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メニエール病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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メニエール病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 メニエール病は内耳の異常によって、めまい発作をくり返す病気で、耳鳴りや難聴を伴うのが特徴です。軽いふらつき感程度の場合もありますが、発作の多くは、突然、回転性(自分や周囲がぐるぐる回っている感じ)のめまいに襲われることで始まります。1回の発作は数時間から1日でおさまります。

 めまいの発作がおきたあと、あるいは少し前から難聴、耳鳴りがおこります。耳鳴りや難聴は片耳の場合も両耳の場合もあり、めまいの発作がおさまると、回復します。しかし、メニエール病では、発作のない時期(間欠期)をはさんで、めまいの発作がくり返されるのが特徴で、発作がくり返されるうちに、耳鳴りや難聴が消えずに進行していくことがあり、注意が必要です。薬によってめまいの発作の回数を減らしたり、軽くしたりはできますが、難聴の進行を完全には食い止めることができないこともあります。

 そのほかの症状としては、耳がつまった感じ、吐き気や嘔吐、冷や汗、頭が重い、肩がこるなどがあります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 内耳を満たしているリンパ液が過剰になると内リンパ水腫になります。これによってめまいが引きおこされます。しかし、なぜリンパ液が過剰になってしまうのか原因はわかっていません。文明社会に生活する人に多く、発展途上国の人に少ないことから、ストレスや過労が引きがねになっているのではないかと考えられています。そのほか、睡眠不足や塩分のとりすぎ、喫煙や気圧の変化などとの関連が指摘され、女性では月経の時期とも関係しているようです。

病気の特徴

 1861年、フランスの耳鼻科医メニエールが発見した病気です。めまいといえばメニエールといわれるほど有名ですが、メニエール病の頻度はそれほど高くはありません。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
発作がおきたら横になって安静にする ★2 信頼性の高い臨床研究は見あたりませんが、めまいによる転倒予防のためには必要と考えられるでしょう。
過労、睡眠不足など発作の引きがねとなるような生活習慣を改める ★2 過労や睡眠不足が発作の引きがねになるかどうかは臨床研究で明らかにされていません。また、塩分、カフェイン、たばこを控えるべきとする意見もありますが、こちらも信頼性の高い臨床研究は行われていないようですが、いずれも、専門家の意見や経験からは支持されています。 根拠(1)(2)
発作がおこったときには薬で抑える ★3 信頼性の高い臨床研究で、メニエール病に対して効果が確認されている薬は見あたりません。抗コリン薬でめまいの頻度が減少したとの報告はあります。嘔吐などを伴うときは制吐薬が適当でしょう。 根拠(3)
発作を予防するための薬を用いる ★3 信頼性の高い臨床研究で効果が確認されている薬は見あたりませんが、利尿薬、メチル酸ベタヒスチンでめまいに関してやや効果を認めたとの臨床研究があります。 根拠(4)~(6)
内リンパのう開放術を行う ★4 内リンパのう開放術とは、内耳に増えすぎたリンパ液を排出する手術です。いくつかの信頼性の高い臨床研究では、プラセボ効果のみが認められていましたが、1990年代以後の臨床研究では、術後、めまい、吐き気・嘔吐、耳鳴りが改善すると報告されています。手術の方法はいくつかありますが、それぞれの方法に統計学的に意味のある差はないようです。 根拠(7)~(14)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

めまいの発作を抑える薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
グリセオール(濃グリセリン・果糖配合液) ★2 濃グリセリンがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
プリンペラン(メトクロプラミド) ★2 メトクロプラミドがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。しかし、吐き気を伴う場合は用いることもあります。
メイロン(炭酸水素ナトリウム) ★2 炭酸水素ナトリウムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
イソバイド(イソソルビド) ★3 イソソルビドがメニエール病のめまいに対して効果があるということが臨床研究によって確認されています。選択薬の一つになると思われます。 根拠(15)
セファドール(塩酸ジフェニドール) ★2 塩酸ジフェニドールがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
グランダキシン(トフィソパム) ★2 トフィソパムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
メリスロン(メチル酸ベタヒスチン) ★3 いくつかの臨床研究でメチル酸ベタヒスチンはメニエール病のめまいを軽減するとの報告があります。耳鳴りや難聴には効果が示されていません。信頼性の高い臨床研究ではありませんが、効果が確認されており、第一選択薬としてよいと思われます。 根拠(6)
アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム) ★3 アデノシン三リン酸二ナトリウムはメニエール病の症状に対して効果があることが臨床研究によって確認されています。ある臨床研究では、メチル酸ベタヒスチンと比較して、より効果があったと報告しています。 根拠(15)
カルナクリン/サークレチンS/カリクレイン(カリジノゲナーゼ) ★2 カリジノゲナーゼがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
セルシン/ホリゾン/ソナコン(ジアゼパム) ★2 抗不安薬のジアゼパムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。しかし、強い不安症状が伴う場合は対象となるでしょう。

内耳の血液循環を改善する薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ノイキノン(ユビデカレノン) ★2 ユビデカレノンがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム) ★3 アデノシン三リン酸二ナトリウムはメニエール病の症状に対して効果があることが臨床研究によって認められています。ある臨床研究では、メチル酸ベタヒスチンと比較してより効果があったと報告しています。 根拠(15)
ビタメジン(ビタミンB1・B2・B12混合剤) ★2 ビタミンB1・B2・B12混合剤がメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
プロスタンディン(アルプロスタジルアルファデクス) ★2 アルプロスタジルアルファデクスがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

まずは安静にしたのちに、検査で正確な診断を

 めまいの発作は、患者さんに非常に不安を与える症状です。メニエール病であることがわかっていて、以前に経験したことのある発作であれば不安はいくらか軽くなりますが、これまでそういった兆候もないのに、突然、周囲がぐるぐる回っているようなめまいに襲われ、その後、耳鳴りや聞こえが悪くなるなどの聴覚の症状もおこってくると、ますます不安は募るでしょう。

 まずは、めまいがおこっても安静にし、楽な姿勢で、症状がおさまるのを待つことです。数時間~1日も安静にしていれば、症状がおさまってきます。無理して起き上がろうとすると、転倒する可能性もあるので危険です。

 めまいには脳の病気によっておこるものもありますから、落ち着いたら、専門医を受診し、検査によってほかの深刻な病気でないかどうかの正確な診断を受けるべきでしょう。

 過労や睡眠不足、過剰な塩分、カフェイン、たばこが発作の引きがねになるかどうか明らかな根拠は認められませんが、ストレスやこれらの因子を避けたほうがいいという意見は専門家から支持されています。自分でできる生活習慣の見直しであり、副作用もありませんから、試してみましょう。

治療は薬か手術で

 メニエール病との診断がつけば、現在のところ、薬と手術で治療が進められます。

 とくに、めまいの発作を抑えるメリスロン(メチル酸ベタヒスチン)、内耳の血液循環をよくする薬アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム)の使用と、内リンパのう開放術については、臨床研究によってある程度有効であることが認められています。

 したがって、発作中には安静にして、落ち着いたらメリスロン(メチル酸ベタヒスチン)、アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム)を用います。

 薬だけでは発作がおさまらないときには内リンパのう開放術を行うことを検討するのが適切と思われます。なお、手術は両耳に異常がおこっている場合や、お年寄りの場合などは適応にならないことがあります。

根拠(参考文献)

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  • (16) Mizukoshi K, Watanabe I, Matsunaga T, et al. Clinical evaluation of medical treatment for Meniere's disease, using a double-blind controlled study. Am J Otol. 1988;9:418-422.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)