外耳道炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
外耳道炎とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
外耳道、いわゆる耳の穴におこる炎症が外耳道炎です。マッチ棒や綿棒、耳かき、爪などで外耳道の皮膚をひっかくことでできた傷口、あるいは外耳に湿疹などがあって、いじっているうちについた傷口から細菌や真菌が感染しておこります。急に強い症状がでるものを急性外耳道炎、症状は弱いものの長期的に続いているものを慢性外耳道炎といいます。
耳のなかのかゆみ、耳がつまった感じ、激しい痛み、外耳が赤く腫れるといった症状がみられるほか、耳だれ(水様性の耳漏)がでることもあります。外耳道の骨の部分に炎症がおこることもあり、その場合は症状が強くなります。
アレルギー性の病気や糖尿病、がんなどの全身性の病気が背景にあって発病しやすくなったり、くり返したりする患者さんもいます。とくに、糖尿病の人が緑膿菌という細菌によって外耳道炎をおこすと、炎症が広がり重症化することが多く、これを悪性外耳道炎と呼びます。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
細菌や真菌の感染が原因となります。慢性外耳道炎は、急性外耳道炎が治りきらずに慢性化する場合と、糖尿病やアレルギー体質、免疫機能の低下などが基礎になって最初から弱い炎症がだらだらと続く場合があります。外耳道を清潔に保ち、いじらないようにしていれば、抗菌薬で治ります。
病気の特徴
急性外耳道炎では、プールや海水浴によって耳の皮膚がふやけ、耳に不潔な水が入ることで、細菌などが感染しやすくなることもあって、夏に多くおこる傾向があります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
外耳道を消毒し、清潔に保つ | ★2 | 効果を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験や意見では、外耳道を消毒し、清潔に保つことが外耳道炎治療の基本と考えられています。 根拠(1) | |
外耳道をいじったり、刺激を与えたりしないようにする | ★2 | 効果を示す臨床研究は見あたりませんが、外耳道炎がおこる原因(いじったり刺激を与えたりすることで外耳道に傷がつき、感染がおこる)となりうることから、当然避けたほうがよいと考えられます。 根拠(1) | |
原因菌によって適切な抗菌薬や抗真菌薬を用いる | ★5 | さまざまな抗菌薬や抗真菌薬(点耳液、軟膏)などが用いられています。いくつかのものについては、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。耐性菌の出現や薬自体に対するアレルギーについて注意しながら用います。 根拠(2)~(4) | |
痛みやかゆみが激しい場合は、それらを抑える薬を用いる | ★2 | 外耳道炎は激しい痛みを伴うことがあり、その場合、鎮痛薬によって速やかに症状をコントロールする必要があります。また、かゆみに対しては外用の副腎皮質ステロイド薬を用います。これらについては、臨床研究によって確認されていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(1) | |
化膿して膿みがたまっている場合は、切開して膿みを出す | ★2 | 外耳道炎では抗菌薬治療を行うことが多く、切開して膿をだすことによる効果は臨床研究で確かめられていません。しかし、治療が長引く場合や重症の場合は切開が必要なこともあります。これは専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(1) | |
悪性外耳道炎は全身的に抗菌薬を用いる | ★3 | 悪性外耳道炎は点耳液や軟膏ではなく、はじめから静脈注射による抗菌薬が用いられます。ニューキノロン系抗菌薬によって約90パーセントの治癒率が得られたとする臨床研究があります。 根拠(5) |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
炎症が細菌感染による場合に用いる抗菌薬(局所用)
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
タリビッド(点耳液)(オフロキサシン) | ★5 | オフロキサシンは非常に信頼性の高い臨床研究で、高い効果が確認されています。塩酸セフメノキシムとホスホマイシンナトリウムは臨床研究によって、効果が確認されています。 根拠(6)(7)(8) | |
ベストロン(耳鼻科用液)(塩酸セフメノキシム) | ★3 | ||
ホスミシンS(耳科用液)(ホスホマイシンナトリウム) | ★3 | ||
クロロマイセチン(耳科用液)(クロラムフェニコール) | ★2 | クロラムフェニコール配合剤については、効果を認める臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。 |
炎症を抑える副腎皮質ステロイド外用薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
リンデロン-VG(吉草酸ベタメタゾン・硫酸ゲンタマイシン配合剤) | ★2 | 副腎皮質ステロイド外用薬デキサメタゾンリン酸エステルナトリウムについては、外耳道炎を対象にした質の高い臨床研究で、炎症による痛みやかゆみを抑える効果が確認されています。 根拠(1)(2) | |
リンデロン-V/ベトネベート(吉草酸ベタメタゾン) | ★2 | ||
プロパデルム(プロピオン酸ベクロメタゾン) | ★2 | ||
オルガドロン(デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム) | ★5 |
炎症が真菌感染による場合の外用抗真菌薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
エンペシド(クロトリマゾール) | ★3 | クロトリマゾールと硝酸ミコナゾールは臨床研究によって効果が確かめられています。 根拠(10)(9) | |
フロリードD(硝酸ミコナゾール) | ★3 |
かゆみを抑える薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
抗ヒスタミン薬 | ★2 | 外耳道炎の患者さんを対象にした臨床研究は行われていませんが、外用の副腎皮質ステロイド薬でかゆみがおさまらない場合には内服の抗ヒスタミン薬を用いることもあります。 |
痛みを抑える消炎鎮痛薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物) | ★2 | いずれの消炎・鎮痛薬も痛みを抑えるという目的で用いられます。外耳道炎そのものの治療ではないため、外耳道炎に対する臨床研究は行われていませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 | |
ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム) | ★2 | ||
ポンタール(メフェナム酸) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
耳を清潔にするのが基本
細菌や真菌の感染による外耳道炎であれば、まず、外耳道を消毒し、患部の清潔を保つようなケアを行い、さらなる感染を予防します。
そのうえで、激しい痛みを伴う場合は消炎・鎮痛薬を、また、かゆみがひどい場合は外用の副腎皮質ステロイド薬を用います。とくに痛みが強いと、患部のケアが行き届かないため、重症化するおそれもあります。
原因菌を特定し、対処する
外耳道炎の治療では、原因菌の特定(予測)と、それに対応する耳科用の抗菌薬や抗真菌薬を患部に用いるのが原則です。
炎症が細菌感染による場合は、タリビッド(オフロキサシン)、ベストロン(塩酸セフメノキシム)、ホスミシンS(ホスホマイシンナトリウム)などの抗菌薬(点耳液)が用いられます。
一方、炎症が真菌の感染によっておきている場合は、エンペシド(クロトリマゾール)やフロリードD(硝酸ミコナゾール)を使用します。いずれもアレルギーの有無に十分配慮しながら用います。
悪性外耳道炎では特別な治療を
とくに糖尿病の人などが緑膿菌という細菌によって外耳道炎をおこすと重症化します(悪性外耳道炎)。この場合、まずは耳の洗浄を行い、その後、抗菌薬を静脈注射します。ニューキノロン系の抗菌薬は治癒率が高いということが報告されています。また、化膿がひどく膿みがたまっている場合は、切開して膿みをだすこともあります。
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根拠(参考文献)
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- (3) Rosenfeld RM, Schwartz SR, Cannon CR, et al. Clinical practice guideline: acute otitis externa. Otolaryngol Head Neck Surg 2014; 150:S1.
- (4) Rosenfeld RM, Brown L, Cannon CR, et al. Clinical practice guideline: acute otitis externa. Otolaryngol Head Neck Surg 2006; 134:S4.
- (5) Joachims HZ, Danino J, Raz R. Malignant external otitis: treatment with fluoroquinolones. Am J Otolaryngol. 1988;9:102-105.
- (6) Schwartz RH. Once-daily ofloxacin otic solution versus neomycin sulfate/polymyxin B sulfate/hydrocortisone otic suspension four times a day: a multicenter, randomized, evaluator-blinded trial to compare the efficacy, safety, and pain relief in pediatric patients with otitis externa. Curr Med Res Opin 2006; 22:1725.
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- (9) Vennewald I, Klemm E. Otomycosis: Diagnosis and treatment. Clin Dermatol 2010; 28:202.
- (10) Munguia R, Daniel SJ. Ototopical antifungals and otomycosis: a review. Int J Pediatr Otorhinolaryngol 2008; 72:453.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)