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脳腫瘍の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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脳腫瘍とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 脳腫瘍は、脳組織に異常細胞が増える病気です。さまざまな種類がありますが、大きく悪性のものと良性のものに分けられます。一般に脳実質内に発生する腫瘍は悪性で、治療が適切でないと呼吸中枢が侵されて死に至ります。神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれるものがこれにあたります。ほかの臓器にできたがんが転移してできる悪性腫瘍もあります。転移性脳腫瘍はがんの末期(第IV期)にあたり、治療は困難になります。生活の質(QOL)を高め、生存期間の延長を図ることが目的となります。

 一方、脳実質の外側に発生する腫瘍は一般に良性で、手術によって摘出すれば治り、再発することもありません。良性腫瘍には髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫などがあります。

 症状は悪性・良性を問わず、頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭(眼底の腫れ)が三大徴候です。頭痛はしばしば早朝におこり夕方にかけてやわらいでいきます。子どもの患者さんでは、吐き気がないまま嘔吐することもあります。

 また、腫瘍のできる場所によって、さまざまな局所症状が現れてきます。物が二重に見える複視、めまい、耳鳴り、けいれん発作、意識障害、言語障害、片麻痺などの神経症状があります。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 転移性のもの以外は、原因がはっきりわかっていません。ウイルス感染や頭蓋内細胞の発生期における異常などが考えられています。脳は硬い頭蓋骨に覆われているため、腫瘍が徐々に大きくなってくると、頭蓋内の圧力が高くなり、それが頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭といった症状につながります。さらに腫瘍が大きくなるにつれて、正常な脳組織が圧迫され、神経症状が進行していきます。集中力や記憶力の減退などがみられます。

病気の特徴

 脳腫瘍の発生率は人口10万人につき年間約3.5人で、悪性と良性はほぼ半々の割合です(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国推計によるがん罹患データ2011年の値より)。悪性では神経膠腫が多く、軽度から重度までさまざまなものがあります。良性では脳の表面にある髄膜から発生する髄膜腫が多くみられます。新生児からお年寄りまで、あらゆる年代に発生する病気です。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
副腎皮質ステロイド薬を用いる(急性の脳浮腫の治療) ★5 急性の脳浮腫がある場合、副腎皮質ステロイド薬を用います。これは非常に信頼性の高い臨床研究で有効性が確認されています。ただし、目的は腫瘍周囲の浮腫を軽減させることであり、脳腫瘍そのものを縮小させる作用は期待できません。内服と注射があり、内服ができない場合に注射を用います。副腎皮質ステロイド薬を長期間大量に用いると副作用が現れるので、短期間の使用で一時的な効果を期待するほうがよいでしょう。 根拠(1)
抗けいれん薬を用いる(急性期のけいれん発作の治療) ★3 脳腫瘍をもつ患者さんの10~40パーセントはけいれんを初発症状とし、また90パーセントの患者さんが病気の経過中にけいれんを経験するといわれています。けいれん発作をおこした場合や、けいれん発作をおこしやすい場所に脳腫瘍がある場合、抗けいれん薬を用います。脳腫瘍そのものに対する効果はありませんが、一度けいれん発作をおこした場合は、予防的に服用する必要があることが臨床研究によって確認されています。抗けいれん薬としては、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウムのいずれかが使われます。 根拠(2)~(4)
手術によって腫瘍を摘出する ★2 手術による摘出術は、腫瘍の縮小や消失がもっとも期待できる治療法です。腫瘍を安全にすべて摘出できることが理想ですが、悪性の腫瘍にはつねに再発の可能性があります。また、悪性、良性にかかわらず、手術が難しい場所にある脳腫瘍の場合は、手術による神経の損傷に配慮して、腫瘍の一部だけを摘出したり、何回かに分けて手術を行ったりしなければなりません。良性の場合には、手術をせずに経過をみることもあります。良性で腫瘍も小さく症状もない場合には、注意深く経過をみて、大きくなったり、症状がでてきたりした場合だけ手術を考えることもあります。 根拠(5)(6)
放射線療法を行う ★3 放射線療法は原則として手術の補助療法であり、放射線療法が効果的かどうかは、脳腫瘍の種類により異なります。信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されているものもあれば、確認されていないものもあります。放射線療法は通常、手術で脳腫瘍を摘出したあとに行います。悪性の脳腫瘍の場合には再発を予防するために放射線療法を行いますが、必ずしも再発は阻止できません。以前は良性の腫瘍にも放射線療法を行っていましたが、最近では副作用に配慮して行われなくなってきています。 根拠(7)
化学療法を行う ★2 化学療法とは抗がん薬を使用して脳腫瘍の治療をすることで、悪性の脳腫瘍に対して行われます。新しい抗がん薬がどんどん開発されていますが、脳腫瘍を完治させる抗がん薬はいまのところありません。ただし、脳腫瘍の種類によっては再発を予防したり、遅らせたりする効果のある抗がん薬はあります。抗がん薬は重い副作用を招くこともあるので、医師とよく相談しながら治療を進める必要があります。 根拠(8)
ガンマナイフによる放射線療法を行う ★2 ガンマナイフは、コバルト60を線源とする装置を頭部に固定し、そこから発せられるガンマ線を腫瘍に集中照射する方法です。この治療が適応となるのは、通常腫瘍の大きさが3センチメートル以下の場合です。手術による摘出が困難な良性脳腫瘍や、多発性の転移性脳腫瘍、全身状態のよくない患者さんやお年寄りに対して行います。ただし、効果がみられるまでに長期間かかることもあり、効果のない場合もあります。副作用の少ない治療法ですが、その適応を十分に考える必要があります。 根拠(9)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

副腎皮質ステロイド薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
リンデロン(ベタメタゾン) ★5 急性の脳浮腫がある場合、副腎皮質ステロイド薬を内服または注射で用います。脳腫瘍そのものを縮小させる作用はありませんが、腫瘍周囲の浮腫を軽減させる効果は非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。ただし、長期間大量に用いると副作用が現れるので、短期間の使用で一時的な効果を期待するにとどめたほうがよいでしょう。 根拠(1)

抗けいれん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
テグレトール(カルバマゼピン) ★3 一度でもけいれん発作をおこした場合は、予防的に抗けいれん薬を服用すると効果のあることが臨床研究によって確認されています。しかし、一度もけいれん発作をおこしたことのない時点で予防的に用いることについては効果は認められていません。 根拠(2)~(4)
デパケン(バルプロ酸ナトリウム) ★3
アレビアチン/ヒダントール/フェニトイン(フェニトイン) ★3

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ニドラン(塩酸ニムスチン) ★3 脳腫瘍を完治させる抗がん薬はありませんが、脳腫瘍の種類によっては再発を遅らせたり、生存期間を延長させたりすることが臨床研究により確認されています。 根拠(10)(11)(12)(13)(14)
オンコビン(ビンクリスチン硫酸塩) ★2
ランダ/ブリプラチン(シスプラチン) ★3
ラステット/ベプシド(エトポシド) ★3
パラプラチン(カルボプラチン) ★3
塩酸プロカルバジン(塩酸プロカルバジン) ★2
テモダール(テモゾロミド) ★3
アバスチン(ベバシズマブ) ★3

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

腫瘍のタイプ、大きさ、場所などによって手術の適応が決まる

 選択される治療法は、脳腫瘍がどのような細胞・組織型(良性、悪性)なのか、単発性なのか多発性なのかによって大きく異なります。髄膜腫のように、たとえ良性であっても、限られた空間である頭蓋内であまりにも大きくなると、正常な脳組織を圧迫し、神経症状がでてきたり、脳圧亢進症状(頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭)がでてきますので、手術で切除することになります。

 悪性腫瘍でも場所が限られていれば手術で切除し、その後、放射線療法で全脳照射をするというのが一般的でしょう。

 腫瘍のタイプ、大きさ、場所などによって適応が左右されますが、手術は腫瘍の縮小や消失がもっとも期待できる治療法です。

ガンマナイフなどの放射線療法が選択される場合も

 手術が難しい場所にある腫瘍や全身状態がよくない患者さんには、ガンマナイフやライナックなどの放射線療法が用いられます。これらは腫瘍に対して3次元方向から大線量の放射線をピンポイントに集中照射して、病変を治療する方法です。ガンマナイフはコバルト60を線源とするガンマ線を、ライナックはX線を用います。腫瘍だけに照射するため、周囲の正常な組織への副作用が小さくてすみます。

完治はしないが、再発予防や進行を遅らせる抗がん薬

 残念ながら、現在のところ、脳腫瘍を完治させる抗がん薬はありません。しかし、脳腫瘍の種類によっては再発を遅らせたり、生存期間を延長させたりする効果を発揮することが非常に信頼性の高い臨床研究によって、最近になって確認されています。ただし、抗がん薬は重い副作用を招くこともありますから、十分検討したうえで慎重に用いることになります。

脳圧亢進症状には副腎皮質ステロイド薬が効果的

 脳腫瘍による局所神経症状の治療では、薬物療法が用いられます。頭痛、吐き気・嘔吐、うっ血乳頭など、脳浮腫による脳圧亢進症状に対しては、副腎皮質ステロイド薬が効果的です。ただし、副作用の問題がありますから、長期間大量に使うことは避けたほうがいいでしょう。

 また、患者さんの90パーセントが経験するといわれるけいれん発作に対しては、抗けいれん薬が用いられます。過去に一度でもけいれん発作をおこしたことがある場合は、予防的に用いられます。

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根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)