おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とは、どんな病気でしょうか?
おもな症状と経過
軽い発熱(ないときもある)や体のだるさがおこり、耳の下にある耳下腺が腫れたり、赤くなったりします。耳下腺は両方同時に腫れる場合と、先に片方だけ腫れたあと、もう一方が腫れる場合があり、押さえると痛みます。話をしたり食べ物をかんだり、酸っぱい物を食べたりしたときに、耳下腺の痛みが増します。腫れは1~3日で最大になり、3~7日でおさまります。
子どもの場合ほとんどは重症に至らず治りますが、脳炎、髄膜炎の合併症がみられることがあり、ごくまれに後遺症として難治性の難聴が残ります。
思春期以降の男性では精巣炎を合併することもありますが、不妊になることはどちらかというとまれのようです。女性では、まれに卵巣炎を合併することが知られています。
病気の原因や症状がおこってくるしくみ
ムンプスウイルスによっておこる病気で、くしゃみやせきから飛沫感染します。
潜伏期間はおよそ14~21日間で、ウイルスが気道内で増えたあと、唾液腺に感染して、全身に炎症をおこします。感染しても、症状が現れない不顕性感染で終わる例が30~40パーセントあります。
治療法とケアの科学的根拠を比べる
治療とケア | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
ワクチン接種によって予防する | ★4 | 信頼性の高い臨床研究によって、生後14~18カ月と6歳時の2回の接種で、発症者数が大幅に減少したと報告されています。 根拠(1) | |
痛みが激しい場合は冷やす | ★2 | 専門家の意見と経験から支持されています。 | |
さらに痛みが激しい場合は薬で抑える | ★2 | 専門家の意見と経験から支持されています。 |
よく使われる薬の科学的根拠を比べる
解熱薬
主に使われる薬 | 評価 | 評価のポイント | |
---|---|---|---|
アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン) | ★2 | アセトアミノフェンは副作用がほとんどなく、子どもにも安全に使用できる解熱鎮痛薬です。メフェナム酸は抗炎症作用のほか、解熱や鎮痛効果もありますが、副作用として胃腸障害がでやすい薬剤です。また、メフェナム酸と飲み合わせの悪い薬がありますので、ほかにも薬を飲んでいる場合は、注意が必要です。いずれも流行性耳下腺炎を対象とした臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見と経験から支持されています。 | |
ポンタール(メフェナム酸) | ★2 |
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ワクチン接種で予防する
この病気に対するワクチン接種の予防効果は確実であることが、信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。1歳から成人まで受けることができ、副作用はほとんどありません。
一般的には、重症に至らず自然に治る病気ですが、まれとはいっても深刻な合併症やそれに伴って後遺症が残る場合もあります。
確実に予防できることがわかっている以上、1歳を過ぎたら早めに接種するべきでしょう。また、子どものころに接種したかどうかわからない場合でも接種が可能です。心配な人は受けておくとよいかもしれません。
ウイルスを排除する治療法はない
原因となるウイルスの増殖を抑制したり、体外への排泄を促したりする治療法はありません。さまざまな症状や苦痛を軽減することを目的とした処置が、経験的に行われるのが実情です。
たとえば、耳や筋肉の痛みに対して、消炎鎮痛薬や湿布薬を、発熱に対して解熱薬を用います。口のなかが乾いたり皮膚粘膜に脱水がみられたりしたら、水分の摂取量を増やしたり輸液をすることなどによって水分の補給に努めます。あたたかい牛乳やおかゆ、スープなどの流動食も勧められます。
精巣炎の治療にはインターフェロンが有効
成人男性に合併する精巣炎の治療には、インターフェロンが有効であることが示されています。根拠(2)
感染力が強い病気
とくに、耳下腺の腫れがおこる1日前から腫れがひくまでは、ムンプスウイルスの感染力が強くなっています。腫れがあるうちは、感染を広げないように外出を控えたほうがよいでしょう。腫れが確実にひいてから、幼稚園や学校など、公共の場にでることをお勧めします。
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根拠(参考文献)
- (1) Peltola H, Heinonen OP, Valle M, et al. The elimination of indigenous measles, mumps, and rubella from Finland by a 12-year, two-dose vaccination program. N Engl J Med. 1994;331:1397-1402.
- (2) Ku JH, Kim YH, Jeon YS, et al. The preventive effect of systemic treatment with interferon-alpha2B for infertility from mumps orchitis. BJU Int. 1999;84:839-842.
- 出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行