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急性骨髄性白血病の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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急性骨髄性白血病とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 血液のなかには赤血球をはじめとするさまざまな血液細胞が存在しています。これらの血液細胞は骨の中心部にある骨髄という組織でつくられています。

 血液細胞には白血球、赤血球、血小板という3種類があり、白血球はさらに好中球、好酸球、好塩基球(以上三つをまとめて顆粒球)、リンパ球、単球に分けられます。

 これらすべての血液細胞は、骨髄にある造血幹細胞という一つの細胞から枝分かれし、成長したものです。造血幹細胞は、はじめに骨髄系幹細胞とリンパ球系幹細胞とに分かれ、さらになんども枝分かれしながら、最終的に成熟した血液細胞となります。この過程を「血液細胞の分化・成熟」と呼んでいます。

 白血病では、血液の細胞のどれか一つが異常に増殖し、他の血液細胞を作れなくなる状態です。白血病は、発症のしかたによって急性と慢性に分類されるほか、増殖する細胞の種類によって骨髄性とリンパ性に分かれます。

 急性骨髄性白血病は、顆粒球や単球などの骨髄系細胞の分化がある段階でストップし、未成熟の血液細胞(芽球)だけが、急激に増えていくものです。赤血球、血小板、正常な白血球は減少し、異常に増殖した一種類の白血球だけが増えていくようになります。

 赤血球が減少することで体に酸素を運べなくなるため、全身の倦怠感、息切れ、ふらつきなどの症状が現れます。血小板は血液を固めて出血を止める働きがあることから、歯を抜いたあとの出血や鼻血、月経時の出血がいつまでも止まらなくなったり、皮膚粘膜に点状・斑状出血がみられたりします。

 また、正常な白血球は細菌や異物に対して生体を守る働きがあるので、正常な白血球が減ると、体の抵抗力が弱まり、感染症がおこって高熱がでることがあります。

 そのなかでも、急性前骨髄球性白血病(きゅうせいぜんこつずいきゅうせいはっけつびょう)は、貧血、発熱、出血傾向などのふつうの白血病の特徴に加えて、血管内凝固症候群といって血管内で血液が固まっては溶ける現象を合併するため、出血がひどく、また腎不全などをおこしやすいのが特徴です。このように、急性骨髄性白血病は大量出血や感染をおこしやすく、免疫機能も低下しているため、容易に危険な状態に陥るので注意が必要です。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 白血病の発症には放射線、薬剤、ウイルスなどが関係しているのではないかと考えられています。他のがんの治療の改善に伴い、長期に生存される患者さんが増加したため、治療に用いられた抗がん薬や放射線の影響で、二次的に白血病を発症する症例も増加してきています。

病気の特徴

 急性白血病と慢性白血病を合わせた2013年の死亡者数は、8,133人でした。2010年の推測値で、急性白血病と慢性白血病を合わせた患者数は11,484人と報告されています。すべての年齢層で発症しますが、10歳未満の小児と、60代以降に多い病気です。(1)

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

 骨髄から細胞をとり、異常増殖した細胞の特性を確認することで診断を確定します。白血病化した細胞の種類ごと、染色体異常の有無などにより、有効な治療方法が異なります。(2)(3)   白血病は全身に悪性腫瘍が広がった状態であることから、抗がん薬による治療(化学療法)が中心になります。抗がん薬は、正常の細胞も障害し、血球減少に伴う感染症、出血、貧血、嘔吐、下痢、大量の腫瘍細胞が一度にこわされることで体に毒性のある物質が血液にまわってしまう腫瘍溶解症候群などをはじめ多くの副作用があります。このため、患者さんの年齢や全身状態と、もともと骨髄の機能に異常があったかたどうか、抗がん薬療法(化学療法)や放射線療法によるものか否か、染色体異常などから推測される悪性細胞に対しての抗がん薬の効き目を考慮し、薬の種類や量を変更する必要があります。また、治療中、厳重な全身管理が必要になります。  白血病の治療は、①初発時、②いったん寛解が得られたあと、③再発時もしくは初発時の治療効果がみられなかった場合、と大きく三つの段階に分けて考えられています。なお、白血病でいう寛解とは、治療によって白血病細胞がほぼ消失し、白血病に関連した症状もなくなった状態のことです。

治療とケア 評価 評価のポイント
急性骨髄性白血病の治療の例 初発時に寛解導入療法として化学療法を行う ★4 特殊な型を除き、多くの急性骨髄性白血病の初回治療としては、抗がん薬であるシタラビンとイダルビシンまたはダウノルビシンを併用することが、もっとも効果があることが報告されています。 根拠(8)~(10)
寛解後療法として抗がん薬を併用した化学療法を行う(地固め療法) ★3 完全寛解になると骨髄や血液のなかに白血病細胞はほとんど認められなくなりますが、目には見えなくても体のなかには白血病細胞がのこっています。再発を減らすため、残存している白血病細胞の根絶を目的として、地固め療法を行います。シタラビンと種々の抗がん薬を組み合わせ、計4回行う方法などがあります。「コアバインディングファクター(core binding factor)」と呼ばれる染色体や遺伝子の異常が認められる場合は、シタラビン大量療法が地固め療法として有効であることが報告されています。 なお、以前行われていた地固め療法後の維持療法は、施行してもしなくても再発率や予後が変わらないため、行われなくなりました。 根拠(11)(12)(4)
悪性度の高い種類の場合、初回治療に反応しなかった場合や再燃時に骨髄移植療法を検討する ★3 白血病化した細胞の悪性度が高い場合、初回の治療の反応がよくなかった場合、または最初の治療に成功した後で、再度病状が悪化した場合、患者さんの年齢や全身状態などを考慮したうえで、同種骨髄移植を検討します。同種骨髄移植とは、正常な造血が行われなくなった場合に、患者さんの骨髄の機能を抗がん薬や放射線で完全になくしてしまった後に、健康な人(ドナー)から提供された骨髄で置きかえて、病気を根本的に治していこうという方法です。患者さんに兄弟姉妹がおられ、HLAとよばれる血球の型が一致し、かつ同意が得られる場合は、兄弟姉妹から骨髄液の提供を受けて移植を行います。骨髄バンク登録者から提供される骨髄液による移植が行われることもあります。同種骨髄移植は、副作用を軽減する治療方法が進み、再発前の死亡率は減少してきました。しかし、いまだに同種骨髄移植の再発前の死亡、すなわち治療関連による死亡が1割を超えるため、適応については慎重に検討する必要があります。 また、移植に伴う治療効果は、異常増殖した細胞の状態だけでなく、兄弟がいるかどうかや、HLAの型のあった骨髄液を入手できるかなどの社会的条件が大きく左右するため、純粋な意味での比較検討試験を行うことが困難です。限られた研究結果と、副作用の強さ、社会的条件を吟味して移植にふみきるか否かの判断が必要となります。 根拠(5)(2)(6)
急性前骨髄球性白血病の場合 抗がん薬:シタラビン +イダルビシンまたはダウノルビシン+ 分子標的療法:トレチノイン療法 ★4 急性白血病のうち、急性前骨髄球性白血病に対しては、活性型ビタミンAであるトレチノインを使用することで、治療効果があがります。 根拠(13)
急性リンパ球性白血病(フィラデルフィア染色体陽性)の場合 抗がん剤:多剤併用+分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬 ★3 フィラデルフィア染色体という染色体異常のある急性リンパ球性白血病では、この染色体の産物であるbcr-ablを標的とした分子標的療法とステロイドを含む複数の抗がん薬の併用が行われます。しかし、どの抗がん薬の組み合わせがもっともよいのかについては、結論がでていません。また、神経系への影響(浸潤率)が高いため、そのリスクに応じて、抗がん薬の髄腔内投与を行います。急性リンパ球性白血病は寛解導入後、早期に再発することが多いため、若年者では、寛解導入後の同種骨髄移植が推奨されています。 高齢の患者さんで日常生活動作に支障がある場合などは、細胞毒性の強い抗がん薬を避けて、副腎皮質ステロイド薬と分子標的療法を組み合わせるなどの治療方法が選択されることもあります。 根拠(14)(15)(7)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

急性骨髄性白血病 60歳未満の治療の例

主に使われる薬 評価 評価のポイント
寛解導入療法 抗がん薬:キロサイド(シタラビン)+イダマイシン(イダルビシン塩酸塩)またはダウノマイシン(ダウノルビシン塩酸塩) ★4 シタラビンは7日間、毎日、24時間かけて点滴します。イダルビシン塩酸塩またはダウノルビシン塩酸塩は、シタラビンを点滴する最初の3日間、毎日静脈注射します。完全寛解率は7割を超えたと報告されています。 根拠(10)(8)~
寛解後療法(地固め療法) 抗がん薬:キロサイド(シタラビン) ★3 シタラビンに異なる抗がん薬を組み合わせて4回行います。 根拠(11)
抗がん薬:キロサイド(シタラビン)大量療法 ★3 コアバインディングファクターと呼ばれる遺伝子異常・染色体異常のある急性骨髄性白血病は、シタラビンがよく効きます。そこで、抗がん薬の量を増やした治療法が勧められており、シタラビン大量療法が有効であることが報告されています。 根拠(12)

急性前骨髄球性白血病の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
寛解導入療法 抗がん薬:キロサイド(シタラビン)+イダマイシン(イダルビシン塩酸塩)またはダウノマイシン(ダウノルビシン塩酸塩)+分子標的療法:ベサノイド(トレチノイン)療法 ★4 急性前骨髄球性白血病に対しては、活性型ビタミンAであるベサノイド(トレチノイン)が有効であることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。寛解導入療法後、ダウノマイシン(ダウノルビシン塩酸塩)などで、寛解後療法(地固め療法)を行います。 根拠(13)

急性リンパ球性白血病(フィラデルフィア染色体陽性)の場合

主に使われる薬 評価 評価のポイント
抗がん薬:エンドキサン(シクロホスファミド水和物)+オンコビン(ビンクリスチン硫酸塩)+アドリアシン(ドキソルビシン塩酸塩)+デカドロン(デキサメタゾン)など +分子標的療法:チロシンキナーゼ阻害薬 グリベック(イマチニブメシル酸塩)またはスプリセル(ダサチニブ) ★3 フィラデルフィア染色体という染色体異常のある急性リンパ球性白血病では、この染色体異常によってつくられるbcr-ablという物質を標的とした分子標的療法とステロイドを含む複数の抗がん薬の併用療法が行われています。ただし、もっとも有効性の高い抗がん薬の組み合わせについては、結論がでていません。 根拠(14)(15)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

確実な診断を行い、治療法を決定する

 患者さんの年齢、全身状態、および患者さんの骨髄から細胞を採取し、異常増殖した細胞の特性(染色体異常の有無など)によって、最適な治療方法を選択します。

抗がん薬による治療が中心、治療中は厳重な全身管理が必要

 白血病は、全身に悪性腫瘍が広がった状態ですので、抗がん薬による治療(化学療法)が中心となります。抗がん薬には、血球減少に伴う感染症や出血、嘔吐、下痢など多くの副作用があります。患者さんの年齢や全身状態をはじめ、骨髄の機能などを考慮し、同時に抗がん薬の効き目も見極めたうえで、薬の種類や量を選択します。治療中は厳重な全身管理を行い、副作用に対処します。

完全寛解を目指し、寛解導入後、地固め療法を行う

 急性骨髄性白血病の治療は、寛解導入療法と寛解後療法からなります。寛解導入療法では白血病細胞をできる限り減らし、正常な造血機能を回復させること(完全寛解)をめざします。その後、体のなかの白血病細胞をさらに減らすために地固め療法を行います。

 特殊な型を除き、初回の寛解導入の治療としては、キロサイド(シタラビン)とイダマイシン(イダルビシン塩酸塩)またはダウノマイシン(ダウノルビシン塩酸塩)の併用療法が、もっとも有効とされています。寛解後の地固め療法としては、シタラビンと種々の抗がん薬を組み合わせ、4回行うなどの治療法があります。

状況によっては、同種骨髄移植を行う

 再発した場合や、白血病化した細胞の悪性度が高く予後の悪いことが予想される場合は、寛解導入後に、同種骨髄移植を行います。

 同種骨髄移植とは、正常な造血が行われなくなった場合に、患者さんの骨髄の機能を抗がん薬や放射線で完全になくしてしまった後に、HLAとよばれる血球の型が一致する健康な人(ドナー)から提供された骨髄で置きかえて、病気を根本的に治そうとする方法です。

 同種骨髄移植は、副作用を軽減する治療方法が進み、再発前の死亡率は減少してきました。しかし、未だ同種骨髄移植の再発前の死亡、すなわち治療関連による死亡が1割を超えるため、行うかどうかについては慎重な検討が必要です。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

  • (1)国立がん研究センターがん対策情報センター 罹患データ(全国推計値)
  • http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#05 アクセス日2015年1月31日
  • (2)NCCNガイドライン Acute Myeloid leukemia Ver1.2015
  • http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp#nhl アクセス日2015年1月31日
  • (3)一般社団法人 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版 2013,金原出版 ,東京
  • (4)Miyawaki S, Sakamaki H, Ohtake S, et al; Japan Adult Leukemia Study Group AML 97 Study. A randomized, postremission comparison of four courses of standard-dose consolidation therapy without maintenance therapy versus three courses of standard-dose consolidation with maintenance therapy in adults with acute myeloid leukemia: the Japan Adult Leukemia Study Group AML 97 Study.Cancer. 2005;104:2726-34
  • (5)Gooley TA, Chien JW, Pergam SA, et al. Reduced mortality after allogeneic hematopoietic-cell transplantation.N Engl J Med. 2010;363:2091-101.
  • (6)日本造血細胞移植学会 造血細胞移植ガイドライン 急性骨髄性白血病2009年
  • http://www.jshct.com/guideline/pdf/2009AML.pdf アクセス日2015年2月2日
  • (7)de Labarthe A, Rousselot P, Huguet-Rigal F, et al; Group for Research on Adult Acute Lymphoblastic Leukemia (GRAALL). Imatinib combined with induction or consolidation chemotherapy in patients with de novo Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia: results of the GRAAPH-2003 study. Blood. 2007 ;109:1408-13.
  • (8)AML Collaborative Group. A systematic collaborative overview of randomized trials comparing idarubicin with daunorubicin (or other anthracyclines) as induction therapy for acute myeloid leukaemia. Br J Haematol 1998:103:100-9
  • (9)Fernandez HF, Sun Z, Yao X, et al. Anthracycline dose intensification in acute myeloid leukemia.N Engl J Med. 2009;361:1249-59.
  • (10)Ohtake S, Miyawaki S, Fujita H, et al. Randomized study of induction therapy comparing standard-dose idarubicin with high-dose daunorubicin in adult patients with previously untreated acute myeloid leukemia: the JALSG AML201 Study. Blood.2011:117:2358-65
  • (11)Holowiecki J, Grosicki S, Giebel S, et al.Cladribine, but not fludarabine, added to daunorubicin and cytarabine during induction prolongs survival of patients with acute myeloid leukemia: a multicenter, randomized phase III study.J ClinOncol. 2012 ;30:2441-8.
  • (12)Miyawaki S, Ohtake S, Fujisawa S et al.:A randomized comparison of 4 courses of standard-dose multiagent chemotherapy versus 3 courses of high-dose cytarabine alone in postremission therapy for acute myeloid leukemia in adults: the JALSG AML201 Study. Blood. 2011;117:2366-2372.
  • (13)Adès L, Chevret S, Raffoux E,et al; European Acute Promyelocytic Leukemia Group. Is cytarabine useful in the treatment of acute promyelocytic leukemia? Results of a randomized trial from the European Acute Promyelocytic Leukemia Group. J ClinOncol. 2006;24:5703-10.
  • (14)Yanada M, Takeuchi J, Sugiura I, et al; Japan Adult Leukemia Study Group. High complete remission rate and promising outcome by combination of imatinib and chemotherapy for newly diagnosed BCR-ABL-positive acute lymphoblastic leukemia: a phase II study by the Japan Adult Leukemia Study Group.J ClinOncol. 2006;24:460-6.
  • (15)Ribera JM, Oriol A, González M, et al; ProgramaEspañol de TratamientoenHematología; GrupoEspañol de TrasplanteHemopoyético Groups.Concurrent intensive chemotherapy and imatinib before and after stem cell transplantation in newly diagnosed Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia. Final results of the CSTIBES02 trial.Haematologica. 2010 ;95:87-95.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)