2003年初版 2016年改訂版を見る

アレルギー性結膜炎の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

つぶやく いいね! はてなブックマーク

アレルギー性結膜炎とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 ある特定の物質に過敏に反応するアレルギー反応が、目の結膜でおきる病気です。

 初期症状としては目やまぶたがかゆくなります。かゆくてたまらず目をこすることが多くなるので、結膜の充血や痛みもでてきます。悪化するとまぶたが腫れ、結膜にゼリー状の目やにがでたり、涙が止まらなくなったり、ごろごろとした異物感などの症状がおきたりします。

 またこれに加えて、鼻水やくしゃみが止まらないといったアレルギー性鼻炎の症状が伴うこともあります。とくにアトピー体質の人や、もともと気管支喘息などアレルギー性の病気をもっている人などに多くみられます。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 アレルギーを引きおこす物質をアレルゲン(抗原)といいますが、アレルギー性結膜炎における代表的なアレルゲンには、花粉、ハウスダスト、ダニ、ペットの毛、化学物質、食べもの、繊維などがあります。

 アレルゲンによっては特定の季節にしか症状が現れず、これを季節性アレルギー性結膜炎(花粉性結膜炎)といい、1年中症状があるものは通年性アレルギー性結膜炎と呼ばれます。

続きを読む

治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
原因となっているアレルゲン物質を特定する ★2 アレルギー性結膜炎の治療は、アレルゲン物質の特定と除去が基本ですから、当然必要と考えられます。 根拠(1)
アレルゲン物質をできるだけ避けるようにする ハウスダスト、ダニはていねいに掃除機で吸い取る ★3 ハウスダストやダニとアレルギー性結膜炎は強い関連があるという臨床研究があります。これらのアレルゲン物質を取り除くことはアレルギー性結膜炎の症状をやわらげるために必要とされています。 根拠(2)
布団は日光消毒し、その後掃除機をかける ★3 布団とアレルギー性結膜炎は関連があるという臨床研究があります。布団などの寝具はダニの格好の住み家ですから、よく日光にあてて消毒し、掃除機でダニの死骸やえさとなるほこりを取り除くことは有効な方法です。 根拠(3)
花粉に対しては眼鏡やマスクをする ★3 眼鏡などで目をアレルゲンから保護することは、アレルギー性結膜炎の症状改善に効果があるという臨床研究があります。 根拠(4)
衣服についた花粉は家の外でよく払う ★2 これらの方法がアレルギー性結膜炎の症状を緩和するという臨床研究は見あたりませんが、専門家の経験と意見から支持されています。
うがいや洗顔をする ★2
ストレスを避け、睡眠不足や過労に注意する ★3 ストレスを強く感じるできごと(家族の死、人間関係の対立など)とアレルギー性結膜炎は関連があるという臨床研究があります。避けることができるストレスは回避したほうがいいでしょう。 根拠(5)
季節性の場合は、症状がでる前から予防的に抗ヒスタミン薬の点眼を始める ★5 非常に信頼性の高い臨床研究で、点眼用の塩酸レボカバスチンは、流行の季節の直前から始めて8週間用いることで約90パーセントの患者さんで目の症状が改善されたと報告されています。また、抗ヒスタミン薬の内服薬と同程度の効果があり、副作用は変わらないことが示されています。とくに花粉の量が多いときほど効果があるとしています。 根拠(6)(7)
症状が重い場合は、期間を限って副腎皮質ステロイド薬の点眼液と抗アレルギー薬を併用する ★2 いくつかの非常に信頼性の高い臨床研究によって副腎皮質ステロイド薬の点眼液はアレルギー性結膜炎の急性期の症状(かゆみ、充血など)を緩和することが確認されています。同時に、長期使用による副作用(眼圧上昇、白内障など)が問題となると報告しています。2週間の使用では副作用はほとんど認められず、約1週間で症状が緩和されたとしていますので、短期使用が望ましいでしょう。 根拠(8)(9)
予防的な治療の効果が認められた場合は、抗ヒスタミン作用のない抗アレルギー薬の点眼を継続する ★2 いまのところ、こうした治療の効果を確認する臨床研究は見あたらず、今後の課題と考えられます。

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗ヒスタミン薬点眼用

主に使われる薬 評価 評価のポイント
リボスチン(塩酸レボカバスチン) ★5 これらの薬は非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。花粉をアレルゲンとする季節性の場合、塩酸レボカバスチンを花粉飛散の直前から8週間用いると、約90パーセントの患者さんで症状の改善が認められたとしています。フマル酸ケトチフェンでは目のかゆみ、充血、涙目などの症状に対して80パーセント以上の人で効果があったとしています。 根拠(6)(11)(13)
ザジテン(フマル酸ケトチフェン) ★5

抗アレルギー薬点眼用

主に使われる薬 評価 評価のポイント
インタール(クロモグリク酸ナトリウム) ★5 クロモグリク酸ナトリウムは、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されていますが、症状緩和に関して、塩酸レボカバスチンに比べやや効果が弱いとされています。ペミロラストカリウムは、非常に信頼性の高い臨床研究によって季節性のアレルギー性結膜炎に対する予防効果が確認されています。また、トラニラストの効果を示す臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。 根拠(10)(11)(12)(14)
アレギサール(ペミロラストカリウム) ★5
リザベン(トラニラスト) ★2

副腎皮質ステロイド薬点眼用

主に使われる薬 評価 評価のポイント
フルメトロン(フルオロメトロン) ★2 フロオロメトロンの効果は臨床研究によって確かめられていませんが、類似薬であるヒドロコルチゾンは臨床研究によって効果が確認されています。副作用(眼圧の上昇、白内障)の可能性に注意し慎重に用いる必要があります。 根拠(9)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

治療の基本はアレルゲン物質の特定と除去

 アレルギー性結膜炎の治療の基本は、アレルゲン物質を特定することと除去することです。ハウスダストやダニなどがアレルゲンの場合は、住居の掃除や寝具の日光消毒などによって環境を整備し、アレルゲン物質を取り除くことで症状をコントロールすることができます。

 花粉がアレルゲンであれば、眼鏡などで目を保護することは症状改善に効果があります。

 また、ストレスによって症状が悪化するという報告もみられますから、避けることができるストレスは回避したほうがよいでしょう。

副腎皮質ステロイド薬は副作用に注意

 症状を緩和するのに有効なことが実証されている薬は何種類もあります。確実に、しかもすぐに効果がでる薬としては、副腎皮質ステロイド薬のフルメトロン点眼液(フルオロメトロン)がありますが、副作用(眼圧の上昇、白内障)の可能性もありますので、リボスチン点眼液(塩酸レボカバスチン)やザジテン点眼液(フマル酸ケトチフェン)などの抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬のほうが安心して使えると思います。

 症状がそれほど強くなく、効果がでるまでに少し時間がかかってもよい場合にはインタール点眼液(クロモグリク酸ナトリウム)やアレギサール点眼液(ペミロラストカリウム)の使用が勧められます。

 鼻アレルギー(アレルギー性鼻炎)を合併している場合には、経口での抗アレルギー薬を用いることもあります。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1) American Optometric Association. Care of the patient with conjunctivitis. 2nd ed. St. Louis (MO): American Optometric Association; 1996. 54p.
  • (2) Kosrirukvongs P, Visitsunthorn N, Vichyanond P, et al. Allergic conjunctivitis. Asian Pac J Allergy Immunol. 2001;19:237-244.
  • (3) Murata Y, Okazaki I, Matsuki H, et al. An epidemiological study of allergic conjunctivitis. Nippon Koshu Eisei Zasshi. 1993;40:95-103.
  • (4) Little EC, Garner LF. Eye protection from airborne allergens. J Am Optom Assoc. 1986;57:462-464.
  • (5) Kilpelainen M, Koskenvuo M, Helenius H, et al. Stressful life events promote the manifestation of asthma and atopic diseases. Clin Exp Allergy. 2002;32:256-263.
  • (6) Sohoel P, Freng BA, Kramer J, et al. Topical levocabastine compared with orally administered terfenadine for the prophylaxis and treatment of seasonal rhinoconjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 1993;92:73-81.
  • (7) Bahmer FA, Ruprecht KW. Safety and efficacy of topical levocabastine compared with oral terfenadine. Ann Allergy. 1994;72:429-434.
  • (8) Juniper EF, Guyatt GH, Ferrie PJ, et al. Sodium cromoglycate eye drops: regular versus "as needed" use in the treatment of seasonal allergic conjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 1994;94:36-43.
  • (9) Leonardi A, Papa V, Milazzo G, et al. Efficacy and safety of desonide phosphate for the treatment of allergic conjunctivitis. Cornea. 2002;21:476-481.
  • (10) Montan P, Zetterstrom O, Eliasson E, et al. Topical sodium cromoglycate (Opticrom) relieves ongoing symptoms of allergic conjunctivitis within 2 minutes. Allergy. 1994;49:637-640.
  • (11) Abelson MB, George MA, Smith LM. Evaluation of 0.05% levocabastine versus 4% sodium cromolyn in the allergen challenge model. Ophthalmology. 1995;102:310-316.
  • (12) Juniper EF, Guyatt GH, Ferrie PJ, et al. Sodium cromoglycate eye drops: regular versus "as needed" use in the treatment of seasonal allergic conjunctivitis. J Allergy Clin Immunol. 1994;94:36-43.
  • (13) Greiner JV, Michaelson C, McWhirter CL, et al. Single dose of ketotifen fumarate .025% vs 2 weeks of cromolyn sodium 4% for allergic conjunctivitis. Adv Ther. 2002;19:185-193.
  • (14) Abelson MB, Berdy GJ, Mundorf T, et al. The pemirolast study group. Pemirolast potassium 0.1% ophthalmic solution is an effective treatment for allergic conjunctivitis: a pooled analysis of two prospective, randomized, double-masked, placebo-controlled, phase III studies. J Ocul Pharmacol Ther. 2002;18:475-488.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行