasmussen JE. Erythema multiforme in children. Response to treatment with systemic corticosteroids. Br J Dermatol. 1976;95:181-186.
- (5) Ginsburg CM. Stevens-Johnson syndrome in children. Pediatr Infect Dis. 1982;1:155-158.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行