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胃がんの治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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胃がんとは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 胃がんは、胃壁の内側にある粘膜から発生し、次第に胃壁の中へと深く入り込んでいきます。がんが粘膜または粘膜下層にとどまっているものを「早期胃がん」、粘膜下層を越えて固有筋層より深くまで広がっているものを「進行胃がん」といいます。進行胃がんでは肝転移や肺転移がみられることがあります。

 特殊な胃がんとして、胃壁の中をはうようにして広がり、粘膜の表面にはあらわれない「スキルス胃がん」があります。早期での発見が難しいため、進行した状態で発見されることが多く、治療が難しい胃がんの種類の1つです。

 胃がんは進行しても自覚症状が現れないことも多く、上部消化管内視鏡やバリウム検査などで発見されることも少なくありません。進行すると胃痛や黒色便、吐血、吐き気、嘔吐、貧血、全身倦怠感などの症状が見られることがあります。ただし、いずれも胃がんの特有の症状ではありません。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 胃がんの発生にはピロリ菌のほか、喫煙、飲酒などが関連すると考えられています。人種や地域によって要因が異なります。ピロリ菌によって慢性の炎症が生じ、しんこうして萎縮性胃炎になると、胃がんの発生リスクが高まることが知られています。そこで、ピロリ菌の除菌による胃がんの予防効果が認められ、除菌治療は2013年2月より保険適応となっています。(1)

病気の特徴

 胃がんは日本人に多いがんとされています。胃がんで亡くなった人の数をみると(2013年)、男性では2位、女性では3位となっていますが、以前と比較し、胃がんで亡くなる人の割合は減少傾向にあります。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
早期胃がんの場合 内視鏡によりがんを切除する(内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)) ★4 大きさが2センチメートル以下の早期がんでリンパ節に転移がない場合に検討されます。病理検査により切除が十分でない結果が出た場合には手術を追加で行うこともあります。 根拠(2)(3)
ヘリコバクター・ピロリの除菌を行う ★5 ESD/EMRを行った後、ヘリコバクター・ピロリ感染が陽性であれば除菌を行うことが推奨されています。早期胃がんの治療後、ピロリ菌を除菌することで新しい胃がんの発生を抑えることができることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(4)(5)
定型手術によってがんを切除する ★4 胃がんの手術は胃切除、リンパ節郭清、消化管の再建により構成されます。定型手術とは、胃の3分の2以上を切除し、決められた範囲のリンパ節を摘出する手術で、その効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(6)
腹腔鏡下手術によってがんを切除する ★3 近年、開腹手術に比較して切開創を小さくし、患者さんの負担を軽減できる腹腔鏡下胃切除術が、主として早期胃癌を対象に行われるようになってきました。手術後の回復が早まることが期待されていますが、通常の手術よりも合併症の発生率がやや高まる可能性も指摘されています。選択に際しては慎重な検討が必要です。 根拠(2)
進行胃がんの場合 定型手術を行う ★5 肝転移や腹膜転移など明らかな遠隔転移がない進行胃がんは、まず手術を考慮します。幽門側胃切除術(口から遠い側を2/3切除)か、胃をすべて取り除く胃全摘術かの選択となります。通常、胃体下部から幽門にかけての箇所に中心をもつがんでは、幽門側胃切除術を、胃上部のがんでは胃全摘術を行います。胃体中部のがんでは、噴門との距離や発育形式(限局型か浸潤型か)を考慮して術式を決定します。リンパ節郭清については、「胃癌治療ガイドライン第4版」で定義されたD2郭清を行う.胃上部の大彎に浸潤する進行がんでは,脾を合併切除することで十分な郭清が可能となりますが、手術後の合併症の増加を覚悟しなければなりません。 根拠(2)
化学療法を行う ★5 手術と組み合わせて行われる補助化学療法と、手術による治癒が難しい状況で延命や症状コントロールを目的として行われる化学療法があります。再発予防のために手術後、目に見えない微小ながんに対して行われる術後補助化学療法の対象はStage II期、III期です。切除ができない進行した胃がん、再発した胃がんに対する化学療法は、最近の進歩により腫瘍を縮小させる効果(奏効率)が認められるようになってきました。しかし、化学療法による完全治癒は現時点では困難です。国内外の臨床試験成績からは生存期間の中央値はおおよそ6~13カ月と報告されています。抗がん薬を用いない対症療法(best supportive care:BSC)の患者さんのグループと、化学療法を行ったグループとを比較した臨床試験において、化学療法を行った患者さんのほうが、生存期間が延長されたことが確認されました。その結果により化学療法を行う意義が認められています。 根拠(7)~(9)
放射線療法を行う ★2 進行胃がんに対して、単独で放射線治療を行ことは、基本的にありません。
手術後に化学療法と放射線療法を併用する ★2 海外の患者さんを対象にした非常に信頼性の高い臨床研究では、外科手術で、目に見える範囲で完全にがんを切除したあとに化学療法と放射線療法を併用すると、手術後になにも治療しない場合に比べて3年生存率などが向上し、予後が改善されていることが報告されています。ただし、その結果がそのまま日本人にもあてはまるかどうかは確認されていません。 根拠(10)
緩和ケアを行う ★4 胃がんによる痛み、出血、閉塞症状を緩和する目的で、胃切除を行うことがあります。効果はありますが、生存率に変化がおこるほどのものではありません。根治を望めないと判断されても、痛みや全身倦怠感をやわらげるといった緩和治療を行い、患者さんの苦痛を取り除くようにします。 根拠(11)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

 以下に、胃がんの化学療法として第一選択薬、第二選択薬となっている薬を挙げます。化学療法の副作用は患者さんによって程度に差があるため、効果と副作用をよくみながら行います。化学療法は、臨床試験に参加して治療を行う選択肢もあります。

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤) ★5 これらの薬は、非常に信頼性の高い臨床研究によって治療効果が示されています。術後の補助化学療法としては、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤を単独で内服する治療が標準治療となっています。手術ができない進行胃がんや再発胃がんに対する化学療法としては、フルオロピリミジン系薬剤(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、フルオロウラシル、カペシタビンなど)、プラチナ製剤(シスプラチン、オキサリプラチンなど)、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル水和物)、イリノテカン塩酸塩水和物などの抗がん薬を単独または組み合わせて用いられます。 根拠(12)~(14)
5-FU(フルオロウラシル) ★5
ゼローダ(カペシタビン) ★5
ランダ/ブリプラチンなど(シスプラチン) ★5
エルプラット(オキサリプラチン) ★5
タキソール(パクリタキセル) ★5
タキソテール(ドセタキセル水和物) ★5
カンプト/トポテシン(イリノテカン塩酸塩水和物) ★5

分子標的薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
ハーセプチン(トラスツズマブ) ★4 胃がんの10~20パーセントでは、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるたんぱく質が増殖に関与していることが明らかになっています。HER2検査が陽性の場合は、分子標的薬のトラスツズマブを併用した化学療法が行われます。また、がんが増殖する際に栄養を得るために血管をつくり出すのを阻害することを目的としたタイプの分子標的薬ラムシルマブの効果も報告されています。 根拠(13)
サイラムザ(ラムシルマブ) ★4

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総合的に見て現在もっとも確かな治療法

ピロリ菌除菌は胃がんの予防に

 胃がんの発生要因としては、ヘリコバクターピロリ菌の感染との関連が明らかになっています。感染が確認された場合には、除菌療法を行うことで、胃がんの発生を抑えることができます。(5)

がんの進行度などに応じて手術法が決まる

 がんを早期に発見して、手術によって切除することがもっとも確実な治療法です。がんが粘膜と粘膜下層にとどまっている早期胃がんでは、内視鏡を用いて切除することがあります。

 進行がんでは、がんの発生場所とリンパ節転移の有無に応じて、切除する胃の範囲やリンパ節まで取り除くリンパ節郭清術を行うかどうかが決定されます。

化学療法を行う

 切除不能の進行胃がん・再発胃がんに対する化学療法は、最近の進歩により高い腫瘍縮小効果(奏効率)を実現できるようになっています。しかし、化学療法による完全治癒は現時点では困難です。

 そこで、化学療法の治療目的はがんの進行に伴っていろいろな症状が現れるのを遅らせること、および生存期間を延ばすこととなります。

近年、胃がんの10~20パーセントでは、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるたんぱく質が増殖に関与していることが明らかになっており、HER2検査を行ったうえで、使用する抗がん薬の組み合わせが決められます。HER2検査が陽性の場合は、分子標的薬と呼ばれる種類の薬の上乗せ効果が認められており、従来の抗がん薬との併用療法が選択されます。

 抗がん薬の組み合わせなどは、患者さんの状態に合わせて標準治療として示されたガイドラインに沿って検討されます。

症状をやわらげることを目的とした緩和治療もある

 がんを手術で摘出したり、薬で死滅させることが不可能と判断されたとしても、患者さんのさまざまな症状をやわらげるための緩和治療が積極的に行われます。

 緩和治療で用いられるのは、痛みをやわらげるための麻薬、全身倦怠感をやわらげるための副腎皮質ステロイド薬、放射線などで、患者さんの延命を目的とするのではなく、がんによる症状緩和を目的として治療が行われます。

根拠(参考文献)

  • (1)Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S. H. pylori infection and the development of gastric cancer. Keio J Med. 2002;51(Suppl 2):63-68.
  • (2)日本胃癌学会編. 胃癌治療ガイドライン (第4版). 日本胃癌学会. 2014.
  • (3)Kojima T, Parra-Blanco A, Takahashi H, et al. Outcome of endoscopic mucosal resection for early gastric cancer: review of the Japanese literature. GastrointestEndosc. 1998;48:550-554; discussion 554-555.
  • (4)Fukase K, Kato M, Kikuchi S, Inoue K, et al. Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial. Lancet. 2008;372:392-397.
  • (5)Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, et al. Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer.N Engl J Med. 2001;345:784-789.
  • (6)Folli S, Dente M, Dell'Amore D, et al. Early gastric cancer: prognostic factors in 223 patients. Br J Surg. 1995;82:952-956.
  • (7)Murad AM, Santiago FF, Petroianu A, et al. Modified therapy with 5-FU, doxorubicin and methotrexate in advanced gastric cancer. Cancer. 1993;72:37-41.
  • (8)Glimelius B, Hoffman K, Haglund U, et al. Initial or delayed chemotherapy with best supportive care in advanced gastric cancer. Ann Oncol. 1994;5:189-190.
  • (9)Pyrh-nen S, Kuitunen T, Nyandoto P, et al. Randomized comparison of fluorouracil, epidoxorubicin and methotrexate (FEMTX) plus supportive care with best supportive care alone in patients with nonresectable gastric cancer. Br J Cancer. 1995;71:587-591.
  • (10) Macdonald JS, Smalley S, Benedetti J, et al. Postoperative combined radiation and chemotherapy improves disease-free survival and overall survival in resected adenocarcinoma of the stomach and G.E.junction. Results of intergroup study INT-0116(SWOG 9008). Proc Am SocClinOncol. 2000;19:1a.
  • (11)Bozzetti F, Bonfanti G, Audisio RA, et al. Prognosis of patients after palliative surgical procedures for carcinoma of the stomach. SurgGynecol Obstet. 1987;164:151-154.
  • (12)Koizumi W, Narahara H, Hara T, et al. Randomized phase III; study of S-1 alone versus S-1+cisplatin in the treatment for advanced gastric cancer (The SPIRITS trial) SPIRITS: S-1 plus cisplatin vs S-1 in RCT in the treatment for stomach cancer. Lancet Oncol. 2008;9:215-221.
  • (13)Boku N, Yamamoto S, Shirao K, et al. Fluorouracil versus combination of irinotecan plus cisplatin versus S-1 in metastatic gastric cancer:a randomized phase3 study. Lancet Oncol. 2009;10:1063-1069.
  • (14)Bang YJ, Van Cutsem E, Feyereislova A, et al. Trastuzumab in combination with chemotherapy versus chemotherapy alone for treatment of HER2-positive advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer (ToGA): a phase 3, open-label, randomised controlled trial.Lancet. 2010;376:687-697.
出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行(データ改訂 2016年1月)