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睡眠時無呼吸症候群の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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睡眠時無呼吸症候群とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 睡眠時にしばしば呼吸が止まり、無呼吸の状態(10秒間以上の呼吸停止)を断続的にくり返すことを睡眠時無呼吸症候群といいます。症状としてはいびきや不規則な呼吸が睡眠時におこります。診断上は、7時間の睡眠中に10秒間以上の呼吸停止が30回以上現れるか、あるいは1時間に5回以上現れるものとしています。

 目が覚めているときには、呼吸に異常は現れません。睡眠時であるため、本人が意識していることはほとんどありませんが、短時間であっても換気が行われず、肺まで空気が通らなくなるということは窒息状態と同じです。眠っているように見えても、息苦しさ、寝苦しさを感じて、実際には頻繁に目が覚めていたり、十分に睡眠がとれていなかったりする場合も少なくありません。

 熟睡感がないので日中に眠気や居眠りがおこり、起床時には酸欠状態から頭痛がしたり、頭が重い感じが残ったりするほか、注意力に欠ける、集中力・判断力・記憶力が落ちる、活動力が低下するといった症状も現れます。

 慢性的に血液中の酸素の濃度が低くなって重症化すると、肺高血圧症、心肥大、心不全、高血圧、不整脈、脳血管障害を引きおこす可能性が高くなるといわれています。

 乳幼児では、睡眠時の無呼吸によって突然死する危険性もあるため、十分な注意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 寝ているときは、健康な人でも、筋肉がゆるみ上気道は狭くなりがちです。とくにあおむけになると、舌の付け根がのどの奥のほうに落ち込むためさらに狭くなり、それに鼻づまりなどが伴うとますます空気の通り道が狭くなって、いびきの原因となります。

 ただし、健康な人では、上気道が狭くなることがあっても、必要な呼吸換気量は確保されています。

 睡眠時無呼吸症候群の人は、気道や呼吸中枢神経系になんらかの異常がみられ、呼吸停止が現れます。形状的に空気の通り道が狭まる原因としては、扁桃の肥大、巨舌症、アデノイドなどがあります。

 また、肥満は無呼吸をおこりやすくする重要なきっかけとなります。体重増加によって首まわりの贅肉も多くなり、気道の粘膜下に脂肪が多くなるために気道の内側も狭くなります。

病気の特徴

 乳幼児から成人まで発症する病気です。とくに成人では、日中の眠気が、居眠り運転による交通事故や労働災害につながり、社会問題にもなっています。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
肥満を改善し、アルコールの飲みすぎを避ける ★3 肥満と睡眠時無呼吸症候群には強い関連があり、体重の減量によって無呼吸症状が改善することが臨床研究によって確認されています。体重の約10パーセントを減量するだけで無呼吸症状が26パーセント減少するという報告もあります。また、アルコールは無呼吸症状、いびきを悪化させるといわれていますので、アルコールの飲みすぎは控えたほうがよいでしょう。 根拠(1)(2)
寝るときの姿勢をあおむけから横向きに変える ★3 あおむけの姿勢と睡眠時無呼吸症候群には強い関連があり、姿勢を横向きにすると、無呼吸症状が改善するという臨床研究がいくつかあり、効果が確認されています。ただし、いびきは向きを変えただけで改善させるのは難しいようです。 根拠(3)(4)
アデノイドや口蓋扁桃に肥大がある場合は切除する ★3 アデノイドや口蓋扁桃が著しく肥大している場合、切除術は無呼吸症状を改善する効果があることが、臨床研究によって確認されています。 根拠(5)
手術(矯正術、下鼻甲介切除術など)を行う ★2 鼻中隔彎曲症や肥厚性鼻炎、副鼻腔炎などがある場合、これらの手術によって昼間の眠気、睡眠状態を改善するとの臨床研究はありますが、睡眠時無呼吸症候群に関して、効果をはっきりと示した信頼性の高い臨床研究は見あたりません。 根拠(6)
下顎前突型歯科的装具(マウスピース)を装着する ★5 睡眠時に歯科的装具(マウスピース)をつけて、下顎や舌を前方に移動して固定することで、舌の付け根がのどの奥のほうに落ち込むのを予防し、上気道の拡大をはかる治療法です。睡眠時無呼吸症候群に関して、1年後の有効率が95パーセント、4年後も81パーセントと長期間の使用によっても有効率があまり減少しないことが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。後述する口蓋垂軟口蓋咽頭形成術と比較して、より効果があると報告されています。また、合併症もほとんどありません。しかし、4年間装着を続けられる人は約6割と報告され、装着率の改善が課題となっています。 根拠(7)
のどの奥を広げる口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を行う ★5 口蓋垂(のどちんこ)を含めた軟口蓋(上あごの奥のやわらかい部分)を切除し上咽頭部を拡大する手術です。1年後の有効率が約60パーセントであることが非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。しかし、4年後には35パーセントに低下し、再び治療が必要となった手術例が25パーセントも確認されています。歯科的装具と比較して有効性が劣るとの報告もあるので、歯科的装具により改善を認められない場合に適応となるでしょう。合併症として10パーセントに誤嚥が認められます。 根拠(7)
のどの奥を広げるレーザー口蓋垂軟口蓋形成術を行う ★1 無呼吸症状に関しては手術を行わない場合と比べて効果を認めていません。いびきを改善するとの報告もありますが、ごくわずかです。口蓋垂軟口蓋咽頭形成術と比べても同等の効果を認めていません。アメリカ睡眠医学会のガイドラインでも睡眠時無呼吸症候群に対する治療として勧められていません。 根拠(8)(9)
CPAP(continuous positive airway pressure:持続気道陽圧)療法を行う ★5 睡眠時に専用の鼻マスクを装着し、ポータブルのコンプレッサーで空気を送り込んで圧力をかけて気道の閉塞を防ぐ方法がCPAP療法です。CPAP療法によって、睡眠状態など生活の質(QOL)の改善が認められたと、いくつかの非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。ただし、気道閉塞に対する対症療法であり、根治につながる治療法ではありません。そのため、装着は半永久的に継続する必要があります。装着がむしろ睡眠時のストレスになることもあり、それが課題となっています。 根拠(10)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

肥満が大きな原因の一つ

 肥満と睡眠時無呼吸症候群とは強い関連があり、体重の減量によって無呼吸症状が改善することは信頼性の高い臨床研究によって認められています。適度な運動をする、過食過飲を避けるなど、体重を減らすような日常生活の取り組みが大切です。

 そのほか、寝るときの姿勢を横向きにすると、無呼吸症状が改善できることも臨床研究によって確認されています。これらのことは副作用なく行えることですので、すべての睡眠時無呼吸症候群の患者さんは試みるべきでしょう。

まずはCPAPや下顎前突型歯科的装具を

 日中、睡魔に襲われ、意識が飛ぶような居眠りをしたり、頭痛や頭重感などの症状を訴えたり、心臓や脳血管の病気をもっている患者さんが、睡眠時無呼吸症候群と診断されたなら、まずCPAPや下顎前突型歯科的装具(マウスピース)などの装着が第一選択になります。いずれも装着が長期間になるため、睡眠時に苦痛を感じ、それがストレスになって長く続けられないなどの課題もありますが、無呼吸症状に対する改善率は高く、手術療法と比べると効果の持続性もあり、あまり深刻な副作用もみられません。比較的、安心して勧められる治療です。

持続できない場合、手術を

 CPAPやマウスピースの装着を始めても、装着時のストレスに耐えられず、装着を継続できない患者さんも少なくありません。また、高い有効率とはいえ、効果が認められない場合もなかにはあります。そのような場合には、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を考慮するのが一般的です。

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根拠(参考文献)

  • (1) Peppard PE, Young T, Palta M, et al. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000;284:3015-3021.
  • (2) Taasan VC, Block AJ, Boysen PG, et al. Alcohol increases sleep apnea and oxygen desaturation in asymptomatic men. Am J Med. 1981;71:240-245.
  • (3) Braver HM, Block AJ. Effect of nasal spray, positional therapy, and the combination thereof in the asymptomatic snorer. Sleep. 1994;17:516-521.
  • (4) Miki H, Hida W, Kikuchi Y, Takishima T. Effect of sleep position on obstructive sleep apnea. Tohoku J Exp Med. 1988;156(Suppl):143-149.
  • (5) Potsic WP, Pasquariello PS, Baranak CC, et al. Relief of upper airway obstruction by adenotonsillectomy. Otolaryngol Head Neck Surg. 1986;94:476-480.
  • (6) Verse T, Maurer JT, Pirsig W. Effect of nasal surgery on sleep-related breathing disorders. Laryngoscope. 2002;112:64-68.
  • (7) Walker-Engstrom ML, Tegelberg A, Wilhelmsson B, et al. 4-year follow-up of treatment with dental appliance or uvulopalatopharyngoplasty in patients with obstructive sleep apnea: a randomized study. Chest. 2002;121:739-746.
  • (8) Ferguson KA, Heighway K, Ruby RR. A randomized trial of laser-assisted uvulopalatoplasty in the treatment of mild obstructive sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2003;167:15-19.
  • (9) Littner M, Kushida CA, Hartse K, et al. Practice parameters for the use of laser-assisted uvulopalatoplasty: an update for 2000. Sleep. 2001;24:603-619.
  • (10) Farre R, Hernandez L, Montserrat JM, et al. Sham continuous positive airway pressure for placebo-controlled studies in sleep apnoea. Lancet. 1999;353:1154.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行