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アデノイド/扁桃肥大の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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アデノイド/扁桃肥大とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 扁桃は鼻や口から侵入する病原体と戦うなど、免疫にかかわっているリンパ組織です。一般に「扁桃腺」と呼ばれますが、扁桃には腺組織がないので正しい呼び方ではありません。

 扁桃にはいくつかの組織がありますが、増殖肥大が問題となるのは、咽頭扁桃と口蓋扁桃の二つです。咽頭扁桃は鼻腔の奥、口蓋垂(のどちんこ)の上のほうにあります。この部分の組織が増殖肥大する病気をアデノイドといいます。

 口蓋扁桃は口蓋垂の両側にあるもので、一般に扁桃といえばこの部分を指します。口蓋扁桃が異常に増殖肥大したものを扁桃肥大と呼んでいます。

 単に肥大しているだけであれば、治療の必要はありませんが、次のような症状がみられたら、なんらかの治療が必要になります。

 ①咽頭扁桃が肥大するために鼻での呼吸が困難になり、頭が重くなったり、注意力が散漫になったりする。

 ②常時、口呼吸をするために、下唇が下に垂れてきたり、顔面の筋肉がゆるみ、生気のない表情になる。

 ③滲出性中耳炎や慢性副鼻腔炎が長引き、治りにくくなる。

 ④上気道の閉塞によって、睡眠時に無呼吸や激しいいびきが現れる。

 ⑤食べ物の飲み込みが難しくなったり、食欲不振となる。

 ⑥扁桃に炎症をおこしやすく、発熱や咽頭痛をくり返す。などです。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 咽頭扁桃も口蓋扁桃も、生後まもなく発達し、咽頭扁桃は3~5歳ごろ、口蓋扁桃は5~7歳ごろにもっとも大きくなり、その後免疫機能が発達すると小さくなっていきます。肥大自体は生理的に自然な現象で、病的な状態ではありません。さまざまな症状がでた場合にだけ治療の対象となります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
問題となる症状がなければ、とくに治療の必要はない ★2 放置しても経過はよく、症状や合併症さえなければ治療の必要はありません。
手術を検討する 上気道の閉塞を認める場合 ★3 手術が必要となります。無呼吸症状に効果を認めることが臨床研究によって確認されています。 根拠(1)
滲出性中耳炎が長引いたり、くり返したりする場合 ★2 手術を行うと、その後、滲出性中耳炎になる頻度が手術をしない場合よりも少なくなることは信頼性の高い臨床研究によって確認されていますが、その差はほんのわずかです。手術による合併症などを考えると、滲出性中耳炎をくり返すだけでは手術を行う必要は必ずしもないと考えられます。 根拠(2)(3)
発熱や咽頭炎をくり返す場合 ★2 手術を行うと、その後、咽頭炎になる頻度が減少することは信頼性の高い臨床研究によって確認されていますが、その差はほんのわずかです。手術による合併症等を考えると、咽頭炎をくり返すだけでは手術を行う必要は必ずしもないと考えられます。 根拠(4)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

肥大自体は自然な生理的現象

 扁桃は鼻や口から侵入する病原体と戦うなど免疫にかかわっているリンパ組織です。鼻腔の奥、口蓋垂の上のほうにある咽頭扁桃が増殖肥大するのがアデノイドです。一般に扁桃と呼ばれる口蓋垂の両側にある口蓋扁桃が異常に増殖肥大したものが扁桃肥大です。

 咽頭扁桃も口蓋扁桃も、生後まもなく発達し、咽頭扁桃は3~5歳ごろ、口蓋扁桃は5~7歳ごろにもっとも大きくなり、その後小さくなっていくため、肥大自体は生理的に自然な現象で、病的な状態ではありません。さまざまな症状がでた場合にだけ治療の対象となります。

つらい症状がある場合のみ手術を検討

 発熱や咽頭炎をくり返す、滲出性中耳炎が長引いたりくり返したりする、呼吸するのが難しいなどといった、患者さん自身に苦痛を与える合併症が明らかな場合にのみ、手術が考慮されます。

 確かに、咽頭炎の頻度や滲出性中耳炎の頻度が手術によって減少することは非常に信頼性の高い臨床研究によって明らかになっていますが、手術を行わない場合との差はほんのわずかです。

 そのため、手術によっておこりうる合併症などを考慮すると、必ずしも手術を行う必要はないと考えられます。患者さんにとって症状がどれだけ苦痛であるかを見極め、慎重に検討するべきでしょう。

 明らかな感染症がある場合を除けば、アデノイド/扁桃肥大自体に対して抗菌薬を頻繁に用いるのは勧められません。

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根拠(参考文献)

  • (1) Potsic WP, Pasquariello PS, Baranak CC, et al. Relief of upper airway obstruction by adenotonsillectomy. Otolaryngol Head Neck Surg. 1986;94:476-480.
  • (2) Paradise JL, Bluestone CD, Colborn DK, et al. Adenoidectomy and adenotonsillectomy for recurrent acute otitis media: parallel randomized clinical trials in children not previously treated with tympanostomy tubes. JAMA. 1999;282:945-953.
  • (3) Rosenfeld RM. Surgical prevention of otitis media. Vaccine. 2001;19:S134-S139.
  • (4) Paradise JL, Bluestone CD, Colborn DK, et al. Tonsillectomy and adenotonsillectomy for recurrent throat infection in moderately affected children. Pediatrics. 2002;110:7-15.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行