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大腸がん(結腸がん・直腸がん)の治療法執筆者:聖路加国際病院院長 福井 次矢

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大腸がん(結腸がん・直腸がん)とは、どんな病気でしょうか?

おもな症状と経過

 大腸は盲腸から始まって、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸と続きます。がんがよくできるのは、直腸、S状結腸で、下行結腸、横行結腸、上行結腸の順に少なくなっていきます。

 特有の症状はありませんが、下痢と便秘をくり返したり、腹痛、腹部膨満感などがみられます。また、便に血が混じることがあり、痔との鑑別が重要です。大腸がんによる血便は、暗赤色もしくは黒色をしています。肉眼で血便がみられなくても、便の潜血反応検査で陽性が続くときは、大腸内視鏡検査や注腸検査などの精密検査が必要です。

本人が気づかないまま出血が続くうちに、貧血になることもあります。

 このほか、大腸にはしばしばポリープができます。良性ですが、一部は放置するとがん化する可能性があるため、内視鏡を使って切除します。

病気の原因や症状がおこってくるしくみ

 大腸がんの原因はくわしくはわかっていませんが、食生活との関係が深いと考えられています。アメリカに移住した日本人の調査から、食生活が欧米化すると大腸がんが増えることがわかりました。とくに赤身肉をたくさん食べる人は、リスクが高いとされています。これは、動物性脂肪による細胞分裂促進作用や、動物性たんぱく質の加熱によって生成される発がん物質などが関係していると考えられています。

 一方、これまで食物繊維の豊富な野菜をたくさん食べると大腸がんの予防に役立つと考えられてきましたが、最近、予防効果はないとする研究結果が欧米とわが国で相次いで発表されています。大腸がんに限っては予防効果に疑問が出されていますが、食物繊維を豊富に含む野菜を食べることは、心臓病や糖尿病のリスクを低くするとされており、健康増進には役立ちます。

病気の特徴

 大腸がんは、日本人に増加傾向の著しいがんです。毎年約6万人が発症しています。男女差はありません。60歳代がピークで70歳代、50歳代と続きます。

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治療法とケアの科学的根拠を比べる

治療とケア 評価 評価のポイント
大腸がんを予防するために危険因子を避ける ★3 肥満や喫煙が大腸がんの危険因子となることが臨床研究によって確認されています。 根拠(1)
大腸がんを予防するために食物繊維を含む野菜類をとる ★2 これまで食物繊維を多くとることが大腸がんの予防に効果があると考えられてきましたが、非常に信頼性の高い臨床研究によって、食物繊維は大腸がんの発生に関連がないことが確認されています。ただし、野菜類を多くとることは健康増進によいので、専門家の経験から支持されています。 根拠(2)~(4)
早期大腸がんの場合 ポリペクトミーを行う ★4 ポリペクトミーとは、内視鏡を使ってポリープやがんを根元から切除する治療です。リンパ節転移の危険性が1パーセント以下の場合は、このポリペクトミーでがんを切除します。ただし、がんの組織型や浸潤の程度(周囲の組織にがんがどれだけ入り込んでいるかの度合い)などにより、ポリペクトミーが適さないこともあります。その場合には開腹手術を行うこともあります。これらの治療法の効果は信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(5)~(7)
内視鏡的粘膜切除術を行う ★4 周辺の粘膜に生理食塩水を注入して、がんを浮き上がらせ、内視鏡で切除する方法です。一般に大きさが3センチメートル以下の早期大腸がんに対して行われます。信頼性の高い臨床研究によると、85パーセント以上の割合で完全切除できると報告されています。 根拠(8)~(10)
リンパ節郭清を伴う腸管切除術を行う ★2 開腹して、がんのある腸管を切除し、周囲のリンパ節も取り除く手術です。議論できるだけのデータに乏しいようですが、経験的に行われることもあります。
リンパ節郭清を伴う腹腔鏡補助下大腸切除術を行う ★2 腹部を小切開し、腹腔鏡を使って大腸と周囲のリンパ節を切除する手術です。議論できるだけのデータに乏しいようですが、経験的に行われることもあります。
進行大腸がんの場合 リンパ節郭清を伴う腸管切除術を行う ★3 進行大腸がんに対する治療において、一般的に行われている方法です。ただし、広範囲のリンパ節郭清のメリットは乏しいとする臨床研究があります。 根拠(11)
リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下腸管切除術を行う ★3 進行大腸がんに対する治療においては、議論の余地があります。開腹手術に比べ、腫瘍の増大を抑えることが臨床研究で認められていますが、反面、腹腔鏡下手術に伴う合併症のリスクもあるからです。 根拠(12)(13)
手術補助化学療法を行う ★5 これまでの多くの臨床研究を総合的に分析した結果、ステージII期においては化学療法のメリットは確認されていません。進行度がデュークス(<a href="/dictionary/img/cure/903.png" data-featherlight="image" data-featherlight-after-content="this.$content.attr({oncontextmenu:'return false;'});">図</a>)BもしくはCの大腸がんに対しては、非常に信頼性の高い臨床研究によって手術後に化学療法を行った場合のほうが、なにもしなかった場合よりも5年生存率が改善したことが確認されています。 根拠(14)(15)
進行直腸がんの場合 低位前方切除術(括約筋温存術)を行う ★4 肛門を温存しながら、がんを切除する手術です。手術の安全性と効果が確立していることが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(16)
腹会陰式直腸切断術(Miles手術)を行う ★4 直腸と肛門を全摘して、人工肛門をつくる手術です。腹会陰式直腸切断術と低位前方切除術の効果には、差がないことが信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(17)(18)
腹腔鏡下前方切除術を行う ★2 術後の腸閉塞や痛みの軽減、入院期間の短縮につながります。ただし、長期的な効果については確認されておらず、今後、信頼性の高い臨床研究の報告が待たれます。
手術補助化学療法を行う ★5 ステージII期、III期の直腸がんでは、抗がん薬のフルオロウラシルをベースにした手術補助化学療法を行うことで、術後生存率が改善されたことが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(19)(20)
放射線療法と化学療法を併用する ★5 放射線療法と化学療法を組み合わせることで、無病期間の延長は認められるようですが、生存率には反映しないことが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。 根拠(21)

よく使われる薬の科学的根拠を比べる

抗がん薬

主に使われる薬 評価 評価のポイント
5-FU(フルオロウラシル) ★5 フルオロウラシル使用群では、無治療群と比べて死亡率が低下したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(22)
ユーエフティ(テガフール・ウラシル配合剤) ★5 手術単独治療群と術後にテガフール・ウラシル配合剤を使用した患者さんの群を比較した結果、テガフール・ウラシル配合剤使用群の患者さんのほうが生存率が上昇したという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(23)
フルツロン(ドキシフルリジン) ★2 ドキシフルリジンを単独で用いた場合、有効性を示す臨床研究は見あたりません。
5-FU(フルオロウラシル)+ミフロール(カルモフール) ★5 大腸がんの手術後、フルオロウラシルを使用してからカルモフールを追加使用した患者さんの群と、フルオロウラシル単独治療した患者さんの群を比べたところ、両者の間に生存率の差はありませんでしたが、前者のほうが再発率が低かったとの報告があります。ただし、カルモフール単独使用の場合の効果については、有効性を示す臨床研究は見あたりません。 根拠(24)
5-FU(フルオロウラシル)+ロイコボリン(ホリナートカルシウム) ★5 フルオロウラシルとホリナートカルシウムの組み合わせによって生存期間を延長し、再発率を低下させたという非常に信頼性の高い臨床研究があります。 根拠(25)(26)

総合的に見て現在もっとも確かな治療法

早期大腸がんなら、内視鏡で切除

 粘膜内にとどまる早期大腸がんでは、内視鏡によるポリペクトミー、あるいは粘膜切除術が行われます。このような早期がんについて、開腹ないし腹腔鏡による腸管切除術を行うべきかどうかについては、十分なデータは得られていないようです。体への負担が小さく、手技に伴うリスクが低いことから、現在のところ、内視鏡による切除(がんのみ、あるいは粘膜切除)が勧められます。

進行大腸がんでは、手術と化学療法を

 進行大腸がんについては、リンパ節郭清を伴う腸管切除術が一般的な治療法です。そして、がんがどの程度進行していたのか、また患者さんの全身状態にもよりますが、特別な理由がないようなら、手術後に5-FU(フルオロウラシル)と、ロイコボリン(ホリナートカルシウム)を組み合わせた化学療法なども行います。

直腸がんは、術後の生活の質(QOL)を考慮する

 直腸がんでは、肛門を残す低位前方切除術(括約筋温存術)や人工肛門形成術を伴う腹会陰式直腸切断術が行われます。これらの手術には、治癒や余命を延長させる効果があることが確認されています。排泄は生活のなかでも基本的な要素の一つであり、肛門を残せるかどうかは患者さんの生活に大きな影響を与えることになります。できるだけ術後の生活の質(QOL)を損なわない治療法の選択が勧められます。

肛門がんには、放射線療法と化学療法も有効

 肛門がんについては、かつては腹会陰式直腸切断術が第一選択でしたが、腫瘍径が3センチメートル未満の場合、放射線外部照射に化学療法を組み合わせると、手術と同等の治癒率が期待されることが信頼性の高い臨床研究によって報告されています。腫瘍の大きさによっては、患者さんへの負担が軽い治療法の選択が可能になっています。

禁煙や食生活の改善で予防する

 大腸がんの原因は明確にはなっていませんが、食生活との関係が深いと考えられ、とくに動物性脂肪や動物性たんぱく質の影響が示唆されているので、食生活の改善は予防につながるでしょう。また、喫煙が危険因子であることを示す臨床研究があり、禁煙が勧められます。最近ではアスピリンの定期的な服用によって、大腸がんによる死亡のリスクとともに腺腫やがんの発生のリスクも低下することが、信頼性の高い臨床研究で確認されています。

おすすめの記事

根拠(参考文献)

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出典:EBM 正しい治療がわかる本 2003年10月26日初版発行